あの世でオレにわび続ける話
さて、その魔王ことアホ……もとい、アホこと魔王。
どうやらだがオレとトモエさんが祈った事で大きくなったのは確定的に明らかである。
祈ってもらうだけで成長出来るとは便利な奴だ。
我が家の幼女たちにもそんな珍妙な能力がつかないものか。
そうすりゃ祈りまくって成長させ、オレにロリコンの汚名が着せられなくなるのに。
まぁ、ついたらついたで色々と対応に困るような気はするが。
「で、マオちゃん、何が食べたい?」
「んむ? この際、食えるならなんでも構わん」
「カマキリ百匹踊り食いする?」
「やめろ、許せ。それだけはやめろ」
「じゃあイナゴ百匹踊り食い?」
「大して変わっとらんわ!」
「そうだ、ここはいっちょイナゴの佃煮をですね……!」
「なるほど、イナゴの佃煮だね。今からイナゴ捕まえてくる」
どこから取り出したのか、虫取り網を手に店から出て行こうとするトモエさん。
どこまで捕まえに行くつもりなんだろうな。イナゴが出る時期じゃないぞ。
「だからやめろと言うに! 人に昆虫を食わせたがるな!」
「昆虫はダメ? じゃあクモ食べてみる?」
「どうして我にそうまで節足動物を食わせたがる!」
「……面白いから?」
トモエさんひでぇ。
「もっとマシなものを食わせろ! マシなものを! せめて人の食べるものを!」
「そうだ、じゃあ、世界最大の節足動物を……!」
「それだ!」
「それだ! ではないわぁ! 節足動物を食わせようとするなと言うとろうに!」
「えー? 節足動物ダメなの?」
「ダメだ!」
「しょうがないなぁ。じゃあサンドイッチセットでいい?」
「……イナゴだの挟まっておらんだろうな」
「普通のサンドイッチだよ、普通の」
そういってトモエさんが定番のサンドイッチセットが乗った皿を魔王の前に差し出す。
見る限りおかしいところの無い、極普通のサンドイッチセットだ。
「めしあがれ?」
「……いただく」
むぐむぐと食べ始めて吐き出したりしないところを見るに、どうやら普通のサンドイッチセットのようだ。
中にセミが入ってるくらいのチャレンジャー精神を期待したんだが……。
「タカヤくん提案の最大の節足動物はタカヤくんに責任もって処理して貰おうかな?」
「え?」
いきなりオレに振るの?
ていうか、最大の節足動物既にあるの?
「まぁ、ドンと来いって感じですけどね」
「あー、その調子だと、世界最大の節足動物が何か知ってたんだ?」
「そりゃ知ってますとも」
「そっか。じゃあ、はい、ピラフ」
差し出された皿にはトモエさんの言葉通り、確かにピラフが盛られていた。
これのどこに世界最大の節足動物が? と思うかもしれない。
しかし、それはちゃんと入ってるのだ。
だって、世界最大の節足動物って、カニのことだし。タカアシガニ。
この世界の動植物って、元の世界の動植物とそんな変わんないんだよね、不思議と。
「カニピラフは美味いのう! あんちゃん、わしゃカニピラフが大好きじゃ!」
「なにーッ!? なぜカニなのだ!?」
「うめえうめえ。世界最大の節足動物のタカアシガニは美味いのう」
魔王に見せびらかすかのようにカニピラフを食う。
しかし、このカニピラフはホントに美味いな。
トモエさんマジ料理上手。
「うぎぎぎ……! 我を謀ったな!」
「悔しいのう! 悔しいのう!」
「キィィーッ! 我は貴様を殺してやりたいわ! そこに直れ! 我直々に誅殺してくれる!」
ブチキレる魔王。
「マオちゃん、ホントにカマキリ百匹踊り食いする?」
冷やかにキレそうになるトモエさん。
「い、今のは冗談じゃ。我と貴様は仲良しじゃな?」
一瞬で大人しくなる魔王。
「仲良しだがピラフは決してやらない。カニピラフうめぇ!」
そしてそれでもからかい続けるオレ。
「ぬぎぎぎっ……! って、貴様ぁっ! よく見れば勇者ではないか!」
「えっ、今頃気付いたのか!?」
「ふんっ。凡百の人間の顔立ちは見分けがつかぬのだ!」
なんだ、つまりは人の顔が覚えられないのか。
……老人ボケ?
「こっから東にある国には、霊験あらたかなボケ封じの神社があるらしいぞ。そこに連れてってやろうか?」
「いらんわい!」
「あ、そう」
考えてみりゃ、ボケにならないのを防止する神社だからもう手遅れかもしらん。
「さっき我に力が戻ったのは貴様が祈ったためだな!? もっと祈れ! もっとだ!」
「やだめんどくせー!」
「ソッコーで断るな! 少しは悩むそぶりを見せろ!」
「しょうがねえな……暫く悩むわ」
言いつつ、アイテムボックスから紙を取り出し、一筆したためる。
そして、その紙を魔王に。
「何? 誠に申し訳ありませんが、貴方に祈ると言う案件は不採用となりました?」
「今回はご縁が無かったと言うことで」
「貴様はどこぞの役人かぁぁぁっ!」
「そう言ったクレームは、担当の者にお願いいただけますか」
「我をおちょくるのもいい加減にしろ!」
「ケッ、やだね。お前のせいでオレは色々と苦労したんだ。お前の事を喧伝しないだけありがたいと思え」
「うぬーっ! こうなれば最後の手段だ! 貴様が我の服を脱がせて、あちこち触ったと言いふらしてやる!」
「おいばかやめろ」
そんなことされたら、オレどんな顔して町歩けばいいんだよ。
つうか、普通に腕が後ろに回るよね。余裕で通報されるよね。
「フハハハハッ! 恐ろしいか! 参ったか! さあ! 叫ばれたくなければ我に祈るがいい!」
なんて、邪悪! なんて悪辣!
これが魔王! 魔を総べた王!
この邪悪さ、間違う事なき悪!
人の人生を砕こうと言う邪悪!
「畜生……! 畜生! チクショオオオオオッ! 呪われ! 呪われちまえ! 地獄に落ちろ! あの世でオレにわび続けろ! マオーッ!」
「はんっ、負け犬の遠吠えよな」
オレは魔王を呪いながら、仕方なしに心の中で祈るのだった。
あれ? 話が進んでねえ……。




