私のやるべきこと
「アズマ社長、七森です」
みちるは店を出るやいなやすぐさまアズマに電話をかけた。
「どうしたんだい?」
「……振り回してしまって、わがままを言って申し訳ございません。退職届の件、なかったことにしてください」
見えない相手に向かって頭を下げる。通りかかった人々が変な人を見るように、みちるを怪訝そうに見つめた。
それでもみちるは姿勢を変えなかった。
電話の向こうで小さく息を吐く音がする。
「七森さん? 僕は退職届なんか受け取ってないけど?」
「え?」
「確かに先日封書は受け取ったけれど、まだ受理するとは言っていない」
「アズマ社長……」
みちるは背筋を伸ばした。
「それで、欠員している二名はどうするつもりだい? マネージャーとしての意見を聞かせて欲しい。新規採用するかい? それとも――――」
「連れ戻します」
空を見上げると、いつもより眩しく感じられた。呼吸がしやすい。
「『めろらぶ』はあの五人がそろって『めろらぶ』です。誰一人変わりはいません」
「……分かった。すぐに2人の家の住所を送る。様子を見てきてくれ」
「承知いたしました」
みちるは電話を切ると、すぐさま駅に向かった。
「めろらぶって知ってる?」
すれ違いざまに声がした。
「知ってる~このらきくんととーまくんのカプが最高なんだよね~」
「えっ! わかんの! 次ライブ行くんだけど一緒に行かない?」
若い女性二人が盛り上がっていた。
彼女たちを笑顔にするのは、自分だ。道しるべが見えた。
もう彼女は振り返らない。
そのまま駅へと駆け出す足音が、空高く響いた。




