僕と彼女と彼女の親友が猫と出くわすその丘で(中編)
僕は、いつものごとく中坂を上っていた。
6月らしい、「じめっ」とした空気。手に持つ傘にシトシトと雫が触れた。
6月も半ばに近づき、僕と水瀬の、発光する黒猫を追う放課後はちょうど一ヶ月目となった。
デバガメ堂店長直伝の魔法を持ってして今日こそはクロエを撮るぞと意気込んでいたものの、この雨では、厳しいか?
天気予報では、夕方には晴れると言っていた。
「おはよー!千太君!」
水瀬が後ろから声をかけてきた。
コンビニで売っているような透明傘の僕とは違い、若葉のような黄緑に水玉が入っている可愛い傘をさしている。
「水瀬、おはよう!」
僕もおはようを返した。
「もうクロエを追いかけて一ヶ月経つね。
一ヶ月も捕まらないなんて、ほんとにクロエって凄いやつだねW」
水瀬は感心しながら言ってくる。
「一ヶ月かぁ~……。
僕達一ヶ月も一緒に帰ってるんだね。」
そう口に出してその言葉を噛み締めると、もう、付き合ってないとそんな長い期間、男女が一緒に放課後過ごすなんてないだろうとか思う。
……もうこれ付き合ってんじゃね?
「ねー‼
付き合ってもないのにねW
でもめちゃくちゃ毎日楽しいよ!」
気持ちを瞬殺してくれた。
「そうだね。
僕もとっても楽しい。
でも……一ヶ月も部活行かなくて水瀬は大丈夫なの?」
反撃という気持ちは全くなかったが、つい部活という言葉が出てしまった。
「……。
そうだね……。
私……もう一ヶ月も飛んでないのか……。」
今日の雨空のように水瀬の顔が曇る。
ほんとにまるで向日葵のようにいつも笑うから、悲しい顔をすると、その落差に僕の胸はギュッと苦しくなる。
その横顔に、僕は強く誓った。
僕は水瀬の笑顔が好きだ。……今の悲しい顔も可愛いけどW
やっぱり笑顔を取り戻したい。この放課後を……終わらせたい。
今この気持ちを口に出さなかったら、またふにゃふにゃふにゃと決意が縮こまっていきそうだと思った。
あんまり、見栄を張ったり、身の丈に合わないことを言わない僕だけど、
「今日、必ずクロエの写真を撮るよ。
それで僕達の放課後は終わりだ。」
と水瀬に言い放った。
水瀬はきょとんとした顔をして、
「……今日……雨だよ……W」
もっともな言葉。
「大丈夫夕方には晴れる!
今日写真撮るから!
絶対‼
絶対撮るから‼」
なんて、僕は精一杯強がった。
――その日は授業など当然頭に入らない。
高跳び台の良く見える僕の特等席から空ばかり見ていた。
昼休みになって、トイレに行こうと思って、廊下に出た。
癖とは凄い。
金曜日に火村を見る為いつもと逆方向、火村のクラスを通ってトイレや、移動教室や帰宅経路なんかも選んでいたんだけど、土日を挟んだ今日、月曜日も、足がそっちへ向かった。
まぁ、いいか。
たまには別のトイレもねW気分を変えてW
なんて思って選んだ自分の教室から遠いトイレから出たら……。
問題が発生した。
廊下の真ん前に火村が立っていた。
「ちょっと良い?」
火村が僕に問うて来る。
僕は首を縦に振った。
トイレを少し過ぎたら階段がある。
今は誰もいなくて話し声なんかは聞かれそうにない場所だった。
「あんた、帰宅部だよね?
名前は……。」
呼び止めた本人は僕の名前も知らない。まぁそれもそうだ。
「春野だよ。」
と僕は言う。
「あぁ、春野ね。
あんたさぁ、ここ最近、毎日凛子と帰ってるよね?
二人で何してるの?
何に連れまわしてるの?
あんたなんか帰宅部だし、何しててもいいよ。
時間つぶして意味のない日々を過ごしたらいいよ。
でも凛子は違うの。
今しかないのよ。私達には。
あんたのくだらない事に、凛子を巻き込まないでよ。」
凄く高圧的に上からモノを言う火村。この学校の校風が頭からつま先まで染み付いていて、さも当然のように、帰宅部の僕を責める。
これはこの学校では割と普通の感覚なのである。
……確かに、青春の花形、運動部から見たら僕なんてそういう感じで見られるよねW
でもね、僕も今、人生で一番大好きな女の子と一緒に、光輝く猫を追っているんだ。
……意味わかんないよねW……光輝く猫ってW
僕も分からないけど、でも、その大好きな女の子の笑顔を取り戻すために必死なんだ。
精一杯で今日に賭けているんだよ。
これはきっとお前らにだって負けてないよ。
僕も青春をしている。
「僕は……。
僕達は今、青春の光を追っているんだよ。」
――キーンコーンカーンコーン。
救いのチャイムだ。
「チャイムなったし、もう行くね。」
スタスタスタスタと凄い早歩きを繰り出し、逃げる僕。
「はぁ?青春の光……?
ちょっと!
話はまだ―……。」
火村の声が小さくなっていった。
一目散に教室まで向かい、着いた時に振り返った。
火村は追って来てはいなかった。
危なかった。
とても、めんどくさいことになるところだった。
なんとかワンパンを喰らうだけで逃げることが出来た。
しかし、本当にもう時間が無いなと。精神的に、もう何発も喰らってられない。
必ず今日クロエを写真に収めよう……。
その決意をさらに固くした僕だった。
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