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14 閑話 彼女が魔法を練習する理由(レイモンド視点)

 今日も今日とて、彼女は魔法の練習をする。

 僕はよく飽きないなあと思って見ていた。

 ……こないだのドート海岸の魔法の練習は本当に焦った。

 あんな声を出されて冷静でいられるわけがない。夢にまででてきた。非常に困る。

 彼女は夢中になると周りが見えないところがある。……心配だ。

 今日は水晶玉ではなくものを浮かせる練習らしい。

 クマのぬいぐるみを浮かせて、遠くのかごにそっと下す。

 ちなみに、あれからローザに魔法使用中は色気のない声を出すように指導されたらしく、今日は「ぐごごご」とか「しゅしゅしゅしゅしゅ」とか言っている。

 ……それもどうなのだろうか。

 でもそもそも、なんで彼女がこんなに魔法の練習をしているのかを僕は知らなかった。

「……もっと僕にもかまってくれませんかね?」

 つい恨みがましく言ってしまう。

「あ、ごめんなさい。そうですよねせっかく来てくれたんですし」

 彼女はこちらを向いて座ってくれる。

「そんなに魔法を練習して何かに使うんですか?」

 僕は聞いてみた。もしかして、彼女は魔法使いになって生きていくとか言い出すつもりじゃないかと勘繰ってしまう。

「……まあ、うん。そうなんです」

 あははと困ったように笑う。

 ……この顔は何かあるときの顔だ。

「教えてくれませんか?」

 にっこりと微笑んで尋ねると、彼女は少し目線をそらした。

「……ヘンリー先生が魔法のコントロールができないとこれからの人生大変だろうって言うので……」

 ヘンリー・ブラウン。ウィステリア家の元執事で、彼女が絶大な信頼を寄せる男だ。憎い。

 そしてそれは理由の一端だけなのだろうとも気づいた。

「なるほど。それから?」

「……それだけですよ? あ、あと魔法が使えるなんてかっこいいじゃないですか!」

 明るく話し出す。……ごまかすときの言い方だ。全く何で通用すると思うのか。

 僕は彼女のあごに手をかける。

「本当のことを言わないなんて悪い子ですね? おしおきが必要ですか?」

 彼女は真っ赤になって後ろに逃げた。首をぶんぶん横に振る。

 ああかわいい。

「……あの、まだあんまり言いたくなくて……」

 上目遣いで訴えかけてくる。かわいいけれどこれはだめだ。

「僕とシンシアの仲じゃないですか、なんでも話してください」

 にっこりと微笑んで言うと、彼女は観念して話し出した。

「あの……ヘンリー先生が『時空旅行』って魔法のことを教えてくれたんです。

やり方はまだ教えてもらえていないんですけど、それは魂だけでいろいろな世界を行き来できるすごい魔法らしくて。

……私もそれを使えるようになりたいなあと思って……まずは教えてもらえるように魔法の練習をしているんです」

「『時空旅行』……?」

 僕は眉をひそめる。

 魔法のことはわからないし、そんな話聞いたこともなかった。

「……それはもしかして前世に戻りたいってことですか?」

 僕は難しい顔で尋ねる。

 彼女がこだわるのはいつもそこだった。

「……戻りたいというか、見に行きたいという方ですかね……」

 視線を下にして彼女は言った。僕と目線は合わなかった。

 僕はたまらない気持ちになる。胸がぐしゃぐしゃしてもやもやして……こんなの許せなかった。

「なんで……!」

 彼女の両肩をつかむ。

 彼女はビクッとおびえた顔をした。

 僕はそれが悲しくてうつむいて、もう顔をあわせられなくなった。

「僕じゃダメですか……?」

 絞り出すように声を出す。

 ……結局、いつまで待ってもあなたは僕を選んではくれないのか。

「えっ? ち……ちがう……ちょっと待ってください!」

 彼女が慌てて言う。

「ああもう! まだうまく決めれてないんですよ!」

「……?」

 意味がよくわからず、僕は迷子のような心細い気持ちで彼女の顔を見る。

「あの! 確かに私はずっと前世の家族にこだわっているんですけど! でもそもそも戻ったところで私は死んでいるんで体ももうなくなってるだろうし戻れないと思いますし……ううう……そうじゃなくて! とにかく、ちょっとたぶん勘違いしてると思うんで待ってください!」

 全く要領を得ない。

 言われた通り僕は待つ。

 しばらくすると彼女は話し始めた。

「……私が全部悪いんです。ずっとレイモンド様をお待たせしています。何の返事もできないまま……。

でも、だから私はこれをなんとかして前に進みたいんです。前世の世界に行ったからって何か変わるのかもわからないけど、もしかしたら……私はそうしたら心の整理ができるんじゃないかって……期待しているんです」

 そう訴えかけてきた目はとても真剣で、本心なのだろうと思った。

 ……心の整理ができたとき、彼女はどうするのだろう?

「僕のことは好きですか?」

 一度も彼女から聞いたことはなかった。

 だからずっと不安だった。でも怖くて聞けなかった。

 彼女は顔を赤くして渋い顔をして考える。

 そして、

「……好き……です……」

 小さくつぶやくように言った。

 その瞬間、僕の心は一気に踊り出した。

 僕はうれしくて、天にも昇る気持ちで、気づけば声をあげて笑いながら彼女を抱き上げてくるくると回っていた。

「あははははっ! あははははっ!」

「ちょっ……! なんですか!? もうっ!」

 最高の気分だった。今ならなんだってできそうだった。

「僕もです! 僕もシンシアのことが大好きですよ!」

 彼女の顔を見てまっすぐに言う。顔はもうゆるみっぱなしだ。

「……はい……知ってます……」

 彼女は真っ赤な顔で目線をそらして、恥ずかしそうに言う。

 もう、最高にかわいい。

 ぎゅっと抱きしめる。いつもの抵抗はなかった。

「それだけ分かれば僕は百年だって待てます」

 本当に本気だった。

 好きな人に好きと言ってもらえれば、なんだってできる。

「……あの……本当にめんどくさくて……ごめんなさい……。私すごくひどい女なんです……」

 謝る彼女に僕は微笑みかける。

「そんなところも大好きですよ!」

 彼女のおでこにキスをする。僕は今完全に調子に乗っている。でもそれでいい気がした。

 固まっている彼女に僕はにっこりと微笑んで語り掛ける。

「いいですか? これはあなただけの問題ではなくなったんです。僕たち、つまり未来の夫婦の問題です。

だから、一人で悩まないでください。一緒になんとかしていきましょう。ね?」

 彼女の水色の瞳に涙があふれだす。……とてもきれいだ。

「……うん……」

 彼女の涙を指でぬぐってあげて、まぶたに何度もキスをした。

 そして目線が合う。僕はそのままその唇にキスをしようとして……手で止められた。

「あの、ダメです」

 僕の唇に手を当てたまま、彼女がねめつけてくる。

 僕の未来の奥さんはどんな顔をしてもかわいい。

「どうして?」

 甘くささやくように尋ねる。

「……なんでもです。……この流れは……非常にまずい気がします……」

 彼女はそう言って、警戒して僕との距離を取る。

 それは警戒心の強いいつもの彼女だった。

 僕はつい笑ってしまう。

「はいはい、もう何もしませんよ」

 手を上にあげて降参のポーズをとる。

「今日はシンシアから愛を告白してくれたことだけで十分ですから」

 いつものように微笑んで告げる。

 真っ赤になった彼女を見て僕はとても幸せだった。

学園入学前編全話完結です。

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