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「いま、お休みなの?」
「うん。だけど、半分仕事をやってるようなもんだ」
「え」
「つまり、この黒鷹湖の様子を見に来たってわけ」
ススムは最初、意味が分からなかった。そして、気づいたときには大声を出していた。
「ここ観光地にするの!?」
「まだ決まったわけじゃない。他にもあと三ヶ所、候補地があるんだ」
「それじゃ、その三つの方にしてよ! ここだめだよ、ちっともいいとこじゃないよ!」
「そうだね。……ここはとっても気持ちがいい所だもんな」
「うん」
思わず頷いていた。慌てて叫ぶ。
「ちっとも良くないよ!」
「どっちだい」
敦が噴き出した。
敦はしばらくして笑いを抑えると、ススムに向かって話し出した。
「ここにはね、観光地候補だからって、ただそれだけの理由で見に来たんだ。主のことなんか、全然知らなかった。この町に来て、人に聞いて初めて知ったのさ。で、これは使えるんじゃないかと思ってね。つまり、黒鷹湖の幻の主をアピールしたら、うまく行くんじゃないか、と考えたのさ。主のことなら釣具屋の斉藤さんが一番だから、とも聞いたから、ここに来る前にお店に寄ってきたんだ」
「それでか。僕の名前とかいろいろ知ってたの」
「うん。お父さんから聞いた。だけど、観光地化の話は、お父さんにも反対されたよ」
当然だ、と思った。
「他の三ヶ所は逆に積極的なんだけどな。仕方ないから、この際、釣りでもして帰ろうかな、と思ってさ。コレを買ってきたってわけ」
「それは、まいどありがとうございます」
「どういたしまして。釣れんかったけどね」
「簡単に釣れる相手じゃないよ。甘甘。お兄さん、もしかして釣りは初めてなの」
敦は穏やかな笑顔になる。
「これ買ったとき、お父さんにも可笑しがられたよ」
そして続けた。
「主について教えてくれないかな」
「……」
「どうやら君が、最後の目撃者らしい」
「……」
「主は、今も本当にいるんだろうか?」
「!」
ススムは沈黙をつらぬく。
「だめかい?」
ススムはこっくりと頷いた。敦はほほ笑んだ。
ススムは苦しかった。敦をもう、憎めなかった。できたら、なんでも教えてやりたかった。でも、それで観光地に決まってしまったら、主はどうなってしまうのだろう。僕の夢。僕は、どうしたらいいんだろう――!




