10,優くんはじめてのおつかい
202×年4月上旬、水野優13歳
週明けの夕方、というにはまだ日が高いが優は帰り道を通っていた。入学式が終わって数日、まだ学校は本格的に授業に入るわけではないらしく、早めの帰宅が許されていた。あと1・2週間くらいすればもう少し傾いた太陽を見ることになりそうだった。
風が強い。春先で天候もころころ変わりやすく、地面には水たまりが残っている。
これから初めての通学路での寄り道、優はドキドキしていた。
小学校のころでは流石にランドセル背負った子が色々なお店に入るわけにもいかず、寄り道はしたことがない。
マンションの近くのスーパーに入る。3月から常連となりお店で緊張する必要もないのに、なぜか背徳感を感じる。優の学校に寄り道NGの校則はないし、何の悪いこともしていないが、身体が僅かにむず痒い。
(入ってしまえば大丈夫……!)
優は顔を横にぶんぶんと振り、心を落ち着かせるためいつものように入口のアルコール消毒を済まし、カゴを取る。
いつも通っているこのスーパーはさほど大きくない、食品関係が多く並ぶ一般的なところ。業務用スーパーや家具なんかも売っている大規模量販店もあると聞いたことがあったが優は入ったことがなく、いつか行ってみたいと思った。
愛川のメモを取り出す。生徒手帳に収まるくらいのコンパクトな紙切れ。さっそくそれを頼りに中に入っていく。
メモを一通り確認し、優はまず洗剤売り場に向かう。食器用洗剤の詰め替え用パックをカゴに入れる。この前容器の方を買ってしまったら愛川に「エコでしょ!?」とジェスチャー付きで言われショックを受けたので同じ間違いはしない。
次の売り場、ここに入る時はまたドキドキする。自分のシャンプーであれば特になんてことはないのだが、華やかなに色とりどりの明るいシャンプーが目の前にある。そこから愛川が使っているシャンプーとトリートメントの詰め替え用パックを手に取っていく。
幽霊で特にお風呂に入る必要のない愛川だが、気分は大事だと優の後に入っている。先に入られたと思うとこれまた緊張することになるだろう。
次は野菜売り場に移動する。
(今日もしっかり見極めないと!)
優が買ってきた野菜を愛川が査定する。栄養が高そうか何より新鮮かどうか。
本日は春キャベツ、ジャガイモ、レタス、トマト、人参が高難度ミッションだ。見た目、大きさを目を凝らして確かめ、後は直感で手に取る。選ぶに遅すぎてもいけない。
次は鮮魚コーナー、ここでお徳用パックのシャケを少し多めに取る。愛川の好物らしく2日に一回は朝ごはんと、晩御飯たまに手間をかけたシャケの料理が出される。愛川と住むようになってからたくさん食べるようになったがシャケは美味しい。
なによりいつも以上に「美味しい!」と夢中で食べる愛川を眺めるのが楽しいからだ。
お肉コーナーは今回はスルー。冷蔵庫にまだ残っている分と、派手なシールが貼られていないからだ。いつもの時間より早くきてしまったので値引きシールはお預けになってしまった。
(また出かけるのもな……)
そのことも考え今日はいつ買物に行こうか前日悩んでいたが、
「一回家に戻ると、お外出る気なくなくなるから先に済ませちゃった方がいいよ」
という先人・愛川のお告げによってこうして通学路の帰り道に寄っている。
確かにまだ慣れない学校、肉体的よりも精神的に疲弊している。きっとこういう時お昼寝したらぐっすりなのだろう。ただ夜眠れなくなると愛川にからかわれる。年頃ねと言わんばかりににまにまされ、いたたまれなくなるのでお昼寝は極力しない。一度経験したがその時は目にクマを作ってしまった。一緒に起きていた愛川は幽霊なのでクマはできない、羨ましい。
最後に卵のパックをひとつ取り、メモに記載されていたミッションは完遂。
優は一息つきスーパーを見回す。特売の時間ではないゴールデンタイムじゃない雰囲気は独特だった。
前は春休み、そして特売セールや値引きシールが貼られる時間によく行っていたのでいつもそこそこに賑わっている。しかし今のスーパーは優を含めお客さんはゼロではないが少し閑散としている。ざわざわとした人のごったする音が聞こえず、店内のBGMやCMが明瞭に響く。
落ち着く、優は心が休まるようなそんな気分だった。カフェとかはそういう雰囲気らしいと聞いたことはあるが自分で入ったことがない。あまり関係ないかもしれないが、今度寄り道して入ってみようかなと、帰ってスマホで調べようと思いついた。
セルフレジに入る。ここでも優は少し気合いを入れる。自分で商品を上手く入れなければならない。店員のいるレジでお会計をやってもらうのも可能だが、優は恥ずかしいのでセルフレジ派。といってもセルフレジにも監視用の店員さんはいるので最後に挨拶されるのが恥ずかしい。
マイバックをスクールバックから取り出す。帰りは片方がスクールバック、もう片方がマイバックを持っていると思うと少し可笑しかった。
商品の重い順から入れていき、野菜はめくり辛い小さな袋に入れる。幸い優の手は潤いがしっかりあるので難なく開く。袋に入れたからマイバックに詰める。
最初袋に入れずに野菜を持って帰ったら、愛川が青い顔になったのを今でも優は鮮明に思い出す。
そんな経験が活き、今ではだいぶ愛川にツッコミを受けることは少なくなった。チクチクされることはあるが。
(今回はこれで大丈夫かな!)
マイバックに全ての商品を詰め終わり、会計も済ませる。スマホで出来てしまうのは相変わらず便利だ。
最後に忘れ物がないか確認し、店員さんに挨拶され、スーパーを後にする。
初めての寄り道は無事に事なきをえた。
(今日の晩御飯はなんだろう)
優はマンションまでの帰り道、今日買った食材と冷蔵庫の中身を思い出しながら、荷物は重いがいつもより軽い足取りで帰った。




