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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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死の森

 

 この世のどこかにあるという妖精国の魔法用品製作販売ギルドの本拠地に灯明妖精のリリーはいた。

 魔法陣から、急な召還を受けたのだが、魔法陣の使用にはそれなりに魔法力を使うので、コストパフォーマンスの関係から、実家に帰る時以外めったに使用される事のない妖精ゲイトを使ってまでの用件は何かと身構えていたのだが、リリーはイェシカ国担当の係員に、最近王城で灯明妖精達の仕事に変わった事はないかと尋ねられ首をひねっていた。

「リリーさんは女王の評価まで得ていると聞いてるのですが、

 最近灯明妖精を解雇したいとか、別の無妖精代替魔法用品に切り替えたいとか、

 そんな話を噂でも聞いてはいませんか?」

「はあ、そんな素振り、誰からも感じられませんよ?

 イェシカは文化国家ですから、みなさん書物を大事にされるので、王城ではもう、妖精灯火器なしには立ち行かないと、司書さんには言われてる位ですし……。

 イェシカの闘神マリ様は、私達妖精が仕事をする様や、私共自体もこよなく愛して下さっているので、契約破棄とか、ありえないと言っていいと思います」

 ふむふむと係員はメモをとり、安堵した表情になった。

「すみませんリリーさん、急にお呼びたてしまして、私共が聞きたかったのは以上ですので、職場にお戻りになっていただいて結構です。

 あ、でもせっかくなので、ご実家で何日か休暇を取られたらどうでしょう?

 妖精ゲイトはいつでも使用できるように申し送りしておきますので」

 金にがめつい事で有名なギルドとも思えぬ発言に、リリーの方がとまどう。

 魔法力を使うにも、契約の魔法使いを使うので、お金がかる。だからめったに使用しないのに、本当にたったこれだけの事を聞きたかったのかと拍子抜けする。 

 と、いう事は……。

「で、どこの国で契約を切られたのですか?」

 リリーはとても鋭い妖精さんなのだ。

 ズバっと斬りこまれたギルドの係員は背中の羽を震わせて、緊張している事がばればれなのに、

「な、なんの事でしょう、我が魔法用品製作販売ギルドではそのような不名誉な事はあり得ませんよ。やだなあリリーさんたら。あはははは~っ」

 と、わざとらしく笑って見せたりする。

 これだけ態度が不審だと、何かあると、リリーならずとも誰でも気づくだろう。

「正直にお願いします。もしも契約を切られたとしたら、その理由があるはず、

 現場に帰り、それに基づいた対処ができなければ、イェシカでも契約を切られるかもしれませんよ?」

「いえ、それが理由がわからないから私達、困っているんですよ~あっ!言っちゃった!」

 誘導尋問とも言えないこんな罠に嵌まるなんて、イェシカ担当の妖精は簡単すぎだった。

「ふーん。まあ、しょうがないですね、でも、もう言っちゃったんだから、

 どこの国でそんな事になったのか教えて下さいな」

「ううう、リリーさん。さすが女王に信頼されているだけの事はありますね。

 素晴らしい洞察力です。感服しました」

 いいや、あんたがゆるすぎなのだ、とは言わないが、リリーはこの係員から取れる情報を逆さにして振っても何も出なくなるまで取ってからイェシカに帰ろうと心に決めた。



 リリーが妖精の国で係員を追い詰めていた頃、ファーナムの闘神も目標の相手を追っていた。

 闘神が1人の人間を追跡するのはとても簡単な事だ。

 ファーナムの闘神ヴォルフラムは茉莉からバトンを受けて、ファーナムの貴族を名乗り、イェシカ王家に堂々害なした人物を援助、もしくは、裏で操っていたのではないかという嫌疑のかかった男を超長距離を保ちつつ追っていた。

 その男は正規のファーナム~イェシカの乗り合い定期船に乗船し、ファーナムの王都、ユーディトに一番近い港町のカトヤに着いた。当たり前の客と何ら変わった所はないが、情報収集に人質の命を持ち出し、家族を脅している。それは許し難い行為だ。ヴォルフラムは茉莉の考えた通りの闘神で、人好きのする性格そのものが彼を表している。自分の正義を人に押し付ける性質ではないが、今追う相手の事を考えると、じりじりと炙られるような怒りが彼を足元から追い立てる。

  ファーナムの王、ヴォルフラムのジークフリートは、外交に関しては殊に穏健を保っている。自分の父、祖父の時代の少々粗暴な外交のせいで、国外に敵を作り過ぎた事を反省しての事と、脈々と好戦的なファーナム王家の血筋を受け継ぎながらも、奇跡のように穏やかで、思慮深く、揺るぎない己の正義に背を添わせるその人柄のおかげでもある。

