闘神パレード
その場の視線を一身に集めながら、女王クリスティーナは己の闘神に、豪快に土下座をきめ続けていた。
イェシカの常識を知らない茉莉は、もしかしてこれって、イェシカ的には、わりとよくやる礼の方法とかなのかもと思い、周囲を見回すと、皆、ポカンとした表情や、あからさまに驚愕の表情を見せている。どうも、非常識的な行為のようだ。
「はいっ了解しました!承りました!全力でお護りします!まかせて下さい!だから土下座は勘弁して~」
「ありがとうございますっ」
茉莉の悲鳴に似た返事を聞くと、勢いよく顔を上げたクリスティーナに再び歓声が上がる。
「もー絶対やめてねこれ」
「あら、でも、アキラ様が人に誠意を込めてお願いしたり、謝罪する時は、これがあちらの正式なやり方だと仰っていたので…」
父さん次に会ったら、キュっていわしてやる!キュって!!と、茉莉は心に誓った。
「では神官長、闘神祭を続けましょう!」
立ち上がると、大捕り物の後だというのに、すっかり平静な顔を取り戻した女王がそこにいた。
胸元の綻びさえなければ、まるで何もなかったかのような態度に、この子大物だあ!と今更ながら感心すると同時に、私の女王様ってすごいなと、誇らしくなる。
「で、ではこちらに」
2人で壇上に立ち、残り少ない儀式をこなす。
先程までは、慣れない芝居と怒涛の展開に緊張していたので、他の事を考える余裕などなかったが、クリスティーナの真っ白なドレスと、この構図に、茉莉は何か既視感覚えた。
『あれ、なんだっけ?こういうのよく見た記憶があるんだけど…』
「さあ、マリ様、城下で市民が待っていますよ」
儀式が終わり、壇上から降り、クリスティーナと連れ立って、左右に分かれた人々の間を、赤い絨毯を踏みしめながら、歩いて行く。入場の時と違うのは茉莉が神刀を背負っている事位だが、気持ちの持ちようが大いに違っていた。
降るような拍手で見送られる2人…。
クリスティーナは今更ながら、茉莉の体をできるだけ隠そうとピッタリと寄り添っている…。
「あー!わかったぁー!」
やっと合点がいった茉莉は小さく叫んで、小声でクリスティーナに思いつきを報告する。
「あのね、私の育った所で、結婚式ってこんな感じなんだっ。花嫁さんはクリスティーナみたいな白いドレス着るの」
口に出すと益々その考えがピッタリに思えてくる。
「今の状況、めっちゃ新郎新婦の退場に似てるー!花嫁さんがクリスティーナなら、花婿さん私か!ウケル~!」
開けっぴろげな茉莉の笑顔に、女王は瞬間的に耳まで赤くなった。
色が白いだけに、変化がよくわかる。
自分の言葉がクリスティーナにもたらした変化に、茉莉も逆に意識してしまった。
「た、確かに、この闘神祭は、私共の結婚の儀式とも似ています。は、初めて気がつきましたわ。お、おほほほ」
いつもより1オクターブ、クリスティーナの声が高い。
「そうなんだ、どこの世界でも、結婚式ってこんななんだぁ。面白いねえ。アハハハハ」
茉莉に至っては、どうしようもなく、棒読みになっていた。
結婚式、結婚式と、言葉をくり返す事で、2人とも更に意識してしまった。
城内の北から南までほぼ縦断する絨毯を、後半2人は妙にギクシャクと歩いた。
おかげで、外への大扉の前につく頃には、茉莉も闘神祭中の騒動から気持ちの切り替えができていた。
扉を開く寸前、アンヌが素早く茉莉に駆け寄り、闘神祭の間、式に参加しない神殿の仲間達と一心不乱に縫い上げた巻きスカートを、闘神の腰に素早く装着した。
茉莉も、たくし上げてブラ状態だったものを闘神の便利能力で、仮縫いの糸をほどき、チューブトップに戻した。
おかげで盛りが半減したが、女王をこれ以上心配させるのも可哀想なので、よしとした。
「アンヌ、グッジョブ!」
茉莉は親指を立てて、女性神官を賞賛した。
通じないかと思った言葉と仕草は、心意気で伝わったらしく、アンヌの顔はほころんだ。
「これで思い切り立って手も振れるねっ」
「はい。皆も喜ぶと思います。私も安心しました」
女王も納得のいった所で、中央広場への扉が静かに開き始めた。
城内も明り取りの窓がふんだんにあるので、暗いわけでもなかったが、外気を感じての、春の陽光は格別なものがあった。
茉莉がその光を十分に堪能する間もなく、割れんばかりの歓声が、どっと空気を震わせた。
これまた赤い絨毯の敷かれた広場までの階段を降りて、用意された馬車に乗る段取りになっている。
周囲の建物の上階から、ミンミの花や花弁が撒かれているのを見て、『これ、まんま結婚式じゃん』と茉莉は思った。
民衆のハイテンションに茉莉もなんだか触発され、『だったらとことんやるべきでしょう!』と傍らのクリスティーナに「あっちの結婚式は、最後にこんな事したりする人達もいるよ」
と悪戯っぽく言うと、白い絹のドレスに身を包んだ華奢な体を抱き上げた。
得意の怪力無双で、世界一安全なお姫様抱っこをする。
見ていた観衆からは、さらに大きな歓声が送られた。
「あのう、マリ様、こ、こちらの結婚式では定番です…これ」
闘神様はどうやら、とっても、やらかしてしまったらしい。
「ひゃっごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど、よし、じゃあ、あっちでも、こっちでもしない事して誤魔化そう!」
どんなつもりだったのか気になったクリスティーナだったが、茉莉が彼女を抱いたまま階段を駆け下り始めたので、深く考えていられなくなった。
中ほどまで駆け下りた茉莉は、あろう事かこの国の女王様を抱っこしたまま、大ジャンプをした。
緩やかな弧を描き、長い滞空時間の後、2人は無事、馬車に降り立った。
これは普通できまいと、茉莉は満足したが、女王は落下のGを初体験してしまい、軽く失神しそうだった。
2人を乗せるためのドアマンとして、馬車の扉を開いて待っていた御者は、顎が外れそうな程口を開けてその様子を間近で見ていたが、主役の2人に揃って心配そうな顔を向けられたので、素早く口と扉を閉めると、馬を操るために御者席についた。
その後のパレードは建国以来、最も目の保養になった闘神パレードとして、長く人々の記憶に残ったという。




