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変わっていた友達


「分かる! そういうの見るとヒエ〜ってなるよね! なんか、現実はそんなに都合よくできるわけないのに……ってなってガッカリしちゃう」

「うんうん。だよな。痴漢ものに限らずだけどさ、エロ漫画とかの作者が男性っぽかったら、されてる女の子側もそういうふうに思わせられている感じがしてキショいわ。別に犯罪心理が知りたくて読んでるわけじゃないのにね」


 さっちゃんのも結ちゃんのも、気持ちはすごくよく分かる。さっきから同意しかなくて、もう心の中では水飲み鳥ばりに首が縦に振りまくりだ。


「ヤるにしてもアレだよね。やっぱ逆に女がヤる側じゃないと」


 ん? あれっ? 美桜ちゃん?


「そうそう。受けの側で楽しみたいっていう気持ちも分からなくないけど、たまーに、せめて性別が逆だったらなあって思うのもあるし」

「むしろそういう需要が増えてもいい気はするのにね。男が一方的にヤるものより断然キモさとかキショさはマシになりそうではあるのに、どうしてなかなか無いんだろうね。あれかな? 出版社の陰謀? 固定観念?」


 ちょっ! さっちゃん? 結ちゃんまで!

 アレェー? アウェー? 私はやっぱり?

 おかしいな。普通の女子トークの流れはどこに行っちゃったの? これからどこに向かおうとしているの?


「大体さ。痴漢もののスタンダードって、こういうのでいいんじゃないかなって思うのがあるんだけど」

「なになに? どんなの?」

「気になる。聞かせて聞かせて」


 美桜ちゃんが前のめりになって、何か案を言おうとしている。結ちゃんもさっちゃんも、興味津々でせがんで来てる。一体、美桜ちゃんは何を言い出そうというの?


「じゃあ、えっと……。“学校に行くため、私はいつも通りの電車に乗った。毎朝、代わり映えのしないことをして、つまらない気分を押し殺して、ドアから見える何の変哲もない風景を眺めながら時間を潰す。いっそ、たまには何か刺激が欲しいな。そう思っていたら、力無くだらりとぶら下げていた私の手に、別の人の手が当たる。筋肉質で太く逞しいゴツさを感じる感触からして、男の人のものだと分かる。手の向きにも注意を向けてみると、ちょうど恋人繋ぎもできそうなくらいに手の平同士が触れる感じがしてて、その人は私の後ろにいるのだと分かる。ドアの窓を見て、わずかに反射して映る後ろ側を見てみたら、そこには満員電車の中で力なく揺れる男性サラリーマンの姿があった。位置関係からしても、今私の手に触れているのは、この人のもので間違いなさそうだ。ゴクリ……とここで私は、良からぬことを思いつく。女の子の柔らかい手が不意に触れても、謝りも引っ込めもしないまるで無反応のこの男の人。なら、多少手を取って好きにしても何も言わないんじゃないだろうか。と、私は、その人の手をさり気なく摘んで、他の人に気づかれないように自然を装い、そっと自分のお尻へと誘導させたのだった。”……とか、こんな感じの導入で」


 美桜ちゃんによる即興の語り聞かせの一幕が終わると、二人からパチパチパチパチと拍手喝采が送られた。


「すごい! 美桜ちゃん天才! わたしそういうのすごく好き!」

「ほんとほんと! 表現力も凄くて聞き入っちゃった! もう美桜ちゃん、作家になっちゃいなよ! で、業界に新たな風を巻き起こしちゃおうよ!」

「あはは……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」


 キーンコーンカーンコーン……。

 

「あー、今の美桜ちゃんの話。もっかい聞きたいなぁ。っていうか、メモに起こして欲しいんだけど! 美桜ちゃん、今から忘れないうちにできそう?」

「うええ!? まあ、できなくはないだろうけど……」

「じゃあお願い! できれば完全再現してほしいところだけど、無理なら多少アレンジしても構わないから!」

「う、うん。分かった」

 

 授業が始まるチャイムが鳴ってからも、特にさっちゃんからの賞賛は止まなかった。つい話に夢中になっていた私達は、慌てて机と椅子を元の持ち主の所へ戻しに行ったけれど、その間すらも美桜ちゃんはさっちゃんから熱烈な要望を受けていた。

 私はと言えば、その様子を不思議そうに、離れた位置から眺めていた。


「はい皆席についてー。授業始めるぞー」


 やがて先生が、やれやれといった力無い感じでやって来て授業が始まってからも、私はさっきの話の内容が気になっていた。美桜ちゃんの創作話だけじゃなくて、その前も含んだ全部の流れがだ。


(美桜ちゃん、(すご)かったな……)


 とはいえ、やっぱり一番に思い出されるのは、美桜ちゃんの新たに発揮された才能についてだ。

 あの場で一瞬で思いついたのか、それとも前々から考えていたのか分からないけれど、さっき初めて話題になった痴漢の話から、あそこまで引き出して披露できたのは、流石(さすが)としか言いようがない。さす美桜! とは前々から思っていたしこれで何度目か分からないけど、今回もまた見せつけられた。

 初めて相談に乗ってくれた時から、頭いいな、口が上手いな、と感心しきりで尊敬もしている。小並感(こなみかん)でも、確かに思っている。想い続けている。ただ、その賢さと説得力を発揮するのが、主に性癖的なことだったり正当化するためだったりばかりなのは、仕様(しょう)がない仕様(しょう)もないと思うけど。

 まあでも、こんなにも他者の自由と正義が台頭して葛藤して闘争して暴走する息苦しくて生き(づら)い世の中だと、それぐらいの要領の良さと(したた)かさがないとやっていけないのかもしれない。かくいう私も、その強さと頼もしさの恩恵に(あず)かりたくて、(あや)りたくて、美桜ちゃんの親友というものをやらせてもらっている。


(てか、そこまでの理解と感性が有りながら、自分からするのは構わないというの?)


