93 さわやかCクラス
研究日前日 (金曜日) のCクラスの授業は午前に剣術、午後に実践魔術が執り行われる。他のクラスでの実践魔術はクラスの教室で行われることもあれば、専用の実験教室で行われることもあるが、Cクラスについては毎度必ず専用のそれもCクラス専用の教室で行われている。
理由は至極簡単。
絶対何かやらかすだろうから何かが起きても他のクラスの生徒たちが避難できるようにあえて離れた場所でやらせているのだ……。
そんな実践魔術の授業では、今年で60を過ぎる担当のオーヴォエが講義を行っているものの、まともに話を聞いているのはせいぜいカロゥくらいで、他の生徒たちは実験室内の本を勝手に読み漁り先生の話など聞いてなどいない。
しかしオーヴォエはわざわざそのことを指摘したりはしない。どうせ言い聞かせようとしたところで無駄だと分かりきっているから……。
「というわけで、魔法陣は一見円環の中にある文字が重要だと思われがちじゃが、文字は水の流れを攪乱させるために川に建てた柱のようなもので、谷に水が流れなければ単なる柱に過ぎない。重要なのは谷に水を流すこと。円環という谷に魔力という水を流すことじゃ。だからこそ、効率的に魔力が集まりやすいようにまず円環の基本的な形式を表現することから始め、目的に応じて円環内の記号や文字、目印を調整し、もし流し込む予定の魔力の量が多すぎる、あるいは少なすぎるようであれば、それに合わせて円環の形状を工夫して、効果的に術を起動させるのじゃ……。この点を意識して魔法陣の構築を計画するのじゃぞ?」
「なるほど……。解説ありがとうございます」
オーヴォエの御高説を素直に耳に入れ謝辞を述べるカロゥ。
「さて、カロゥ。お主は何か使ってみたい魔術や魔法陣などはあるか?」
「そうですね……。個人的には翻訳関係の魔術とか儀式魔法とかがあればと思っております。今、ジャルマ先生の下で魔族語の翻訳を行っているのですが……」
オーヴォエは顎に生やした髭をいじりながら「うむぅ。それは難しいのぉ」と呟く。
「翻訳魔術。それは今に限らず随分昔から欲しいものと思われ多くの研究者によって研究がなされてきたが、いまだに道筋が見えておらん。そして道筋が見えないことすらもまだ分かっておらんのじゃよ」
「え?道筋が見えないって……?」
「文字通りじゃ。どうすれば翻訳魔術が機能するのか……。という以前に、そもそも翻訳魔術なるものが存在しうるのか……。それすらも分かっておらんのじゃ。あれば越したことはないが、なくとも今の治世を見ればわかる通り、苦労こそするが意思疎通ができないわけではない……。そもそもそのような機能を持つ魔術が存在するかどうかわからぬものを研究するよりは他の研究をした方が有意義ではないかと感じるようになり、その手の研究を行うものは今の時代にはいないかもしれん……」
「そうでしたか……」
その手の魔術があれば、モルゼオとゲイルとの輪読会の負担が思い切り軽く済むだろうと期待していたが、そもそもあるかどうかも怪しいのであれば、負担軽減の期待はない。カロゥはがっかりした。
そうしたところで、Cクラスの男子生徒、カーネル・ボトロナが突然大きな声を上げる。
「おい!みんな!面白そうな魔法陣を見つけたぞ!!!」
その声に釣られて生徒たちがぞろぞろとその男子生徒の周りへと集まっていく。
「英霊を召喚する魔法陣だそうだ!」
「へぇ……。そのようなものがあるのか……。ところで英霊って具体的に誰を召喚できるんだ?」
「んー……。本には書いてねぇな……。ランダムじゃねえか?」
「英霊って、魂を引っ張り出すの?輪廻転生するこの世界で特定の人格の英霊をピンポイントに引っ張り出すことできるのかしら?」
「ピンポイント……。あ、無理って書いてある。本当にランダムみてぇだ」
「魔法陣として掲載されてるってことは過去に実践例があるってことでしょう?誰を召喚したことがあるのかは記されてないの?」
「まてまて……。えぇっと……。今から1300年前に、魔族が『奴隷侯爵』ってのを召喚したらしいぞ?『奴隷侯爵』ってなんだ?」
魔法陣を見つけた男子生徒の問いかけに周囲の生徒たちは首を横に振って知らないと告げる。
「……。まぁやってみりゃぁ誰が召喚できるかって分かるだろ!みんなやってみようぜ!」
途端に「おー!」と大声を上げて生徒たちはぞろぞろと教室から出て行ってしまった。
その中で取り残されたカロゥとオーヴォエ。二人はゆっくりと互いの顔を見合わせる。
「先生……。大変まずい気がするんですが……」
「ああ。大変……。いや、とてつもなく非常にまずい……。カロゥ。学園長室に行ってきてくれんか?わしはあれを食い止めに参る」
二人は大変疲れたような表情を浮かべ、カロゥは学園長室へ、オーヴォエは生徒たちが向かった先へと急いで向かった。




