お前は誰だ
魔王にそれなりに適当に祈りをささげ、これからどーすっかなー?
なんて思いつつ時間を潰していると、シエルちゃんがどう見ても十五歳くらいの女の子を連れて来た。
「トモエさーん、なんだかマオちゃんが大きくなっちゃいました」
「お湯吸って膨らんだんじゃない?」
「インスタント食品の親戚か?」
この世界の技術はスゲエなぁ。人間もインスタント食品の類に出来んのか。
「我を色物の類にするな! 力が戻った今となっては貴様ら程度恐れる事もない! 我が力、見せつけてくれようぞ!」
しっかり風呂に入ってからそんなこと言い出しても、なんか締まらないぞ。
そんな事を考えつつ、魔力を滾らせ始めた魔王相手に臨戦態勢を取る。
さすがに武器は抜かない。魔法使い始めてから抜いても間に合うだろうし。
魔法見てから抜剣余裕でしたと言う奴だ。
「マオちゃん? 僕のお店ではどんな存在でもお客様として扱うんだ。そして、僕がお客様に要求する事は三つ」
「む?」
「店内で暴れない。礼節を弁えた態度で店を利用する。他のお客様と揉め事を起こさない。これら三つを守れなければ、僕直々にお仕置きをすることになってるんだ」
「ほう? それで? 我に敵うと思っておるのか。彼我の戦力差も分からぬとは哀れなやつよ」
「彼我の戦力差なら分かってるよ。君がアリなら僕はドラゴンかな?」
そう言うと同時、トモエさんが魔力を漲らせ始めた。
今の魔王を遥かに超えた魔力だ。オレと同じか、オレより少し上くらいに見える。
いい腕の魔法使いだとは思ってたけど、こんなに強かったんだ。
「さて、マオちゃん。大人しくするか、それともお仕置きされるか、どっちがいい?」
「ふ、ふん。我は屈さぬぞ。如何なる苦痛であろうとも我は耐えて見せる!」
おお、さすがは魔王。魔物の王としての矜持があるんだな。
「そっか。タカヤくん、どんなお仕置きがいいと思う?」
「え? オレですか?」
いきなり振られても困るな……そんなすぐ思いつくもんでもないし。
「なんでもいいよ。大人しくなるようなお仕置きなら」
「んじゃ、禁固百万年、ノート一冊にごめんなさいと書き綴る、鏡にお前は誰だと言い続ける、水面に映る自分の顔を一日眺め続ける、カマキリ百匹踊り食い」
「だってさ」
あ、採用しちゃうんだ。
「ふんっ! 何を言い出すかと思えば……恐れるに足らぬ仕置きばかりではないか。ごめんなさいと書き綴るだの、鏡に問いかけるなど。何が恐ろしいと言うのだ?」
「鏡にお前は誰だ? って言い続けるとヤバイんだぞ? ああ、でも、そんなの平気なのか。凄いなー」
「ふふん、無論だ。我を誰と思うておるか! 我こそはま……マオ! マオであるぞ!」
ああ、魔王なのはまだ隠すんだ。
まあ、魔族殲滅しちゃったくらいだしな。
復活してるのバレたら、速攻で殺されるよな。
「凄いなー、憧れちゃうなー。試しにやってみてよ」
「任せるがよいわ! さあ、鏡をよこすがいい!」
「はいよ」
アイテムボックスからでっかい姿見を取り出す。
なんでこんなもんが入ってるのかは知らん。
「ではさっそくやってみせてやろう! お前は誰だ!」
あ、なんかスゲエ変な顔した。
「お前は誰だ。お前は誰だ。お前は誰だ。お前は誰だ」
さて、アホはほっといて、お茶でも飲むか。
「トモエさん、おすすめの紅茶ください」
「ミルクつける?」
「お願いします。レモンは要らないです」
「はいはい。ちょっと待っててね」
後ろでブツブツ呟く魔王の声をBGMに、オレはトモエさんが紅茶を淹れる姿を眺め続けるのだった。
薫り高く芳醇な紅茶の香り。
それはオレに、上質なティータイムの一時を演出する。
「うーん、マンダム……」
これはコーヒーだったような気もする。
そう思いつつ、後ろに振り返って魔王の姿を確認する。
「ひひっ、いひひっ、くひひひ! おまえはだれだ! おまえはだれだ! おまえはだれだ! いひっ、いひひひひ! うひゃひゃっ! おまえはだれだ! おまえはだれだ! あひゃっ、ひゃひっ、ひゃははっ! おまえはだれだ!」
なんかヤバイことになってた。
「ストップ! ドクターストップ! これ以上はヤバイ! というか既にヤバイ!」
「どうしてこんなになるまで放っておいたの……!」
いや、あなたが止めてやったらよかったじゃないですか。
そう思いつつ、鏡に齧りつくようにして、お前は誰だと問いかけ続ける魔王を引きはがす。
「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー! 出来れば頭の!」
店内のお客さんに声をかけてみる。
すると、一人の兄ちゃんが手を上げる。
「俺は医者じゃねえけど、壊れた魔道具を直すのが得意でよ。それじゃダメか?」
「この際それでいいや。直してやってください!」
魔王って魔道具と名前似てるし大丈夫だろ。
そう思っていると、その兄ちゃんが拳を握って振りかぶる。
「魔道具の直し方は簡単だ。斜め四十五度の角度で、修復のぉ……! ファーストナッコォーッ!」
そして魔王の頭に拳骨を放った。
そして地に沈み込む魔王。
「う、うぬ……な、なんだ、何が起きたのだ? うっ……あ、頭が痛い……まるで殴られたようじゃ……」
殴られたかのよう、じゃなくて、実際に殴られたんだけどな。
しかしマジで直ったのか。
魔道具直すの得意な兄ちゃんスゲエ。
某自慢の拳のパクリとか思ってゴメン。
「どうだ? さっきまでのこと覚えてるか?」
「う、うぬっ……も、もうやらんぞ! あんな恐ろしい真似は!」
ああ、そこらへんは覚えてるのか。
「よし、分かったら店では大人しくしろよ? 次はノート一冊にごめんなさいと書かせるぞ」
「わ、わかった。それもろくでもない結果になるのであろう事は分かる……」
そう言うわけで、魔王はこの店で絶対に暴れたりしない事を約束した。




