12章 王国離脱編 12話 地方都市ハバール①
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遠ざかって行く地方都市ニシバルの眺めながら街道を北へと走り次の地方都市を俺達は目指す。途中で3夜ほど野営して4日目の昼前に地方都市ハバールが見えてきた。
「ハルさ〜ん!街が、街が見えてきましたよー!」
御者台から聞こえるアメリアの声を聞き、荷台の幌の上にいた俺は御者台へと移動しアメリアの隣に座る。
「アメリア、やっとだね・・」
「はい・・お疲れ様です」
「疲れたのは、アメリアの方だよ?御者を変わるよ」
「い、いえ・・私の務めですから」
遠慮するアメリアが持つ手綱を強引に奪い取り、休むように伝え荷台へと下がらせる。本当の目的は、ラニアと2人きりで話しがしたかったからだ・
「・・・・ラニア」
「はい、なんでしょうか」
「何か俺に隠していることない?」
「・・・・ハルさんに隠していることは、ありませんよ」
「・・そっか。・・はい」
持っていた手綱をラニアの顔を見ることなく渡して、俺はそのまま幌の上へと移動した。
「ハ、ハルさん?」
ラニアに呼ばれるも俺は幌の上で寝転がり、街に近くまで寝て過ごすことにした。
「みなさん、そろそろ着きます」
アメリアの声で目を覚ました俺は、荷台の後ろ側から中に入り座り身分証を持たないアリスをカラの隠密スキルで隠し門兵の点検を受ける。
「旅の者か?」
「・・はい」
余計な会話をすることなくラニアが門兵の対応をする。
「後ろの者達は?」
「護衛の冒険者と、その奴隷です」
「奴隷の主人を呼んでこい」
「はい・・ハルさんこちらへ」
俺は荷台から降りて門兵の前へ移動する。
「キミが奴隷の主人か?」
「はい、そうですけど」
「そうか、すまないキミはこっちに来てくれるか?」
「はぁ・・別にいいですけど」
「ありがとう、協力を感謝する。馬車はもう入っていいぞ!」
「でも・・」
門兵が馬車が入るのを許可するも、俺だけが呼ばれたためラニアは戸惑っている。
「先に行っててくれ。後で合流するから」
「・・・・はい」
馬車はゆっくりと動き出し俺と門兵が残ると、詰所から新たに数人の門兵が俺を取り囲むように立つ。
「・・それで、この後俺はどうなるんだ?」
「・・とりあえず、ついて来い」
俺を取り囲む門兵は帯剣しているも抜剣する様子が無いため、このまま素直に相手の指示に従い俺は前を歩く門兵の後を歩き詰所の中へと入って行く。
細い廊下を歩き奥にある開かれた扉の部屋に入ると、ソファに座る金髪碧眼の男が微笑み俺を出迎える。
「ようこそ・・やっと逢えたね」
「・・あなたは、誰ですか?」
「まぁまぁ、立ってないで座ってくれたまえ。それと、君達は外してくれるかい?」
「し、しかし護衛が・・」
「スタリー兵長、その心配は無用さ・・僕が保証する。さぁ、業務に戻ってくれたまえ」
「・・わかりました・失礼します」
「ありがとう」
門兵達は、渋々部屋から出て行き部屋のドアをゆっくり閉めて廊下を歩く音が離れて行く。
「・・・・」
「さてと、邪魔者はいなくなったね。まずは、自己紹介をしよう。僕は、25代目地方都市ハバール領主であるイーサン=ブレイドだ。一応公爵家の生まれで貴族なんだ」
「領主様?がどうして、平民の俺に用件が?」
目の前に座る爽やかな笑顔を見せるイケメン領主の意図が読めず警戒する。
「そうだね・・まずは何から話そうかな。僕が興味あるのは、キミが黒髪黒目を持つ存在だからだよ。それと、もう一つは僕の父が関係していることかな」
「領主様の父親と俺が関係しているのですか?」
「実はそうなんだよ・・僕の父さんは元王国騎士団員で、当時は上の方の地位の役職に就いていたんだよ」
「はぁ・・・・」
領主イーサンは、組んでいた足を組み直して告げる。
「君は・・王国に召喚され廃棄された少年だね?」
「・・・・」
「無言は肯定と受け取っていいね」
「そこは、任せるよ・・もう帰っていいかな?」
「実はね、王族からの命令で君を森に連行したのは、僕の父さんなんだよ」
前触れもなく衝撃的なことを伝えられて、俺の思考回路が一瞬止まる。
「森にキミを置き去りにした父さんはね、ずっと悔やんでいたんだ。知らない世界に突然召喚され一方的に魔物が棲む森に、名も知らない黒髪黒目の少年を放置して殺してしまったと・・・・」
「あぁ、あの時の騎士は、領主様の父親だったんですね・・・・それよりも、俺の他にもう1人いたはずだ」
「もう1人?・・・・あぁ、たしかに少年少女が1人ずつ召喚されたと聞いたな」
