12章 王国離脱編 24話 馬を買おう
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豪商キンポ野郎に多額の金貨を支払い、辺境都市ノスガンまで荷台を引っ張ってもらいながら街道をゆっくりと移動している。
御者の役割を失ったラニアは、俺に大金を支払うことになったことで責任を感じているようだ。
俺が話しかけても謝るばかりで彼女の心が疲弊してしまい逆効果になると思い、今は話しかけるのをやめて距離を取ることにした。
しばらくすることのない俺は隠密スキルを発動し荷台から降りて、この大規模な商隊に同行する護衛の冒険者達を鑑定スキルで調べると、AランクかBランク相当のステータスを持つ人材だったことがわかった。
(莫大な資金力で大勢雇い、安心を買ったのか・・その金も俺の払った金貨でプラスとはね・・)
辺境都市ノスガンまでの苦痛の旅は、魔物の襲撃があったものの高ランク冒険者の護衛がいたため危なげなく対処し移動を続ける。
俺達だけであれば、リルとクウコの無慈悲なる殲滅で魔物達を排除できるものの、今はそれをさせないでゆっくり休めさせている。
それからラニアの見積もりから1日多い5日野営して、目的の辺境都市ノスガンの街並みが見えてくる。
「やっと街が見えてきたね、ハル」
「そうだね、カラ・・この街で馬を手に入れないと」
「あの・・ハルさん」
久しぶりにラニアから声をかけられる。
「どうした、ラニア?」
「・・その、馬の調達は私に任せてもらえませんか?」
遠慮気味に話すラニアを見て、自信を取り戻すため俺はラニアに任せることにしてアルシアとアメリアを同行させることに決めた。
「お〜い!兄ちゃん、引っ張れるのはここまでだ!」
荷台を引っ張ってくれていた馬車の御者の青年が声をかける。
「え?・・まだ街まで距離がありますよ?」
「悪りぃな・・キンポ様の命令は絶対で俺も仕事を失う訳にいかないからな・・」
「・・・・はぁ、わかりました、ロープを解きますね」
リルに手伝ってもらいながらロープを解くと、俺達の荷台を置き去りにして、青年の馬車は走り去って行く。
「置いていかれちゃったね・・」
「そうだね・・リル」
もうこれ以上進む手段を失った俺は、ここで野営をすることにして大型テントの設営を済ませた頃には夕方になっていた。
いろいろと疲れていたため、夕食は携行食の肉串とパンで済ませ夜を過ごし翌朝を迎えた。
「今からあそこの街に行って、俺とラニアで馬を買ってくるよ」
焚き火を囲み朝食を食べている時に皆に伝える。
「2人で行けば、今日中にはここに戻って来れるかもだし」
「もし馬が見つからなかったら?」
カラの質問に俺は笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。ちゃんと見つけてくるから」
朝食の片付けをカラとアメリアに頼んだラニアが俺のところへと小走りに来る。
「お待たせしました、ハルさん」
「そんな慌てなくていいよ、ラニア」
「いえ・・」
「それじゃ、みんな行って来るね。何かあったら念話でよろしく」
野外イスに座るリル達が手を振っているのを見ながら、ラニアの手を握り隠密スキルを発動する。
「ハ、ハルさん?」
「ラニア、ちょいと飛ばすから背中に乗って」
「は・・はい」
ラニアを背中に乗せて街道を走り防壁が見える辺境都市ノスガンを目指す。
「はわわわわわ・・・・」
背中からラニアの小さな悲鳴を聞きながら街道を快調に飛ばし2時間ぐらいで門兵がいる門が見えてきた。
「よし、思ったより早く着きそうだな」
速度を落とし歩くペースになってから隠密スキルを解除して背負っていたラニアを下ろす。
「はぁ〜〜〜」
「お疲れ、ラニア」
「もうスカートを押さえるので必死でしたよ・・」
「そっか・・背負ってたから、チラ見ができなかった」
「なっ・・なにを言ってるんですか・・いつもしてるじゃないですか」
「違うんだよラニア・・見せるのと見えたは違うんだよ・・」
「もう、なにが違うのかが、私にはわかりません!」
「ちょっ・・ラニア?」
