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敦はがっかりした様子も、怒った様子も見せなかった。ふいに。
「うん、じゃあ、こうしよう」
どこかのんびりした声だった。ススムは怪訝そうな顔で敦を見る。瞬間、敦はススムの両肩をつかむと、大きな声で言ったのだった。
「勝負しよう!」
「え?」
「夕方まで、どっちが数多く、魚を釣れるか勝負しよう。そして俺が勝ったら、君は主のこと俺に教えてくれる」
敦の迫力に、ススムは圧倒される。敦はススムの顔を見つめた。
「それとも、嫌なら、君は今すぐ、ここから逃げ出してもいいんだぜ」
「……」
……なんだって?
血がふつふつと沸き上がってくる。
このひと、この僕に、勝つつもりでいるよ? ばか言ってら。暑さで脳みそ煮こぼしたんじゃねぇが? 分がってねぇな。ここは、僕のホームなんだぞ。
「……で、僕が勝ったらどうしてくれるの」
ついに応えた。
「観光地化の話、ご破算にしてくれるの」
「残念だけど、観光地化の話は、俺一人の力じゃどうすることもできない。沢山の人たちが関わっているからね。だけど、たとえ俺一人だけでも、この湖の観光地化に反対することを約束する」
「ずいぶんしゃべったけど、そのわりには、大した内容じゃないじゃないか」
遠慮なしに言う。ススムは笑顔になった。
「けど、それでいいや」負けないから。
敦はススムの両肩をつかんだまま真っすぐ見つめる。ススムも負けずににらみ返した。
「……男と男の約束だぞ」
それは古き、されど強力な魔法の言葉だ。
「おう!」
ススムは興奮して叫び返したのだった。