 痴漢の話に戻すと、三人共、現実で知らない不審者からされるのは不快なようだった。それは私も分かる。というか、世の中の女性は全員そうだろう。なのに今の話だと、自分から知らない人にされにいくのは良いらしかった。それは私には分からない。果たして、世の中の女性はその辺どうなんだろう?

 まるで、他人にはするが自分がされた時は拒否るみたいな、卑怯な奴の言う事みたいだけど、どう違うのかな? あのXだかTだかでたまに投稿される、そういうふうに諭しているスーツのおじさんが出てる漫画の一部分の画像を連想してしまうけど、今回のこれも同じじゃないの?  他の人の意見求めて投稿したら、炎上されて例の画像貼られて批判されたりしない?


(いや……よく考えてみたら、そうでもないのかも)


 美桜ちゃんならどんな反論をするか。って考えてみたら、案外すぐに思いついた。伊達に私も、美桜ちゃんの親友やって何も学ばなかったわけではない。私だって、できれば美桜ちゃんが傍にいなくても大丈夫になりたくて、成長しているんだから。

 この世界では昔から、所謂(いわゆる)セクハラにあらゆる形で被害者扱いされてきたのは、女性の方だ。男性と比べても、世界中で比較しても、女性が最も性的なことに敏感になって、時には抗議して、やすやすと利用されないように注意喚起したり身を固めたりしている。“女性蔑視”という言葉と比べて、“男性蔑視”はなかなか目にしないのも最たる例だ。当然だ。性行為において、圧倒的にリスクが高いのは女性なのだから。

 なればこそ、こと性的な関係においては、どれだけ配慮しても平等に成り切れない圧倒的な、決定的なヒエラルキーが存在する。もしも性行為のリスクと性的魅力の多さを比例して比較したなら、その差は歴然となるだろう。

 そういう事実と事情があるから、たとえ単なる痴漢においても、その力関係は相対的に女性の方に決定権が上がりやすい。身体的にか弱い分、社会的に保護されやすく庇護されやすい。当の女性の意思次第で、相手を許すことも(・・・・・)許さないこともできてしまいがちだ。もちろん、虚偽の主張をして冤罪と判明したら致命的になるが。

 つまり、逆に言えば、女性が性的行為を受けたという被害を装えられる分には、仮に自分から誘って受けにいったとしても相手を許す(・・)ことで不問にしやすいということだ。


(なんて、恐ろしい子……)


 ただし、たまに男子が被害に遭って女性が逮捕される事例も聞く事はあるから絶対ではないし、そういうことをしておきながら相手を許さず(・・・)に被害者ぶって示談金もせしめようとしようものなら、さすがに黙って従う相手などいないだろう。ハイリスクハイリターンとかいうレベルを超えてるし、いくらなんでも強欲過ぎるし非道過ぎる。

 どんなに世の中に性の自由が認められ浸透されたとしても、そういう真似だけは絶対に許されないに違いない。美桜ちゃん達だってそんな子には失望して蔑むだろう。穏便に許し合えば天国の住人になれたものを、一気に地獄に叩き陥れるかの如き悪魔の所業である。


(って、そんな怖い話は置いておこう……)


 頭を一旦整理し直して、考えを戻す。

 話を戻すと、美桜ちゃん達は、女性から男性への痴漢行為なら欲望に忠実になって楽しめるらしかった。ワンチャン現実でもやろうと思えばできなくもない仮説も立っていて、私もその結論に至って、震えた。

 (もっと)も、本当にヤりたいと思うような変態女が都合よく現れるとは限らないし、男性相手だとしても拒否されて注意されて恥かいたり訴えられたりするリスクはあるから、欲に駆られても実行する人はほぼ居ないだろうけれど。

 ただ、まあ……正直に言えば、それくらい自由が許される世の中になれたなら、だいぶ生き(つら)さは解消されるんじゃないかって、思わなくもない自分がいる。


(その辺り、私にも美桜ちゃんグループの輪の中に溶け込めそうな資質はあるのかも……)


 少なくとも、独り悩んで世の中を憂いたり思い悩んだりしているくらいなら、あの集団に自分も混ざっていた方がだいぶ気が楽になるのかもしれない。

 美桜ちゃんがどこまで想定して、今朝無理やりにでも私を招待したのかは分からないけれど、最初に怖がって戸惑ってたよりは、少しは前向きに関わり続けようと思えてきた。

 まだ私は、結ちゃんの言う通り、傍から眺めたりツッコミ入れたりするばかりだけど、いつかもっと、他の話題を広げたり議論に加わったり、馬鹿なこと言ったりチョケたりして、笑い合える仲になれたらいいな。

 VTuberだって、コミュ障で下ネタが苦手な女の子でも、セクシー路線ができる人と気さくに絡んで盛り上げたり楽しんだりしているし、頑張れば私にもできるはずだ。

 と、決意して奮起して、次の休み時間を待ち遠しく思いながら先生の授業に集中し直した。

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