 しかし、もし、自分と茉莉が偶然にも知り合いでなかったなら、もしかすると今頃イェシカ側から何らかの詮議をファーナムが受けていたかもしれない。

 そうなれば、いかに王がとりなしたとしても、国内の領土奪還派の要人達を抑えておけなくなり、最悪開戦の可能性もあった。

 民人の幸福を願ってやまない王を、戦地に立たせるのは、ヴォルフラムにとっては苦痛だ。人々の暮らしが破壊され、踏みにじられる様を、決して見せたくはない。王城で駒の様に兵士を動かす命令だけしていれば、少しはその苦しみも薄れるかもしれないが、性格上ジークフリートが直接の指揮を人任せにしておけるとは思えず、戦場に来ないわけがなかった。

 ただでさえ、隣国アスランとも一触即発一歩手前のような状態なのだ。本当にあの花園での出会いは神の導きであったとしか思えない。

 しかも、その後自分と茉莉の私闘が、茉莉に初戦の申し込みが全くない事で、どんどん価値のあるものになってきた上に、細々と交流を続けたおかげで、こうして自分達を信用して、国の柵も、難しい外交もすっ飛ばして、信頼を得る事までできたのだ。最近ではジークフリートに、あの時「考えなし」と言ったのは訂正する。よくやったとまで言われている。

 それだけに、この任務、失敗は許されない。

 ファーナム最高峰の警備員は職務に燃えに燃えていた。

「それにしても、本拠地はもしかしてユーディト(王都)なのか?

 だとしたら、大胆にも程があるな。

 イェシカ側からの追跡を気にしていないか……茉莉さんが気にしてた通り、

 わざと追わせているのか、まあどっちにしてもさっさと本拠地まで連れてって欲しいもんだ」

 闘神と違って、地道に旅路を行く容疑者は、馬に乗りはしたものの、王戸都ユーディトに着くまでずいぶんかかりそうだ。

「むう、普通の人の移動がこんなにゆっくりだったとは…あのおにぎりも遠路はるばる来てたんだなあ」

 一度受け取って、お礼を送り返したおにぎりの材料は、定期的に今もファーナムに送り届けられている。

 容疑者の王都おそらくまでの道のりは遠い。これは茉莉達に報告をするのにはまだ随分かかりそうだなとヴォルフラムは思いはじめていた。

「そういえば、ジークフリートとこんなに離れているのは、聖地巡り以来だな~」

 どこの闘神も同じ道を歩んでいる。

 特にヴォルフラムは降臨時、国外からの脅威はイェシカの比ではなく高かったため、寸暇を惜しんで聖地(茉莉の言う所のパワースポット)を回りまくった。今まで実戦を経験していないのは、ひとえにジークフリートの尽力の賜物なのだ。

 そんな事をつらつら考えていると、ターゲットが人気のない森を突っ切るルートに入った。確かに、もう一つの道幅も広く、拓けた道より、ショートカットできるのだが、しかし、男とはいえ昼なお暗い道を選ぶとは、この男は少々どころか、かなり先を急いでいるに違いない。

 ヴォルフラムは視覚に頼らず、サーモグラフで後を追跡ていたが、ほどなくして、事態は急展開した。

 男の前方に人のものと思われる熱源が多数現れた。

 この辺りで盗賊が出たという話は聞いていないので、最初ヴォルフラムは旅人だと判断していたのだが、男とその熱の群れが出会うと、一時そこに留まったターゲットの熱が急速に下がって、落馬した。

 これにはさすがの闘神もどうしようもなかった。

 その集団は男の落馬直後、そこから直ぐに元来た方向へ立ち去ったが、この森は出口まで馬を使っえる道は1本しかない。ヴォルフラムはいつもでも追いつける集団は追わず、急ぎ現場に駆け付ける。

 ヴォルフラムがそこで見たのは、イェシカから追っていた男が、血まみれで倒れている姿だった。

「おい!大丈夫か!しっかりしろ」

 どう見ても出血は致死量だった。無敵無双の闘神も、人の生死に対しては全く無力なのだ。ヴォルフラムに出来る事は、せめて最後にこの男から末期の言葉を得る事くらいだ。

「……あ、あなたは…闘神様……」

 幸いな事に、死亡を確認する前に放置されたので、抱え起こすと意識がまだあった。

 世にも珍しい髪の色で、瀕死の男にもヴォルフラムが何者か分かったのだろう。

「そうだ闘神ヴォルフラムだ。何があったか話せるか?」

「お、お許しを…私は………ファーナムを裏切りました

 私はもう…いけません……せめて助けて……イェシカの……」

 そこまで言うと男は大量の血を吐しゃし、いよいよ体温を奪われ、意識を失った。このまま目覚める事はもうないだろう。ファーナムの闘神はせめてひとりでは死なせまいと、男の最後を見届けた。 

 

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