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ママはネクロマンサー~娘のわたしは聖騎士だけど、それでもママが大好きです!〜  作者: mabaru


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1話 その名はソレイア

 白金色の髪を手でバサっと払い、立ち上がる。

 主張のある広めのおでこが光り、自信に満ちたその黒曜石の瞳は、壇上の石板をしっかりと捉えていた。

 この10年の人生の中で今日が最も素晴らしい日となる。

 そのことを彼女、ソレイア・ヘリオナは疑いもしなかった。


ーーわたしは、死霊術士になる!


 尊敬してやまない、最愛の母であるテレサと同じ死霊術士のジョブを今日、ようやく手にすることができるのだ。

 娘である自分には当然その適性があるし、なんなら今までスケルトンと共に育った過程で親しんでもいる。ソレイアが得ずしてだれが得るというのだろう。

 

 ジョブが出たら早速、母に教えを請おう。

 つきっきりのベタベタに教えてもらうのだ。これまで何度か教えてもらおうとしたが「ジョブがでたらね~」とかわされてきた。

 どうも母にはソレイアを後継者にしようという意思が感じられない。

 こんなにソレイアはなりたいと思っているのに。

 なにか不安でもあるのだろうか。


 たしかに世間的には死霊術士は体裁が悪いらしい。

 実際に母も自身がそうだと周囲には隠している。

 けれど村のみんなは知らないのだ。

 密かにモンスターから村を守っているのは母だ。

 死霊術士はかっこよくて強いのに、誰もそれを認めようとしない。ソレイアはそのことが悔しくて仕方なかった。

 死霊術士になったあかつきには、世間のイメージを変えていかなくてはならないな、とソレイアは将来の構想を練っていた。

 とにかくバーンと活躍してドーンとカッコいいところを見せつければ、みんな驚きのあまりひれ伏すに違いない。きっとそう。

 未来は明るい。

 

 ソレイアはほくそ笑みながら石板に触れた。


ーーさあ、わたしのジョブを顕わしなさい!


 淡く光りを放つ石板。

 手に触れた部分からソレイアの体を伝わり、その額へと光りが集中する。

 やがてその光りは一つの形を象った。

 ジョブの紋章。


「ソレイア・ヘリオナの適正職はーー、…なんと、そんなバカなっ」


 その紋章が示すジョブを目の当たりにし、司祭が慌てている。

 

 どうもソレイアからは見えない部分に紋章がでたらしい。自分で確認できない。でもまあ、わかってる。わかってるよ。

 レアジョブである死霊術士が出たのだから、慌てるのも無理はない。しかしソレイアにとってはわかりきったことだ。早く発表してくれないかと、チベスナ顔で待っていた。

 そしてようやく発表の時ーー


「ソレイア・ヘリオナの適正職は、聖騎士である!!」


ーーなんて?



「ママぁあああああああああああああああ!!!!」


 ソレイアは叫びながら走っていた。思い切り、ただひたすらに。

 あまりに予想外な展開に、脳が現実を受け止められなかった。

 ソレイアが授かったジョブは聖騎士。死霊術士ではなかった。

 当然、手に入るものと信じていたものがこぼれ落ちていく感覚。

 ソレイアは10歳にして人生の絶望を知った。

 

 それに耐えきれなくなって、ぷっつんしたソレイアは、神官たちの静止を振り切り、そのまま駆け出していた。

 街から村へ、村から家へ、走り続けたのだ。馬車でも三時間はかかる距離だ。体力には自身のあるソレイアでもそこまで走って平気な訳はない。

 これがジョブの力なのか。

 身をもって体験する新たな力。しかしそれはソレイアの望んだものではなかった。

 今朝、自信満々で母のテレサに「死霊術士になってくるからね!」と宣言したのに。

 大きな瞳に涙がたまる。

 この悲しみをどうしてくれよう。

 幼いソレイアにはそれをぶつける対象はただひとりしかいなかった。


「ママぁあああああああああああああああ!!!!」


 ソレイアは叫ぶ。もうそろそろで家が見えてくる。

 だからきっとこの声もテレサの耳に届くはず。

 

 カッコよくて強い、死霊術士のママのもとへ、ソレイアは走った。



 なんという声量だろうか。

 昼下がりのテラスで優雅にお茶をしていたテレサに元気な声が聞こえてきた。

 張りのある澄んだ声色。

 どれだけ離れていてもきっとこの声を聞き逃しはしないだろう。そもそも主張が激しいし。

 愛しの娘、ソレイアの声だ。

 

