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転生公爵家令嬢の意地  作者: 三ツ井乃


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永遠の二日

日頃魔塔に篭り研究に没頭する王宮魔導士達は、急な魔塔の閉鎖に驚き抗議をと立ち上がったが

壁となり立ちはだかったのは王宮騎士団の銀の鎧を纏った騎士達。


その後ろでは鼎と呼ばれそうな湯沸かしの脚付金盥やら鏡台、寝椅子、衣装櫃に化粧箱、櫛箱、

油壺、香炉にバスタブ、リネンの積まれた荷車にと女性向けの生活用品が次々と運び込まれて行く。

これ等はどれも王太子妃殿下の持ち物であり、彼女の為に魔塔の最上階広間横の控え室へ

運ばれ彼女の目覚めを待つ為に控える女官三人の他にも下働きの為のメイド達も続々と魔塔の中へ。


「我々の実験はどうなるのだ!」


「せめて研究資料の一部だけでいいから取りに入らせてくれ」


魔塔前に詰め掛けた魔導士達が口々に自身の研究資料やら実験途中の魔石やら水薬がと

喧しく騒ぐ横を王太子妃宮に仕える女性達が通り過ぎ、それに着いて魔塔に潜り込もうとする

魔導士…つまりは男共は騎士の制止を受け排除されている。


「後二日待てば解放されると言っているだろう!!」


「妃殿下の御坐します最上階には上がらぬから何卒入館のご許可を!」


口々に懇願に怒声にと外での喧騒を余所に、広間前にはペチコートやクリノリンを用いないシンプルなドレスに

剣帯を腰に付け、レイピアを吊った女性護衛官が扉の前を固めており

常ならば女主人や貴族女性の前に姿を隠すよう働く筈のメイドが態と廊下で立ち働いている姿があった。

これは王妃直々の命令で、隙を突いて広間に突入する慮外者対策とゲスミドの奴等や

何処ぞの野心溢れる貴族達が何等かの工作活動を予防する為の人目を配置した形だ。


この異常事態は建国の雄、勇者の遺産の行方と王家の血の正当性という重大な事案だからだろう。

その事に何よりも衝撃を受け無口のままな王とは対照的に精力的に事態の収拾を図ろうと動いていた。

王妃は隣国のマムクールから輿入れして来た他国人なので冷静に状況を見る事が出来るのだろう。

そしてマトラ神が降りて言葉を告げたとあれば、余人が私情や私利私欲を捩じ込む隙を与えては

国家存亡の危機というのだけは解り切っていた。


特にグラーシアの受け取った魔法使いの黒石に伯爵の分際で、妃殿下と尊称される相手に向かって

直接手を伸ばす不敬を行い、マトラ神を降ろしたシェンの目で見透かされシェンの口から

古の勇者一行の真名を聞き出して利用しようとの思考を言い当てられたゼネット伯は

王宮の客間の一室に留められ、内々にではあるが国王自ら何のつもりだったかと問われて

冷や汗を流して夜も碌々休めないで監視を受けている。


王太子ハインリヒは側近のファングル小公爵カルロに妻の身に起きた異様な状況を伝え

カルロは直ちに父 ファングル公爵へ妹の異変を伝えれば、ファングル公爵本人が王宮に駆け付け

配下を率いて魔塔へ向かう。


その間に大聖堂へ戻ったミハエルから、シェンの意識が戻ったとの知らせが王宮に届く。

まさか神の器となり大分消耗している次代の大司教と決まったシェンを呼び付ける訳にもいかず、

王家から王太子ハインリヒが事情を聞きに大聖堂へ向かう事となった。


そして大聖堂のミハエルから、魔塔に詰めている女官に向けて書簡が一通。

目覚めの時は外見身体的特徴が変わる事がある事、目覚めた後はとても空腹を覚えて

常の三倍以上の食事量を用意すると良い事。

そして回復には暫く掛かると思われるので配慮を必要とする事を助言するものだった。

また、魔塔に配下の騎士歩兵従卒を引き連れて駆け付けたファングル公爵は

塔の入り口に殺到する魔導士を一喝し、不用意に侵入させないように王宮騎士団と連携し警備に当たる。

貴婦人の居る屋敷に婚家とも関係無く血族でも無いの男性が無闇に立ち入るのはよろしくないからだ。

ましてや目覚めてすぐの寝起きの無防備な姿を人の目に晒すなど、考えられない不品行と

女性側が非難される有り得ない状況だからだ。


しかし魔塔を囲む魔導士達は自身の研究の記録や実験途中の素材や溜め込んだ魔石等を取りに入館させろと

口にして、実際にそういった物の回収を目的に騎士達に迫ってはいるが

内心では建国の英雄の遺産、魔塔の外に居てもそれを手にしたソレが何なのかは判らぬまでも

強大な力に皮膚が粟立つ程の物凄い代物だというのは感じ取れ

もし、それを一目拝む事が出来たら…運良く手に取れたら…魔塔にある内に少しでも解析出来たら

幸運にも欠片の一粒、冊子のページ一枚、魔方陣の一節でも!と下心満載で詰め寄るので迫力が違う。


騎士やファングル公爵兵としてはそんな魔導士の思惑なぞ知った事では無い。

尊崇すべき王家に嫁がれた王太子妃、大事なファングルの姫の尊厳を守ろうと此方も必死だ。

その様な睨み合いが続いている頃、大聖堂に担ぎ込まれたシェンはというと意識が戻らないまま

聖堂の奥の貴賓室のベッドに寝かされていた。

