83 司書長のライナさん2
落ち着いを取り戻し、ライナに顔を向きなおす。
「ミリーさんは今どんな本を探してるのかしら?昨日も結構熱心に探していたって他の司書が言ってたわ」
「勇者アリス様について。私が耳に入れたことのある以上のお話が何かないかと思いまして」
「あら?それはどういう意味かしら?」
ミリーの言葉の意味を理解できなかったのか、眉間に皺を寄せてきょとんと首を傾げながら尋ねられる。ミリーは素直に話すべきかどうか悩んだ。
探している理由はもちろんネルカの件があるから。自分が調べてどうにかなるわけではないとは分かってはいるものの、ネルカが元気になる何かしらのきっかけを与えられるなら藁をもすがる思いで調べて回っているのだ。正直に話せばネルカについて何かしら言わなくてはならなくなる。そのことが頭の中でぐるぐると回っていく中、何とか紡ぎだした言葉が「稀代の英雄ともいわれるアリス様にも人には言えない秘密の一つや二つくらいあったのではないかなっと思いまして」だった。
「んー。そうねー。確かにそれほどの有名人ならそう言ったものくらいありそうよね……。でも不思議なことに勇者アリスについて綴った本とか伝承の中にはそういった話題って実はないのよね……」
ライナもまた不思議そうに呟いた。
「正直勇者アリスって、いろんな意味でできすぎな設定だと思わない?たった3人の仲間を率いて魔族と戦って、魔王と戦って、最後には和平協定まで仲介するのよ?本当にそれだけの能力のある人間だったなら、その後のお話の一つや二つくらいあってもいいと思うの。例えば王宮に勤めたとか、王女様になったとか、冒険を続けたとかなんでもいいの。でも、和平協定を結んで村に戻った、という話しかない。しかも村に戻ってからどうなったかまでは一切分からない。本当にそういう人物がいるなら、村でももてはやされて噂話の一つや二つくらい湧いて出てくると思うのに……。それすらないようだから、本当は実在しなかったんじゃないかなって、そう思った時期も…………、あったわ…………」
「あった……。ですか?」
ライナの過去形の語り口に思わず疑問を挟んでしまう。
「ええ。ネルカ・スワローズさんでしたっけ?姫騎士リズの転生者の。ネルカさんがいて、ネルカさんの口からアリスが居たとはっきりとおっしゃってるみたいだから、私の仮説は間違ってるなって思うでしょ?ネルカさんというか姫騎士リズが嘘をついていない限りは」
自分を嘲笑するかのように笑みを浮かべながら応えた。
「そうなると謎が謎を呼ぶから……。私は考えないことにしたわ」
そして、両手を広げて開き直ったかことをアピールするかのように笑いながら答える。
「個人的には泥沼にはまるような感じになるから、深堀は奨めないわね……。止める権利はないけど」
「いえ。大変参考になりました」
ミリーはライナに頭を下げて謝意を示す。「参考になったのならよかった」とライナはニッコリした。
ふと、頭を下げつつ、頭の中で引っかかる言葉が出てきた。ミリーは顔を上げ再びライナに尋ねる。
「あの……。レッドネックって言葉、ご存じですか?」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
ライナの表情が固まった気がした。それを感じて思わず「すみません」と呟いてしまう。
「あ……。ごめんね、反応できなくて!突然田舎者って言葉が出てきたから何のことかなって思って……」
「いえ、こちらこそよくわからないことを突然呟いてしまい申し訳ございません」
もう一度謝ると「その言葉はどういう文脈で耳に入れたことがあるの?勇者アリスに関係すること?」と逆に質問される?