 大きな土煙をあげながら、こちらに向かって走ってくる。

 どたどたと、デッキを駆け上がるとガーデンチェアに駆け上がってテレサの対面に、ばんっとテーブルに手を打ちつける。

 びしり、と叩かれた部分に罅が入ったように見えた。

 テレサの長い髪も勢い、なびいた気がする。


「ママっ!わたし、聖騎士になっちゃったんだけど!?」

 

 テレサを非難するような趣の台詞にやや眉を寄せる。

 でも理解している。これは「どうしよう愛しのママ。わたし聖騎士のジョブが出ちゃったよ。かなしい、慰めてっ!」という心の声の表れだということに。

 今日も娘は可愛い。

 

「あらあ、そうなの。聖騎士なんて珍しいわね。スゴイ! さすがわたしの娘、ソレイアちゃん!」


 死霊術士になることはないとは思っていたが、まさか聖騎士になるとは。我が子ながら引きが強い。


「…ちっがう!! そうじゃないでしょ?!…もうっ、わたしは死霊術士になりたかったの!いつも言ってたでしょ!…う…ま、ママに教えてもらえるって、思ったのに…ぐすっ」


 感情の波が激しいソレイアの突然の泣きにもテレサは冷静だ。「えええええ、ちょ、かわっ、うちの子かわいいいい!!!」と内心は冷静ではないがそれを噯気にも出しはしない。

 ソレイアの憧れるママはいつでも大人の余裕を見せるものなのだ。


「ソレイア、それは仕方のないことなのよ。あなたは私の娘だけど。違う人間なの。確かに親から子に才能が伝わることもあるけど、<死霊術士>は特殊なジョブ。遺伝するとは限らない」


 それを聞いたソレイアは、口をアヒルのように尖らせて、ぐずりながらもテレサに近づきぎゅっとハグをした。

 脳内テレサは腰砕けになってあわあわした。

 最近は少し大人びてテレサになかなか甘えなくなってきたことに寂しさを感じていた。ーーそこにきてコレ!

 テレサはグッと唇を噛んで耐えながら優しく娘を抱きしめて返した。


「ソレイア、私の太陽。あなたがどんなジョブを得たとしてもそれは何も変わらない。あなたをずっと愛してる」


「……わたしも、…あいしてる」


 ぎゃ、ぎゃわいいい。とテレサの一日の可愛い摂取量が限界を迎えようとしたところ、ソレイアは母から離れ、ちょこんと椅子に座った。

 目に溜まった涙を拭い、まだ泣き顔の様子が残った顔で、でもしっかりとテレサに向かっていうのだ。


「…わたし、立派な聖騎士に、なるよ」


 テレサは眩しいものを見たように目を細める。

 ああ、この子はいつもこうだ。

 どんなに転んでも、すぐに立ち上がって駆けていく。

 こちらの心配など、どこ吹く風で突っ走っていく。

 あなたが泣く度に身を引き裂かれるような心地なのに。

 

 きっともうすぐ、あっという間に育ってしまって、テレサの目の前からいなくなってしまうのだろう。そんな気がするのだ。

 それはとても悲しいことだが、子供はいずれ親から自立するものだ。


ーー私も子離れしないとね。


 どうしようもない自然の流れに逆らうことはしない。

 それはソレイアにとっても良くないことだ。

 おとなしくテレサの安全な鳥籠に収まってくれるお姫様ではない。だって私の娘なんだから。

 いつも、たやすく想像を超えてくる可能性の塊。

 突飛で、素早くて、負けん気が強くて。

 世の親は、みんなこんな爆弾みたいな子たちを抱えて育ててきたのかと、感心する。

 死霊術士といえどもこの程度なのだ。

 

「…だからママ。すっごい先生を紹介して!」


 とたんに、元気いっぱいにニカっとソレイアが笑う。

 我が娘ながらちゃっかりしている。

 利用できるものはなんでも利用とする、その姿勢に頼もしさを憶えた。


 さて、誰を呼ぶか。テレサの数少ない知人の中でかろうじて人品を保っている人物。他人にものを教えられそうな性格が破綻していない者。

 

 しばらく会っていないが、あいつは生きているだろうか、と試しに骨鳥に文を持たせて飛ばしてみる。

 運が良ければ返事があるだろう。

 なければ、その時考える。


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