怒る団長
ガチガチに固まってしまってから数分
「…団長ー、団長〜」
ヒラヒラと顔の前で手を振る
マーレルは急にガタッと椅子を倒し立ち上がると、椅子が後ろに倒れたことには気にせず、メルディアーラから距離をとる。
「お前は誰だ。何処の者だ、あいつの姿で現れるとか、ふざけてんのかてめぇ」
眉間に皺を寄せギロッと睨みつける。
目から怒り、殺気を感じ部屋の温度が下がる感覚がする。
もしこの場に一般人がいれば震え、失神していたであろう。
「いや、団長。まじで私です。」
どうにか話せる状態に戻さねば。
あいつのパレードまで時間はあまりないため時間を取られるのはやばい。
下を向きプルプル肩を震わせているとこを見る限り、感動してるのかと思っていると
「…メルディの姿で、俺の前に現れるな!!」
「理不尽!!」
自分の姿できて怒られるとか意味わかんない!
感動ではなくただ怒りで震えていただけだった。
マーレルは無詠唱でメルディアーラに氷の矢を飛ばす。
「こんな狭い空間で攻撃魔法とか何考えてんですか、あんたは!!」
「うるせぇ黙れ黙れ黙れ!あいつの声で!話しかけんじゃねええ!!」
「だからそんなん言われたら喋れないし、なんか私団長に嫌われてるみたいじゃないですか!!」
光魔法で氷の矢を反射させると、まさかの扉へあたり、扉は壊れ砂塵が舞う。
「だから団長!いい加減にしてくださいってば!」
なんでこんな信じてくんないのかなぁ、と疑問に思っていると、それはすぐにわかった。
「メルディが、もしあいつが本当に生きていたとして、俺に会いに来るはずがない!!」
??
なんでそんな風に団長は思ってるんだろうか?
マーレルは瞳に涙をため、睨みつけてくる
「あいつを、殺したのは俺だ!あいつは俺を憎んでる!絶対に会いに来るはずがない!!」
憎んでる?いやいや全然憎んでませんし、そんなことされた覚えもない。逆に憎まれても可笑しくない悪戯は沢山した覚えはあるが、と頭にクエッションマークが浮かぶがいい加減に頭を覚まさせる必要がある。
「…マーレル団長、貴方はどうすれば〝私〟だと信じてくださいますか」
「…もし、本当にお前がメルディなら、メルディにしか使えない魔法で俺に攻撃してみろよ」
…私にしか使えない魔法
どうしよう、私の使えるオリジナル魔法の攻撃系なんて爆破関係や広範囲なものばかりで…あ。
「ならやってやりますよ。…«黒の断罪»」
煙がマーレルを包むと急にマーレルは悲鳴をあげた
「黒の、断罪…!?や、やめろ、わかった、お前がメルディだとわかった、わかったからそれだけはやめ、やめろおおおお!」
なにか言ってるが半分鬱憤というか、ムカついたためスルーしてそのまま魔法を行使する。
黒の断罪
闇属性のオリジナル魔法
黒い煙で相手を包むと相手の黒歴史を、恥ずかしい系のものを何度もリピートする魔法
ムカついた相手とかにはもってこいな悪戯魔法で、悪戯をするためだけに作った魔法だが、精神的ダメージが大きく悪戯に使用することを禁止されてしまった魔法だ。
この魔法の第1被害者はマーレルであり、改良前のをうけた唯一の人物のため、この魔法の怖さを1番分かっている人物であった。
しばらくすれば通常通りになるだろう。
__________……
「信じていただけましたか、団長」
ニッコリと微笑むメルディアーラをジト目で見るマーレルはどこか疲れた雰囲気だった。
「あぁ…間違いなくお前だな。あんなゲスい魔法使うのお前くらいだ。」
「別に幻覚魔法とか似たのなんていっぱいあるじゃないですか」
「黒歴史見せる魔法ほど怖いものはねぇんだよ!!」
なにをそんなに焦ってるのかよくわからないと思うメルディアーラであった。
「…で、お前、今までどこにいたんだ。」
壊れていないソファに腰をおろすとマーレルは真剣な眼差しでメルディアーラを見る。
「精霊王のもとです。」
「…は、精霊王?」
マーレルはポカンと目を見開き固まる。
精霊王から聞いたことをざざっと簡単に話す。
「そうか、精霊王が助けてくださったのか。…メルディ、あの時はすまなかった。」
マーレルは唐突にメルディアーラへ頭を下げた。
「え、いや、団長?全然心当たりないんですが。」
メルディアーラにはまったく心当たりなんてものはないし、謝ってほしいこともない。
「5年前、俺がもう少し早く駆けつけていれば…」
メルディアーラは考える。
考え、考え、考えて…
「やっぱ団長が謝ることなんてないですよ。」
やはりまったく心当たりはなかった。
「もっと早く着いていればお前を助けられた」
「別に死んでないし五体満足で目の前にいるじゃないですか」
「5年だ!お前はあの時18で、今じゃ23!やりたいことだってあったはずだ!五体満足だとしても、大切な5年を…!!」
メルディアーラは驚いた。
自分的にはまったく気にしていないことを団長がそこまで気にしていることに。
「団長。私別にたかが5年どうでもいいですよ。その5年でまさかの精霊王とも会えましたし、あの時は仕方なかった。貴方は魔術師団団長だ。あの選択はただしかったし、あの場の戦況を覆すことなんて貴方がもしはじめからいたって簡単じゃなかったんだ。」
「たしかに、そうだが…」
メルディアーラは実は考えていた提案をする
「では団長。そんなに気にするなら私の罰を1つ許してくださいよ。」
「罰?」
マーレルは訝しむ
「実は私…」
マーレルは何を言われるのかとドキドキとしていると
「団長のスペシャル期間限定デリシャス苺ケーキを食べました。」
フリーズするマーレルにメルディアーラはすみませんでした、と頭を下げた。
すると
「犯人はお前かあああ!!!」
マーレルの鉄槌がメルディアーラの頭に下され、メルディアーラは涙目になった。
スペシャル期間限定デリシャス苺ケーキとは、王都で大人気のポースという店の1週間、しかも1日5個限定という超レアなケーキで、団長が棚の奥に隠していたものだ。
それをメルディアーラは、5年前に、食べた。
「ふざけんな、お前!アレは俺が何時間も前から並んで手に入れたものだったんだぞ!犯人はお前だったのか!ぜってえ許さん!!」
赤い瞳に怒りの炎が見えてしまう。
「あんなとこに置いとく団長が悪いんですよ!しかも一人で食べようとするなんて!!」
「ぁ?…そのいいようだと、共犯者がいるな?」
メルディアーラはしまった!と思った。
たしかに共犯者はいるが、もしバレても巻き込まないという約束をしていたのに口を滑らせた。
「おい、吐け。誰かさっさと言えや。」
目がギラギラしていてはっきりいって怖い。
「ぇ、いや、あの、ちょ。」
そんな時、バタバタと廊下を走る音が消えこる。
そりゃあんな派手な音なんかをたてていれば誰かが来るのなんて当たり前なのだがなんせ、今日はパレードで全員離れにいたために来るのが遅くなったようだ。
「団長!!どうしましたか、無事ですか!」
そこにはパレード用のローブを羽織る男が5人いて、メルディアーラはつい
「団長!あいつらです!!」
口をすべらせた。