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02.防げば勝てます。

「お父さん…息子さんは恐らくクイーンスパイダーの毒針を受けたのでしょう、小さなミノタウルスも死ぬほどの毒です、今生きてるのが不思議なくらいですよ」


白髪の老人が疲れた顔を浮かべながら、患者とその保護者の顔色を伺う。

彼らがいる質素なベットのあるその部屋は薬剤の匂いで充満していた。

部屋の至る所に薬らしき物が散乱している。


「そんな…」


その言葉にお父さんと見られる大男は絶望していた。視線を愛息子へ向けながら。


「手の施しようがありません。この小さな村にあるありったけの解毒剤を投与したのです。」


怒りが込み上げてくる。神を呪いたくなる。何故うちの子が、何かの間違いだ、コイツは似非医者だ嘘を付いているのだ。


「ただ、1つだけ…当てがあります。」


!?


「な、何ですか?それは!」


「この村から南東へ4日歩いたところにある、商業都市ヘロニスはお分かりですな?今そこに休暇で戻ってきている、王宮魔術士がおります。私の知り合いですが彼ならきっと治せるはずです。」


王宮魔術士…腐れきったこの国のさらに腐れきった場所にいる天才と言われていた奴ら…金にうるさく、頭の悪い奴は騙され捨てられる。


「頼れるのですか?」


「ふむ、書状を認めますお待ち下さい」


その後、父親はいつ死んでもおかしくない息子を担ぎたった一つの希望を胸に抱き商業都市ヘロニスへ旅立った。





目と喉が痛い、落ちた時に湖の水を少し飲み込んでしまったようだ。それに体が勝手に沈んでいく。


くそ、クレイグのやつ絶対殺してやる…。


そんな復讐に燃える俺の意気込みも今の状況を考えれば無駄になるとすぐに理解してしまう。

それくらいに今は切迫している。

あと、息はどのくらい持つのだろうか、この湖に俺の体はどのくらい耐えられるのだろうか、いっそ溜めた息を吐き出してしまえばこの不安から解放されるだろうか。

死の恐怖は俺の思考をマイナスな方向へ向かわせる。この状況を楽しめるほど気は狂っていない。


そんなことを考えていると、湖底にぶつかった。


高さはどのくらいある?なぜ体が沈む?

もう無理だ、どうしようもない。


生きることを諦めかけた時、それと出会った。

それは薄暗い濁った湖底に突き刺さっていた。

否、突き刺さっているように見えた。


それは酷く錆びた紫色の盾だった。元々は華美な装飾が施されていたであろうそれは錆びや苔などによって見るも無残なものになっていた。そんな朽ちた盾にどうしてか俺は這いつくばりながら近寄っていく。何かに突き動かされるように。


『人か?…』


何物かが喋りかけてくるいや、心の中に語りかけてくる。


『儂を助けよ!かれこれ300年はこの臭い水の中におるのだ!そしたら少しだけ儂の力、使わせてやるぞ!』


たぶん、この怪しい盾が何か言っている。俺は何かの縁だと思い、とりあえず死ぬ前に人助け、盾助けをしようと思った。

盾は正面を向いていたので後ろ側へ回ってみると、持ち手部分に水草が複雑に絡まっていた。


『コイツをどうにかしてくれ、上へ上がれんのだ』


やはり、この水草が原因だったのか。

腰に据えていた片手剣を抜き、ゴリゴリと水草を切断していく。水草は太かったが意外とすぐに切断でき、抵抗のなくなった盾はどういう原理か上へ浮上していく。


『はよ、儂を掴め。』


言われるがままに持ち手部分を掴み、怪しい盾と一緒に俺の体も浮上していく…。


「ゲホッゲホッ」


生きてる…助かった。


目と喉が少し痛いが、他に体の異変は無い。今は湖の砂浜にいる、この盾がここまでつれて来てくれたようだ。


「にしてもこの盾、重いな」


俺はおもむろに盾を構えてみるが、とてつもなく重い。それに俺の体には大きすぎる。

少し屈めば体が隠れてしまうくらいだ。


『ほう、弱っちい小僧の癖に儂を持ち上げるか、まあ少しの間だろうがよろしくな』


「ちょっと待って、あんたは何物なんだ?喋る盾なんて聞いたことないぞ」


『…』


それからしばらく話しかけてみたが、盾は喋らなかった。


とりあえず、皆と合流しないとだな。

辺りを見回してみると、どうやら俺は落とされた所と正反対の場所にいるようだ。


「落とされた場所に戻ってもいいけど、かなり遅れそうだな、みんなが行軍する方向を予想して先回りするか…」


…迷った!盛大に迷った!

道無き道をひたすら進み、何となくで進んだ結果よく分からなくなった。

忘れていた、俺はそんなに頭が良くない。そしてもう一つ忘れていたこと…ここは魔物の住処だということ。


「嘘でしょ…」


「ギキャッギキャッ」

「ガキャキャキャ」


下向きの尖った鼻。シワだらけの不細工な顔。ボロ布を纏い、小柄だが人間の大人が使う大きさの剣を持った魔物。

俺の目の前に2匹のゴブリンが現れた。

俺はとっさに剣を抜き、切っ先をゴブリンに向けて中腰になる。


俺の殺気を感じたのかゴブリンも武器を構え、俺が獲物になるか見定めるように距離を置いて動向を探る。


まずいッ!


にらみ合いに集中したせいか、一匹のゴブリンが俺の後ろ側についてしまった。これでは挟み打ちを受ける形になってしまう。

俺はこの魔物との戦闘が始めてだった為、この後何が起こるのか全然想像出来なかった。


沈黙を破るように正面に位置する、ゴブリンが襲いかかってきた。これでもかってくらいの上段から振り下ろされた攻撃を剣で受け止める。

すると、後ろのゴブリンも動き出したようだ。しかし、背負っている無駄にデカイ盾のせいで後方が視認できない。


「ガキャッ」


後ろに気を取られた俺は体制を整えた正面のゴブリンに足を切りつけられた。


「いてぇっ」


始めての強烈な痛みに俺は前屈みに倒れる。その直後、後ろにいたゴブリンが思っ切り切りつけてきたが、その攻撃は背負った盾に弾かれる。それを機に正面にいたゴブリンも盾ごと攻撃する。その後も恐怖で頭を抱えて、丸くなった俺を盾ごと切りつけてくるゴブリンたち。

何度かガキンッと弾かれる音が続いた時、異変が起こった。


「ガキャッ…ギキャキャ!?」

「ガキャー!?」


ゴブリンたちの悲鳴とともに、攻撃が止まった。恐る恐る様子を見てみると、苦しみに悶えるゴブリンたちがいた。

両腕が紫色になり、一部朽ち始めていた。


少しの間、眺めているとゴブリンたちは痙攣を起こしながら動かなくなった。

ここでやっと立ち上がった俺は、ゴブリンの喉元に思いっきり剣を突き立てた。

一瞬ビクッと痙攣したゴブリンは生き絶え、心臓の部分から小さな魔石を落とした。

魔石はお金になる事を学校の授業で習っていた為、拾っておく。魔石を動物の皮で作った袋に入れると、もう一匹のゴブリンにもトドメを刺す。


すると、急に俺の体が光り始める。


「始めてレベルが上がった…」

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