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私は、あなたの闘姫  作者: まるみふみ
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闘神祭

 闘神祭の始まりを告げる、神殿神官長の声と共に入場してきた女王とその闘神を見て、人々はどよめきの声を押し隠せなかった。

 女王の、若く美しいことは周知の事実だったし、異世界から渡って来た当代の闘神が女性である事も、大々的に発表されたわけではないが、荒野で召喚の儀式を目の当たりにした者達から人づてに伝わり、今では広く知れ渡っていた。 

 だから今更、2人を目にして驚くこともなはずの、彼らの度肝を抜いたのは、闘神の服装だった。

 金に彩られた美しい細工の装身具は、先代の闘神が改まった場で身に着けていたものに良く似ていたが、その下の衣装が、彼らの驚愕を呼んだ。いや、見ていた者の多くが思った事を代弁すれば、彼らの常識からすれば、それは衣装ではなく、ほぼ裸。よくて下着だった。

「これはまた、やってくれる…」

 老臣下のエクストレームは、孫のような年頃の娘っ子が、精一杯考えただであろうパフォーマンスに、ついつい口元が緩みそうになるのを堪えなければならなかった。

「エクストレーム殿の言った通りの有様ですね」

 すぐ隣の男からかけられた、あきれた風なつぶやきに、エクストレームの表情は、一瞬にして厳しいものに取り繕われた。

「ええ。陛下は、このまま騙し遂せると思われているようだが……あの闘神に国を任せるわけには、いきますまいよ」

 2人でひっそりと交わしていた会話だったが、エクストレームの周囲で、彼の動向に注意を向けていた人々から「そうだ、そうだ」と同意のささやきがもれる。

「私も、賛同したものの、実際に行動に移す勇気が持てるか、自信がありませんでしたが、あの闘神様のご様子では我々がなんとかせねばと思います……」

「ええ、私もです。これを置いて来ようかと思っていたのですが、決心がつきましたよ」

 そう言って懐を触り、そこに何かを隠し持っていると暗に示した。

 エクストレームの周囲には名だたるイェシカの領主である貴族達が集まっていた。主役の2人が広間奥の舞台へ進む赤い絨毯を中央に、臣下達が左右に居並ぶその先の、一番儀式の見える特等の場所なので、席次的には異常ではなかったが、彼らの漂わせる緊張感は、久しぶりの闘神祭だから。とは、思えないものがあった。

 

 エクストレームはここ何日かで、少しでも次期国王候補に手の届く可能性のある、国の有力者全てに声をかけていた。そして昨夜、城に全員揃った所で、彼の計画に協力を求めた。たいした危険はともなわないものの、万が一失敗すれば、少々面子を失う危険がある計画に、難色を示す者もいたが、最後にはエクストレーム1人が責任を取る旨を、書面にした上で、全員に署名して渡したため、渋々というポーズを取りながらも、参加離脱を申し出る者は結局いなかった。

 そして今日、女王の闘神を見て、エクストレームのはかりごとが、是非であると確信したようだ。

 だが、エクストレームは、その中の誰かが、もしくは複数が、純粋に自分の計画に参加しているのではないと予想していた。この計画に便乗して、事を起す人物。そのあぶりだしこそが、彼の狙いだ。もしかすると、彼の仕掛けに乗っては来ないかもしれないし、そもそも、自分の追う相手ではないかもしれないが、今をおいて、この方法を使う事はできないのだ。

 細工は上々と言うには時間がなかったが、短時間だからこそ、情報漏えいの危険も少なく、相手に考える時間を与えずに済んだのではと、エクストレームは思う。

 しかも、目の前をトコトコと歩く闘神の、肌を大胆に晒したため隠しようのない、華奢で少女らしい、ふんわりとした肢体は、彼が方便で伝えた闘神の秘密を裏付けるようで、効果抜群と言えた。『闘神様よくやった!』この日、新闘神の姿にそんな感想を抱いた人間は、城内でおそらくエクストレーム唯1人だっただろう。


 そんなエクストレームの心の喝采を知らない茉莉は、その格好を今更ながら、ちょっと後悔していた。露出が多いとはいえ、セパレートの水着を着ていると思えば、どうってことないと思っていたのだが、それは、海やピールで皆が同じ格好をしているからであって、大勢の着飾った老若男女の前で1人だけ水着だったら、恥ずかしいに決まっている。クリスティーナがいなかったら、走って逃げ出したい所だ。

 茉莉は衣装を見せたときの、クリスティーナのお説教を思い出していた。

 思えばこちらに来てから、彼女の怒った所を見るの初めてだったなと気付く。「そのような服装、どのような下賤の者でもしません」とか「とてもそんな必要があるとはとても思えません」だの、淑女的お小言を最初言っていたのに、「マリ様の肌を人に見せるなんてだめです!例えマリ様がよくても、わ、私が我慢なりません!私のマリ様なのに!」と可愛い事を言われたので、思わず嬉しくなってしまって、あまり怒られた自覚がなかったのだ。

 今となっては、もうちょっと真剣にクリスティーナの話を聞いておけばよかったと後悔しているうちに、2人は神官長に辿りつき、闘神祭の儀式は始まってしまった。

 儀式には細かい取り決めがあって、いろいろ誓わされたり、細々とした神事にまつわる物を受け取ったり、それをクリスティーナに渡したり、渡されたりと、茉莉は予行練習通り、そつなくこなしていった。

 式の終盤、これだけは練習できなかった、神刀の受け取りの儀式でそれは起こった。

 壇上に数人がかりで持ち込まれた神刀を、茉莉が受け取り、天にかざすという段取りだったのだが、茉莉はあまりの重さに、それを持ち上げられず、落としたのだ。

 それまで、物音ひとつ立てず、静かに見守っていた人々は、その事態にざわめいたが、「神官長、問題ありません。続けなさい」と女王が促したため、そのまま儀式は続行されようとしたが、この時を待っていた男の声に阻止された。


「陛下、とても問題ないようには思えません。これはどういう事でしょう。ご説明願えませんか?」 

 エクストレームはそう言うと、壇上の2人に近づいていった。

 それに、十数人の国の有力者達が続いた。

「何ですあなたたちは、まだ儀式の途中です。下がりなさい」

 クリスティーナは彼らの行動に、気丈に対応した。

「いいえ陛下、私はご帰還の際に、申し上げたはずです。皆に納得するよう、ご説明くださるようにと、今がその時です。どうして闘神様は、神刀を我等に掲げ見せて下さらないのですか?」

「それは……」

 詰め寄るエクストレームから、茉莉をかばうように後退しながら、女王は答えられないでいた。

「どうなのですか?」

「……」

 だんまりを決め込んだ女王に、エクストレームは城内で今、囁かれている噂を、ことさら大声で問いただした。

「もしや、当代の闘神様は、何のお力もないのではありませんか?」

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