異世界転生人あるある、いえ、信州人です。
「あ、俺はオシカ村の木樵の息子でクラウド、前は諏訪在住の中学3年土屋 蔵人です」
「あら、今も昔もあまり変わらないお名前なのね、羨ましいわ」
「蔵人と書いてクロードって読むんです、母がアニメキャラから名前を取ったとか言ってて
聞いた時は恥ずかしいと思ったんすけど今はこれで良かったと思ってます」
「で、クラウドさん」
幾ら異世界人同士だからとはいえ此処は身分制度がガッチリとあるキリアラナ王国で
そして未来の王妃の化粧領 シナノの領主の館。
その領主であり、未来の王妃であるグラーシアに対しての態度に罰を与えてやらんとばかりに
眼光鋭く睨みつける騎士とマリアを従えたグラーシアの呼び掛けに、内心ガクブルのクラウドは
ガバリとベッドの上で土下座を披露する。
「スンマセンでした!同郷の知識のあるネーちゃんだったらいけるかなって思って、それで」
「別に命まで取ろうなんて程怒ってないわ、コレの音で貴方も懲りたでしょうし」
まさか単なる扇子が音響武器になるなんて思ってもみなかったわとコロコロ笑うグラーシアは
侍立する騎士に目配せして、手出ししないよう念を押す。
「この程度で目くじら立て処罰処罰なんて騒いだら
私達の方が世間知らずの田舎者相手にムキになってと笑われてしまうわよ、ね、セドリック」
それでこの件はお終いとばかりにグラーシアは、クラウドが自分を訪ねて来た理由を改めて問う。
「態々あんな事して押し掛けて来るなんて私に何かさせたかったの?」
「おグラさんが知識アリ転生令嬢で色々野心とかあるんだったら俺を取り込もうとするかなって」
そう言うとクラウドは右手を挙げる、すると光の粒子を掃いたかのように光り輝き
クラウドの肩辺りに複数の精霊が姿を現した。
「まぁ!そちらの人達は何方様?」
「人じゃ無いよ精霊さ、この髪が青くて長い美人が水の精霊ウンディーネで
隣の美人は風の精霊のシルフィー、俺は何故かステータスに"精霊王の愛し子"って称号が着いてて
あらゆる精霊を呼び出す事が出来て手助けをして貰えるんだ」
「それはそれは…凄いのねぇ、それじゃあ国や貴族から招聘されたりとかするんじゃあないの?」
「既に国には転生者の届けはしてあるけど、イチ貴族に囲われたり軍の犬になるのは嫌なんで
やっとギルドに登録出来る年齢になったし冒険者になったのさ」
浮いてる美人さんと美少女さんが人じゃないと聞いて驚きながらも納得するグラーシア達に
精霊魔法の使い手として冒険者登録をしたとギルド証を見せるクラウドは
この能力で国家や貴族達からスカウトを受けるだろうから、逆に事情を解ってくれそうな
同じ転生者であるグラーシアに着く事で、意に染まぬ利用のされ方をされまいとしたのだという。
「そうだったの、そりゃあ戦争に行けとか危ない仕事を強要されたくは無いわよね」
「そうなんだ…コイツ等の力があれば一晩で国中を干上がらせたり植物を枯らしたり生やしたり
思いのまま、簡単に地形を変えるのも可能なんだって、だから使い道があるってウチの領主様がさ
俺の両親を捕まえて人質にしようとしやがったから逃げて来たんだ」
クラウドの重い告白にセドリックとマリアの敵意に満ちた視線も弱まり
思わずマリアはクラウドの両親はどうしたのかと心配の声を掛けてしまう程だ。
「ご両親はどうしてますの?」
「此処に引っ越そうって決めて、開拓に参加するってギルドから木樵の仕事を貰って
今は割り当ての開拓村の家に居るよ」
逃亡ついでに移民申請もしたとクラウドが言えば、マリアも安堵の表情を浮かべる。
「ならこのままシナノの民になるのね、良かったわ〜」
「え、ここって信濃っていうの!?俺また信州人?」
「そうよ〜信濃に因んでシナノって名付けたのよ、誘致した教会もゼンコウジさんっていうしね」
「マジ!ならさ、ウンディーネに頼んで諏訪湖造って良い?」
侍立する従者を置き去りに、前世日本の以前の居住地である長野トークに盛り上がる二人。
「住んでくれるなら良いわよ、なら八ヶ岳とか温泉とか千曲川もお願い出来ないかしら」
「イイね〜、何なら信濃の国網羅しとく?」
標高がとか街道がとか史跡に城は等とマリアとセドリックを置き去りに盛り上がり、遂には二人で
意味不明ながら異世界の国歌?なるものを歌い出す始末。
まさか此処に異世界そのままの国を造るのではと、謎の歌を長々歌う転生組の横で従者は
これからのシナノの方向性に一抹の不安を覚えるのだった。