顔を赤くし先に歩いてしまうラニアの背中を追いかけるように俺は慌てて歩き、並んで門兵の点検待ちの列に並んだ。
「次の者!・・身分証を」
俺達の番となり、門兵に言われてからギルドカードを提示する。
「・・メイド連れなのに歩きか?」
「はい、途中で山賊に襲われまして・・」
「そ、そうか・・大変だったな」
「まぁ、命が無事であれば・・」
「・・・・ふぅ、通っていいぞ」
「税は?」
「あぁ、この街の買い物とか宿の料金に含まれているから支払う必要は無い」
「・・どうも」
無事に街に入れたことで、門の近くにあるはずの馬車預かり所を探す。
「・・ありました!あそこです!」
先に見つけたラニアが指差す方向に、それらしい店がある。先走るラニアについていき店の前に着くとたくさんの馬車が預けられていた。
ラニアは率先して店に入り、馬の世話をしている少年に声をかける。
「あのぉ、ここで馬を売っていますか?」
「馬?・・メイドのお姉ちゃん、馬が欲しいの?」
「はい。主様からの言い付けで馬を買いに来たの」
「そう・・・」
少年は、返事をしながらラニアの後ろに立つ俺に視線を向ける。
「どうも、私は使用人の者です」
「・・わかったよ。裏にいるからついて来て」
「ありがとうございます」
馬の世話の途中だった少年は、持っていたブラシを近くの机に置いて裏へ来るようにと俺達を案内してくれて、少し広い裏庭のような場所に出る。
「ん〜と〜売り出している馬は、この4頭だよ。それで、目的は騎馬用?それとも馬車用?」
「馬車用と言われております」
「そっか・・なら1頭しかいないから、一択でこのクォタホース種のコイツだね。
ガッチリとした体格で真っ黒なたてがみと温厚そうで潤んだ瞳で俺を見ている気がする。
「あの、どうでしょうか?」
「そ・・そうですね、この馬なら主人様も満足してくれるでしょう」
少年の前では、メイドと使用人という関係のためぎこちない言動になってしまうも、少年は馬が売れることで頭がいっぱいのようで気付いていない。
「それで、お値段は?」
「金貨100枚だよ」
「「 やすぅ! 」」
少年に見えないようラニアに金貨100枚を背後から手渡し、それをラニアが少年に手渡す。
「ありがとう!・・登録証を渡すから、ちょっと待っててな」
少年は嬉しそうに奥の事務所へと走って行き、しばらくしてから紙を手にして歩いてくる。
「これが、うちの売却証明証と登録証だ。ここに名前を・・お姉さんじゃなく主人の名前ね」
「は、はい・・そうですよね」
なぜかラニアは俺をチラ見してから、嬉しそうに俺の名前を書いている。
「・・珍しい名前だね」
「そうですか?私は気に入っていますよ」
「ふ〜ん・・変わったメイドのお姉さんだね」
それからラニアと2人で店の前で待っていると、手綱をひっぱり馬を連れてくる少年が店の脇道から姿を見せる。
「お待たせ・・手綱は買ってくれたサービスだから」
少年から手綱を受け取ったラニアは、馬の顔を優しく撫でる。
「すごいねお姉ちゃん・・その子、もう心を開いてるよ」
「ふふっ・・このことは通じ合うものがあるかもです」
そう呟くラニアを見て、本当に馬好きなんだなと思っていると満足したのか俺を見て頷く。
「ん????」
「主様のところへ戻りましょう」
「そ、そうですね」
少年に礼を伝え入って来た門を目指す。
「あれ?・・もう街を出るのか?」
「はい、目的の馬を買えましたから」
「そうか、気を付けてなお二人さん」
「はい、また近いうちに」
門を抜けたところで馬に乗ろうとも鞍が無い・・このまま歩いて戻ると完全に夜になってしまう。
「ラニア、どうやらやっちまったね」
「そうですね、どうしましょう?」
「また背中に乗ってもらうしかないかな?」
「えぇ〜またですか?」
「もちろん」
ラニアに手綱を持たせて、俺は屈んでラニアを背負う。
「覚悟はいい?」
「うぅ・・最初はゆっくりで、お願いしまぁぁぁぁぁぁ・・・・」
ラニアの悲鳴を聞きながら街道を走り、それを余裕の表情でついて走る馬に驚きつつ休むことなく2時間走り抜いて、皆が待つ野営地に辿り着いたのだった・・・・。




