廃位要請
新闘神の、力の有無を問い正したベッティル・エクストレームの言葉に、大広間は静まりかえった。
誰もが、女王の返答を待って固唾を飲む。
「無礼な!私が召喚した闘神の力を疑うという事は、私の女王としての適正を疑うということと、同意義ですよ!」
とても齢16とは思えない恫喝だったが老臣は全く怯まないどころか、更に畳み掛ける。
「闘神様、どうぞ、その神刀をもう一度お手に取って下さい」
言われた茉莉はの表情は、女王の背に守られて誰にも見えはしなかったが、素直にもう一度、柄に手を伸ばした。
「さあ、無双の腕をお示しください!」
エクストレームの言葉にせかされて、腕に力が入るが、床に落ちた神刀は、刀身を宙に浮かせる事はなかった。
「どうやら、この方は真の闘神様ではないようですな」
「なっ、何を言うのです!マリ様は私が確かに召喚したした闘神様ですっ証人も大勢います!」
クリスティーナの弁明に、エクストレームが首を振って答える。
「陛下がその方をお呼びになった事は認めましょう。だからといって、闘神様だという証明にはならない!なぜなら……」
老臣は一呼吸置いて、その場にいる者達を一度振り返って同意を得るような目線を送り、遂に一線を越える事実を言い放った。
「あなたが、女王だからです陛下。やはり、女王に闘神を召喚する事はできなかったのです!その方は異世界の何の能力もない、ただの娘にすぎないのです!」
「いいえ、いいえ!この方は確かに前代アキラ様のご息女です!闘神様なのです!」
「陛下、どのようなお血筋でも、その力がなければ、この国を護る事はできなのですよ。それは、陛下にも言えることと思います」
「何が言いたいのですがエクストレーム!」
「陛下に闘神を呼ぶお力が、なかった。という事です」
忠臣の誉れ高いベッティル・エクストレームは、今までの忠義を忘れたかのような冷たい言葉をクリスティーナに浴びせかける。
「陛下、せっかくこうして国中からお歴々が集まっているのですから、御廃位を宣言されるべきです。神刀を持ち上げることもできないのですから、その方は闘神様ではない。そして、あなは、この国の女王では、もはやないのです」
「いいえ!いいえっ!」
これで話は終わったと、壇上から降りようとした彼に向かって、クリスティーナはヒステリックに叫び始めた。
「私は、この国の女王です!廃位などしません!マリ様こそが、この国に天が使わされた、唯独りの闘神様なのです。マリ様がおられる限り、他の闘神様はお渡りになりはしない!私は父のように、死ぬまでこの国の女王です!」
とても、普段の聡明な彼女からは想像できない、愚昧で哀れな変貌に、その場にいた誰もが、彼女の血族の時代の終焉を感じ取った。エクストレームと前夜密会した者達は、無言で確認しあうと、今こそ約束を果たす時が来たと、彼から渡されていた物をいつでも取り出せるように身構えた。
「なんと愚かな…私たちが、陛下の自尊心を慮って、自ら身をお引きになる道を残したのが解らないのですか?」
「解りません、あなたたちは、いいえ、あなたは自分が王になりたいだけなのでしょう!私は決して廃位などしません!マリ様は今はお力はなくとも、きっと天がお授けになります!私はこの国の女王です!お前などにこの王冠を渡しはしない!この逆賊がっ!」
もはやクリスティーナは、女王の威厳をかなぐり捨ててしまったかのような取り乱し方だった。
その彼女を護るべき闘神は、全くこの騒ぎを納めようという素振りもない。ただ、事の成り行きを呆然と見守っているだけのようだ。
エクストレームは遂に、右手を上げて周囲に合図を送った。
「陛下、残念です。闘神召喚に失敗した今、もう一度この国に真の闘神様を呼ぶには、これしか方法はありません。御自害の道を閉ざされた事、残念です」
そういうと、胸元から小柄を取り出し、鞘から素早く出すと、銀色に輝く小刀を振りかぶった。
「私達も、エクストレーム殿と同じ想いです。陛下これがここにいる者の総意です」
自分も、自分もと、この言葉に続き、エクストレームの賛同者達が揃いの小刀を構えた。
「あなたたち、まさかそれで私を?」
女王が逃げようとする素振りを見せたのを合図に、十数本ものその刃は、彼女の体に吸い込まれていった。
誰もがこの時、彼女の短い人生が終わったと思った。
この斬殺劇に参加した、ほとんどの者以外は…。




