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宮腰が話を続ける。
「見ての通り、背ビレが破損している。考えられることとして、偶然、上から落ちてきた石塊が当たってしまって、壊れたのではなかろうか。背ビレは、姿勢の安定という大事な役割を担っていたに違いない。それを破損させられてしまったものだから、うまく身体が揺れなくなり、ひいてはゼンマイも巻けなくなったのだろう。先の台風直撃が来るまでは、休眠せざるを得なくなったわけだ。さらにだ。背ビレのひび割れは、時と共に進行し、遠くない未来において、胴を割り、内部に浸水をもたらし、カラクリ魚としての生命を終わらすものと予測された。誕生から百年。付喪神として目覚めたばかりのこの真の主は、いきなり死を覚悟し、自らを顧み、“魚”としての最期を希求したのであろう。そしてその相手にススム君、君を、選んだということだ……」
敦が食いついた。
「真の主?」
宮腰は頷いた。
「そうじゃ、これこそ、黒鷹の真の主だ」
手に一枚の写真を持つ。
敦が改めて質問をぶつける。
「何時、誰が、作ったのですか?」
核心の問いだった。宮腰はほほ笑んだ。
「わざと、最後まで説明を控えていた。これが、その透過画像だよ。やはり内部空洞に木札が仕舞われていて、それに墨で子細が記載されとった」
写真を掲げる。
『文久三年八月 平塚源内 銘 ギョオオ』
皆の口から、同音の声が叫ばれたのだった。
「魚王(ぎょおお)!!!」