大聖堂の敷地に入り、広場横を突っ切り奥へと進む内に聖堂内に満たされた神聖力や清浄な空気に癒されて

呼気から取り入れたのか段々と顔色が良くなっていった事に教会関係者は安堵の息を漏らす。


そして外見に顔色よりも変化が顕著だったのは急激に伸びた髪とその色だろう。

元々栄養状態があまり良くなかったモノヌイナ教会の孤児時代から神職に進み

清貧を旨として生きてきた人生を反映するように、赤茶の髪は油気が無い

パサパサの枝毛もあちこちに見られ、耳の上辺りで簡単に切り揃えられていただけの手入れ不用の

簡素な髪型が見る間に波打ち床を掃く程に伸び、赤味が増して艶々と鏡のような艶やかさが与えられたのは

膨大な神力を維持する為の変化だろう。


神の依代となった身は消耗が激しい事を知っているミハエルの指示で

厨房では大鍋に野菜スープが煮込まれ、竃に丸めた黒パンの生地が入れられ、サラダには滋養が付くよう

ナッツやチーズがたっぷり掛けられて酢漬けの野菜がボウルに盛られ、魚には岩塩とハーブが塗され

目覚めを待って火が入れられるのを待っていた。


一晩が経ち、目覚めたシェンはすかさず運び込まれたそれ等の食事を常人の五人前をペロリと平らげた。

その頃漸く聖騎士が駆け、中央神殿に身を寄せていたシェンの養い親の

モノヌイナ教会司祭のヤーヤンも、ビスケットと呼ぶにはあまりにも素朴な雑穀と自家栽培のハーブを

僅かな小麦で練って焼いたモノヌイナでよく食べられている焼き菓子を抱えて大聖堂に到着した。

シェンは届けられたモノヌイナ風ビスケットに目を輝かせて齧り付き、6枚程丹念に咀嚼して

木のカップに注がれた水で流し込んで一息ついてから口を開いた。


「あの中は地獄そのものでした、あの魔法使いの姉さんの殺意が満ち満ちて

残した記録を解読した人間諸共この国を壊してやるという術式だとすら思える魔力の暴走でした。

それから魔塔と魔法使い、キリアラナに残された記憶と歴史を

一度に一人の人間の脳に押し込められる訳がありません。

それを無理に行なって妃殿下の魂が破裂させ肉体が四散したのを皮切りに、

魔力の波が国を走り全て焼き尽くすつもりのようでした。

それを妃殿下と妃殿下に加護を与えた神々の御力が拮抗して何とか外に漏らすまいとして

妃殿下はマトラ様の御導きで今は御神域に居られます」


人心地付いたシェンの言葉が冷たく床に落ちる。


「マトラ神様に保護されたのか、それなら大丈夫だな」


軽く事情を説明されていたヤーヤン爺は安心させるようにシェンに言葉を掛けたが

そんな簡単なものではないと、シェンは首を振り言葉を続けた。


「それでもあの魔法使いの姉さんの恨みは深い。

何より此方のヤツ等は英雄の皆さんに何もお礼をしていねえじゃねぇか。

約束してた帰還を反故にして仲間の女の子を強姦して殺し、麟坊は焼死で金井は獄死。

あの若ぇ兄ちゃんと魔法使いの姉さんが結婚して静かに暮らしてる所に度々チョッカイ掛けて

産褥の床から孫まで盗られて勝手に血統を言い立てられて…当人からしてみりゃ冗談じゃ無ぇだろ」


「その事を妃殿下が気付かれて、マトラ神様に何事か取り次いで頂けたのなら此方も最大限協力出来るのだが。

それより英雄の事を名前?で呼ばれていたようだが知り人なのか」


ミハエルの問いに是と頷く。


「妃殿下が真名を伏せられておられましたし、魔法使いの姉さんの記録にも

名を伏せよと書かれておられたので言いませんが

剃髪姿の坊様の方は昔、アイツがヤンチャが過ぎて仏門どころか人の道すら外れて

バカばっかしていた頃にアレの親父の住職に頼まれて暫く面倒を見ていた事があったんです。

まさかあんな風に子供を庇って、自ら火を付けて死ぬとはアイツらしいです。

アイツは意地っ張りで此方も手を焼きましてね、満遍なくボコボコにして氷点下の菅平の

牧場に置いてきた事もありましたが中々改心しねぇモンだから得度出来たのが奇跡じゃねぇかって。

それから戦士?の方の金井ってヤツは酷いお人好しで、アレの女房はウチで面倒見てたコでしてね

母親が死んで火葬場で骨になって帰ってきたその日に義理の父親にもなれねぇ

母親のヒモに売られて、温泉街の転び芸者って名の娼婦にさせられるところを逃げ出して

峠道をひたすら走って藪の中に隠れてを繰り返して、俺ん店に飛び込んで匿ったのを

アイツが嫁にくれってウチに通い詰めてとうとう掻っ攫っていきやがった」


懐かしげに語る声音に湿りが帯びる。


「そのコは病気をしましてね、金井は子供を作れずに6人の養子を取って育て上げましたよ。

実の子じゃなくても賑やかで幸せそうにやってまして、時々ウチにラーメンを食べに来たり

息子がウチに学生バイトで来て働いたり…楽しかったですよ。

その内子供が巣立ったり、俺も身体にガタがきて娘夫婦に店の経営を任せたりして

あまり顔を見せにとはいかなくなりましたがね」


親しくしていた知り合いが、異世界で命懸けで魔王退治に巻き込まれていたとはと

今日の今日まで全く知らなかったと、長く伸びた髪を揺らしてシェンは呟いた。



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