千年ドレスと書くと闇のアイテムのように
「わあ……綺麗なウェディングドレス……」
「ホントに、凄い綺麗ですね……」
まさに職人芸というなんというか。
見るだけで凄いと分かるんだから、とにかくすごい。
説明不要というか、うまく説明が出来ない。
ただ、とにかくすごい。そうとしか言えない。
「そう? 気に入ってくれてよかった。これは僕からのプレゼントだよ、シエルちゃん」
「ふぇ?」
「僕がシエルちゃんの親代わりだったんだから、ドレスを作るくらいは当然だよ」
いや、その理屈はおかしくは無いんだが……。
だからと言って、さらっとドレスを手作り出来るって凄いな……。
「これ、トモエさんが作ったんですか?」
「うん、シエルちゃんのサイズは採寸してあったからね。あとはそれに合わせて作るだけだったし」
凄いな……本当になんで喫茶店の店主なんかやってるのか分からん人だ。
というか、この人なんでも出来すぎじゃないか?
「とにかく、僕からのプレゼント、貰ってくれるかな?」
「あの……本当に、いいんですか?」
「もちろん。これはシエルちゃんの為に作った晴れ着なんだから。シエルちゃん以外に受け取れる人は居ないよ」
「トモエさん!」
シエルちゃんがトモエさんに勢いよく抱き付いた。
そして、めそめそと泣き出してしまう。
「ひっく、ふぐ……えう……トモエさん、ほ、ほんとうに、ありがとうございましゅ……」
「お礼なんかいらないよ。そのドレスを着て、僕に晴れ姿を見せてよ。それが僕にはいちばんうれしいよ」
「トモエさぁん……」
ええ話や……トモエさんがいいお母さん過ぎて泣けてきた。
「このドレスはね、とっても丈夫で、決して穢れない。そんな純粋なドレスなんだ。だから、よければこれを受け継いでいって欲しい」
「うけつぐ、ですか?」
「そう。シエルちゃんの子供に、そしてその更に子供に……そうして受け継いでいって欲しい。このドレスは千年やそこらでは劣化しないから」
「わかり、ました。わたし、大事にします……ずっとずっと、大事にします……!」
「うん……ありがとう。それが、人の営みだもんね」
そういってトモエさんは微笑むと、涙を流し続けるシエルちゃんの頭を優しく撫ぜていた。
しばらくしてシエルちゃんが泣き止み、ちょっと気まずい雰囲気。
シエルちゃん、ちょっと恥ずかしいんだろーなー。
感極まって泣いちゃったから。うん、青春だねー。
「それにしても、なんでもうドレスがあるんですか?」
気まずい雰囲気を変えるために、トモエさんに質問を投げかけてみる。
実際、なんでそんなに準備がいいのかすごく気になるし。
「昨日、アリシアちゃんと結婚式挙げたでしょ? シエルちゃんも便乗して結婚式したーい、って言い始めるかなって思って。急ピッチで仕上げてたんだよ」
なんという慧眼か。この海のタカヤの目をもってしても見抜けなかった……!
誰だ、節穴アイとかいう奴は。
「最初はシエルちゃんのサイズに合わせてあるけど、これは所有者の成長に伴って形を変えるからね。何年経っても着られるし、譲渡すればその人に合ったサイズになるよ。だから受け継げる」
「これ魔法の品なんですか」
魔法的な目で観察してみる。
うわ、本当に言った通りの魔法がかかってる。
所有者を認証するシステムに、サイズの変更。
更に強化や自己修復なんかもかけてあって、下手な鎧よりもよっぽど丈夫だ。
更に所有者以外が身に着けようとすると警告がされて、それでも身に着けると髪の毛が全部抜ける呪いがかかってる……。
「凄いですね。これなら確かに何百年も受け継げるかも」
トモエさんの言う通り、千年だって決して不可能ではないだろう。
ちゃんと大事に保管していれば、の話だが。
「でしょ? 大事にしてね」
「はい! 大事にします!」
嬉しそうだな、シエルちゃん。
まぁ、育ての親みたいなものだったトモエさんに貰ったんだから、当然なのかもな。
「それで、結婚式はいつにするの?」
「式場の準備とかがまだなんで未定です。決まり次第連絡しますよ」
「うん、分かった。披露宴の料理は僕が用意してあげるね。代金もロハでいいよ」
「お、それは楽しみですね」
しかもロハ。ロハと言えばタダの事。
タダより高いものはないなんていうけど、タダはいいことだ。
そこまで甘えちゃっていいのか? とも思うけど、今回はご厚意に甘えよう。
「さて、んじゃ、オレは行きますね。シエルちゃんはトモエさんと話したい事とかあるでしょ?」
男のオレには分からないが、色々と感情が動く事もあるのだろう。
そこらへんは、触れずにそっとして、二人だけにしてあげるべきだ。
「あ、えっと、いいんですか?」
「うん、さすがにそこまで無粋じゃないよ、オレは。じゃあね、明日迎えに来るよ」
シエルちゃんを残し、店の外へ。
さて、まずは教会の方に話を通して、だな。
結婚式自体は内々に済ませてしまっていいだろうから、それほど招待状は書かなくていいと思うが。
そーいえば、この世界って結婚指輪とかの風習ないんだろうか?
ないんだろうな。指輪つけてる人なんてめったに居ないし。
思えばアリシアちゃんとの結婚式でもなかったし、それはいいだろう。
シエルちゃんだけに贈る、って言うのも変だし、それは後々だな。