「そうだ、俺より年下の少女がいたはずだ!」
俺は目の前のテーブルに両手を突いて前のめりになる。
「お・・おちちゅいてくれたまえ・・そんな殺気を向けられたら・・」
「あっ・・・すいません」
溢れ出した感情を鎮めて昂った心を落ち着かせ、ソファに深く座り直す。
「ふぅ・・・・さすが勇者と渡り合った男だね・・見てはいけない川を見たような気分だ」
俺は頭の隅に置いていた存在のありかに繋がる手掛かりが掴めそうな気がしてならない。
「それで、その少女は俺が森へ棄てられた後はどうなったんですか?」
「ん〜信憑性は低いかもしれないが、王国の貴族が養子にしたと聞いたんだがキミと同じ黒髪黒目だから貴族のパーティーや学園に通っていれば必ず話題になるはずなんだけど、1度も姿を見た者はいない・・」
「くっ・・・・1度も見た人がいないなんて」
「幽閉されてか、貴族の夜の玩具として扱われたか・・・・」
領主の言葉に俺は怒りが立ち込め拳を強く握り締め震わせる。
「クソが・・どうして貴族の連中は人の命をそんな軽く扱えるんだ・・」
「すまない・・それについては同じ貴族として恥じている」
「なら、どうして!?」
「これは貴族の長い歴史の中で深く根付いてしまった・・公にならない限り王族も咎めることもないことを良いことに貴族の屋敷には家主しか知らない秘密の隠し部屋が存在している」
「金と権力で、やりたい放題か・・」
「そうなるかな・・でも、一つだけ情報が残っているんだ。噂程度なんだけどな」
「なんだその噂程度の情報って?」
イーサンは、部屋を見渡してから俺を見つめて口を開く。
「どうやら王国の騎士学園を主席で卒業し、王国騎士団に入団したとのことだ」
「はぁ?・・なんでそこまで知りえているんだ?」
「なぜなら、とある家名を名乗る少女の貴族家には娘が存在していなかった。それが突然、年頃の娘が現れるとなると不自然だろ?」
「たしかに・・それに、その家名は?」
「ス・・スゥー・・えっと、忘れた。すまん」
「ふざけんな!そこまで言っておいて」
バン!
部屋のドアが勢いよく開かれ門兵達が雪崩れ込んで来た。
「お怪我はありませんか!」
「大丈夫だよ・・とりあえず、話はここまでだね。もう仲間のところへ戻って良いよ」
「・・わかった」
俺は立ち上がり部屋から出て廊下を歩き詰所から出ると、メイド服姿のラニアとアメリアが詰所の前で待っていてくれたようだ。
「「お帰りなさいませ」」
「た、ただいま・・」
2人は一礼して俺を見つめる。
「遅くなっちゃったね・・みんなのところに戻って宿を決めようか」
「はい、ですがもう宿を決めていますので案内しますね」
「は、早いねラニア」
「はい。メイドの嗜みです」
「あ・・ありがとう」
大通りを歩きラニアの案内で宿屋へと入る。
「そういえば、お金は?」
「支払い済みですよ、ハルさん」
「そうなの?アメリア?」
「はい」
2人に手を引かれて宿の階段を上がり3階にある大部屋へと向かい部屋のドアを開けると、ゆっくりとしている皆が出迎えてくれた。
都市ニシバルからの野営続きで今日は宿でゆっくり過ごし旅の疲れを癒すことに決めて、街への買い物は明日に決めた。
ゴロゴロ・・ゴロゴロ・・
ベッドや床でゴロゴロと転がるリルとクウコとミリナ達3人は、何が楽しいのだろうか・・ミオはソファに座る俺の足元で丸くなっているため、右足のつま先で尻尾の付け根をグリグリ押し回しマッサージをする。
「んにゃ・・ぅにゃ・・」
細長く黒い尻尾を俺の右足に器用に絡ませたり、ペシペシ叩いたりして恍惚の表情をしている。
「なんなのよ・・この黒猫は・・」
そう呟いているのは、なぜか俺の膝の上に座っているアリス嬢で、優雅にコップに入った果実水を飲みながらミオを観察している。
「そういえば、アリスさ・・」
「なぁに?」
「俺の上に座ったら、飲みにくくないか?」
何気ない疑問をアリスにしてみた。
「ここが落ち着くから良いの」
「そんなもん?」
「そんなもんよ・・ばかっ」
アリスは意地悪をするかのようにグリグリと小さなおしりを押し付けていたけど無反応でやり過ごし、まったりとした時間を宿の部屋で過ごし窓から差し込んでいた光が夕陽へと変わっていった。
くぅ〜〜
いつの間にか、俺以外のみんなは寝息を立てていたところにお腹が鳴る音が聞こえ、モゾモゾと動き出す4つの気配があった。
「そろそろ飯にするか?」
先に動き出したリルとクウコは、俺のもたれかかって寝ているアリスを持ち上げてベッドに投げ飛ばし俺の上に乗ってくる。
んぎゃっ!
