母なる性というものは
「何なのですか、そのだらしない格好は!?それが人様を訪ねて来た態度ですか!」
手にしていた扇子をパシリと鳴らして叱り付ける。何て行儀が悪いのだろうと呆れ半分
人様を訪ねるにしてもやり方があるでしょうと諭しますが聞く耳を持たないとばかりに
そっぽをむいている悪たれ坊やの様子に、扇子を鉄格子に叩き付けていました。
「非常識な方法とはいえ訊ねてきたからと顔を出せば無視ですか?
貴方が本当に日本人ならば郷に入れば郷に従えという言葉を知っているでしょうに
それとも騙りか詐欺師なのですか、せめて此方に顔を向けて足を揃えなさいな!」
見た目は中学生位の男の子、意地になったのか反抗期なのか声を掛けても返事一つ返しません。
「一体何の目的で押し掛けて来たのですか!」
更に一度、扇子を鉄格子に叩き付けて注意を引こうとすれば
中の自称日本人の少年がグラリと傾いで床へと突っ伏しました。
「お嬢様…そちらは竜骨を用いた扇子では」
側に付いたマリアが私の手にした扇子と、この牢に施された魔法封じの絡繰りが
変な風に噛み合ってしまったが為に、中の自称日本人少年は扇子の素材である
竜骨に備わる魔素に当てられて倒れたのだろうと説明してくれました。
「この牢には魔法使い対策として、音に籠められた力は全て内に向かうように出来ておりますからね。
そして竜骨、ドラゴンを倒して得られる素材には多大な魔素が含まれておりますから
お嬢様の扇子で音を立てれば、音の響きに僅かですけれど
ドラゴンブレスに似た力が宿ると推察致しますわ、故に牢に施された魔方陣が反応して
攻撃を返さんとそれなりの力へ変換して内に居る者へと向かったのだと思われます」
「それは悪い事をしてしまったわ、この子は大丈夫なのかしら?早く手当てをしてあげて」
まさか手にした扇子がこんな大それた結果をもたらすとは思いもしなかったとは言い訳ですわね。
兎に角早く手当てをと、付いてきたセドリック付きの部下を走らせ
セドリックに牢の鍵を開けさせて中の坊やを引き出し休ませられるベッドのある部屋へ運ばせた。
+++++
「気が付いたかしら?」
地下牢から一階にある下働きの為の休憩所に運ばせた坊やに
一般に流通している弱目のポーションを何本か飲ませれば、すぐに目を覚ましました。
どうやら意図せず加えられたドラゴンブレスっぽいそれは、竜骨を用いたとはいえ魔道具では無い
単なる装飾品の扇子だったから僅かな魔素程度で人を如何にか出来る程の攻撃力は無いとの
セドリックの見立てでした。
「…頭が」
「知らなかったとは言えごめんなさいね
まさか押し掛けてきた見ず知らずの坊やがあんな失礼な態度だとは思わなくて、つい」
「いいよ俺もいきなり同郷の仲間がお姫様してるからって
上から目線でハッタリかましとこうって、あんな訪ね方したんだけど身分ってのを考えたら
確かにこの扱いになるよな、あ、水貰えませんか?」
ベッドの上で半身を起こして此方を向いた坊やは、私を認めると緩く首を振って水が欲しいと言い
あの非常識な訪問の理由を告げ、謝罪も受け入れてくれました。
「何でまたハッタリをかまそうとなんて?別に普通に訪ねて来て下されば良かったのに」
「だって異世界転生だろ、お約束っていうか…同じ日本人だしお姫様の評判とか知識チートでの
NAISEIだとかやってると思ったし、最近の王家との出来事だって悪役令嬢ざまぁだよな?
だから脇役モブから逆ハー成り上がりだって張り切ってるものだとばかり思ってたし」
木のコップを傾けながらしみじみと訳の判らない単語を並べられても私には
何が何だかサッパリ判らないのですけど、それがハッタリの理由なのかしらと問い返してみます。
「そのお約束とやらを私が踏襲しているからと、貴方は私にハッタリをかましてみたのですね
それは何故なのかしら?異世界転生のお約束の意味が判り兼ねるのですけれど」
「女の子が昔の記憶があって、此処が『イケメン王子と恋をしよう』の世界だと知ったら
絶対ゲーム知識を使ってヒロインポジション狙うなり、転落人生回避するなりするだろう?
だから調子に乗って好き勝手してるんだろうから少し位ガツンとかましとこうかなって…」
真面目な顔して益々意味の判らない事を言う坊や。
「イケメン王子と恋?何ですかそれ、それに今でこそ私はお姫様、御令嬢と呼ばれる身分ですけど
中身は女の子呼ばわりには些か薹が立っているわよ」
「へ?」
「今の私は公爵クリストフ ファングルが娘、グラーシア ファングル
以前は長野県在住の一市民、染屋 イト 97才の誕生日までは覚えているわ」
孫達が誕生日のお祝いをしてくれたのは覚えているから多分、97までは生きていたわ。
「き、きゅうじゅうなな!?」
「で、貴方は何処の何方さん?あんまりおふざけが過ぎると親が恥をかきますわよ」