「「 ハル 」」
「おはよ・・リル、クウコ」
「「 おはよ〜 」」
眠そうな表情な2人の頭を撫でていると、ミオとミリナも傍に寄り添い顔をすり寄せている。
「むぅ〜気持ちよく寝てたのにぃ〜!」
ベッドの方からアリスが起き上がり、不満を主張している。
「アリス・・夕食にするから許してやってくれ」
「もぅ・・」
しばらくして全員が起きたところで1階にある宿の食堂へ移動し食事をとることにした。
「お兄さんが代表の人?」
テーブルを2つ合わせてそれを囲むように座ると、調理場の方から宿の女性がやってきた。
「あっはい。このパーティーの代表のハルです。今夜はお世話になります」
「ハルさんだね。私は、ルイカよろしく。うちの宿は、エールと果実酒があるけど夕食と一緒にどうだい?」
「そうですね・・・・しばらく飲んでないんでお願いします」
ルイカさんに料金を聞かず、とりあえず追加で金貨1枚を手渡し料理より先に持ってきてもらうことにした。
アリスには果実水を注文し他のみんなは、好きな方を選ばせ久しぶりの酒宴を始め2杯か3杯飲んだところで料理がテーブルに並ぶ。
「お待たせ・・今夜は、肉祭りだよ。ステーキから煮込みまであるからたくさん食べてね」
テーブルの中央に分厚いステーキが3枚並び人数分の肉と野菜入りスープの器が置かれ、ラニアとカラそしてアメリアが分厚いステーキを手早く切り分けてくれる。
他のテーブルにも宿に泊まる冒険者パーティーがいるため、控えめの声で話しながら食事を楽しんでいると数回ほど視線が重なる冒険者がいた。
「・・ちょっとトイレに行ってくるね」
俺は席を立ち上がり、裏口を出て外にあるトイレへと向かい用事を済ませて小屋から出ると、俺と視線を重なっていた冒険者が立っていた。
「兄ちゃん、ちょっと良いかい?」
「うぃ・・なんですか?」
「うわっ・・酒臭えな・・冒険者のハルさんなのか?」
酒を飲んでいない人が酒を飲んでいる人に近付くと酒臭いと感じるのは当然だよと思いながらも質問に答える。
「えっ?まぁ、そうだけど・・あなたは?」
「レイラです・・」
「レイラさん?」
被っていたフードをパサっと下ろすと茶髪の若い女性だった・・どこか見覚えのある笑顔だ・・。
「忘れてしまいましたよね・・」
「・・あっ・・あぁ!あの時の・・あの護衛依頼は最悪だったね」
「あっ・・思い出してくれたんですか?」
「もちろん、さっきね・・ゴメン」
レイラは俺が思い出したことを喜び笑顔になっていると、裏口のドアが開きミオが出てくる。
「ご主人さま?」
「ミオ・・ここだよ。おいで」
ミオはサッと移動し俺の右腕に掴まり見上げている。
「んにゃ〜ご主人さま〜」
「ちょっとミオ飲みすぎじゃないか・・じゃなくて、レイラさんのこと覚えてる?」
「んにゃ〜レイナさん?ですかぁー?」
ミオは前に立つレイナに鼻先を向けてクンクンしている・・。
「えっ?この子は、あの時一緒にいた猫人族の・・」
「ミオだよ!・・レイラさん。あの時の女騎士襲撃のときにいた冒険者さんですよね?」
「そ、そうよ・・」
それから酔っ払いミオを先に帰しレイラと立ち話しを聞くと、一度は冒険者を休業したもののギルドで俺の名前を耳にしてから活動を再開して、今ではAランクパーティー漆黒の剣に所属しこの街を基盤にして活動しているようだ。
「それじゃ、これからも頑張ってねレイラさん」
「うん。ありがとう、ハルさん」
裏口を2人で入り、それぞれのパーティーの席に戻る。俺は完全に出来上がったアルシアとシェルを抱き抱えて部屋に戻る時にレイラがいる席をチラッと見ると笑顔で見ている彼女と視線が重なり笑顔で返すと、パーティー仲間の男2人が俺を睨むような視線を向けていた。
(男3人と女2人のパーティー構成か・・ジョブ構成的にもバランスの良い感じだな・・)
「ハルゥ〜そんなとこを揉むんじゃない〜」
「んぁっ・・そこはダメなのじゃ・・」
泥酔状態のアルシアとシェルがポンコツになり、恥ずかしいことばかり漏らしている。
「ばかかお前ら・・こんな人目がある場所で、そんな声を出すなって・・」
そう言いながら階段を上がり部屋に入ると同時に2人をベッドに投げて、バウンドした2人は壁に頭を強打しそのまま深い眠りへと沈んでくれた。
バウン・・ドゴォッ
「「 んぎゃ!! 」」
先に深い眠りに沈んだ2人は放置して、まだ起きている酔っ払い達に眠る前に水を飲ませてからベッドに寝かしつけると、俺が横になるベッドが無いことに気付く。
「おいおい、マジかよ・・」
仕方なく俺は、ソファに身体を寝かせてシーツに包まり眠りについたのだった・・・・。