「その……。どこで聞いたかは覚えがないのですが…………。なんとなく引っかかっておりまして」
ネルカから聞いたとは言わず、慎重に言葉を発した。
「そう……。だとすると、私じゃ役には立たないかもね……。少なくとも田舎者とか労働者とかの意味合いでしか聞いたことがないから」
「そうでしたか…………」
司書長なら何かを知っていると思って聞いてみたが、ただ得体のしれない何かをひっかけてしまった気がして思わず口を噤んでしまう。
「だからいやだって言ってんだろ!!!」
長く続きそうな沈黙だったが、食堂内での突然の大声にミリーもライナも他の教員たちも声の主の方を振り返った。
「そこを頼む!君の実力なら研究費からでも報酬を支払えるはずだ!」
「やらせることが翻訳だってのが嫌だって言ってるんだよ!なんで好き好んで魔族の古文をひたすら翻訳しなきゃなんねえんだよ!」
「大丈夫だ!君の実績にもなる!翻訳の実績を持っていれば今後の君のためにもなるはずだ!」
「ちょっと先生、ゲイル君。落ち着きましょう?みんな見てますよ?」
何やら揉めているらしいゲイルとモルゼオ、そして彼らを宥めるカロゥの姿がそこにあった。
「はぁ……。ゲイル様ったら…………。すみません、ライナ様。一度ゲイル様を注意してまいります」
「はーい。行ってらっしゃーい」
ライナは手を振りながらミリーを見送った。彼女の背中を追うと、視界の中に含まれているモルゼオはすぐ後ろをレベッカに取られ、首に手を回されて絞め落とされていた。そこに追撃とばかりにバルトに腹パンを加えられる。騒動の相方であるゲイルは他の教員が注意を入れる前にミリーの注意を受けている。最初のうちは「俺は悪くない!」と無実を訴えかけるかのようにミリーに主張していたが、時間が経つにつれて「はい……。はい……。…………申し訳ございません」とミリーに謝罪するようになっていた。ミリーの声が聞こえてこないのでいったいどういう会話がなされているのか気になって仕方がないライナだった。
「それにしても『ただの田舎者』ね……………………。流石はフォアワード侯爵家に代々務める奴隷っといったところかしら。偶然か必然か運か運命か。ミリーさんなら『この謎』、解いてくれるかもね……………………」
ライナは人知れず呟きながら、懐から取り出した一枚の紙を眺めていた。
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討伐指令書
討伐対象:レッドネック (本名不明)
討伐対象の詳細 (経歴):ベル◆◆◆オ王国◆◆◆ヴェオ地方元ヨー◆エン◆◆爵領◆ニュ◆◆◆村出身。5歳の◆◆◆◆◆◆◆◆◆隣家の◆◆の下で育て◆れる。7歳まで◆◆◆◆◆◆◆に住み、その後伯爵領の◆◆◆◆に◆◆◆◆◆と共に2年間在学。卒業後◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆、そ◆手伝い◆◆◆国◆を転々とする。10歳になる年に◆◆◆◆◆◆◆◆◆。その後の足取りは不明。12歳◆時にC◆パ◆◆ィー『◆者◆◆◆◆◆◆◆◆◆』に所属。15歳の◆◆◆◆フェ◆◆◆◆アダル◆◆◆砦撤◆戦で◆◆の出◆ハンター部隊の救援に参戦。その後、現フォアワード侯爵と共に旅に出る。16歳の時に魔族領ル◆◆・バ・◆◆ン城◆を破壊。ローザンヌ協会 (原文ママ) 司祭◆◆◆◆◆ル◆スと合流。17歳A級パーティー『◆者◆◆て◆◆◆◆◆◆』のメンバーがレッドネックのみになる。その後、2年間足◆◆が不明。19歳の時に戦線復帰。◆◆◆◆◆◆◆◆◆王国王女◆◆◆◆◆◆とベルフェリオ王◆エドワード9世 (原文ママ) の和平の提案に対し、その協力を志願。◆◆◆◆◆◆の護衛と◆◆◆◆◆◆を助ける。20歳◆級◆◆◆ィー『◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆』の解散手続きを行う。その後◆◆◆◆ール村に戻る。以後不明。24歳、ヨークエンド元伯爵主導の◆◆◆◆◆◆◆◆◆殺が起こる。レッドネックは◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆難を逃れる。その後、◆◆◆◆◆◆◆魔と契約した模様。魔物を召喚し、グ◆◆◆ェオ地方に災厄をもたらす。現25歳。
補足事項1(追記):◆◆◆◆◆◆。現在フォ◆ワ◆◆侯◆によ◆◆護されている。
補足事項2(追記3):レッド◆◆◆◆義◆で◆◆師匠でもある◆◆はフォアワード侯爵と◆◆ラス司祭により対処◆み。
補足事項3(追記6、重要):彼女は危険である。
討伐参加資格:
注意事項:本参加資格についてはハンターギルド登録者に限る。傭兵ギ◆ドのみの登録者、領軍兵士、国軍兵士、義勇軍兵士については各所属の上官に個別に問い合わせること。
S級ハンター。S級パーティー所属のA級ハンター。但し、A級ハンターに関しては実力不足と判断された時点で参加を禁止する。
注意事項(追記):本討伐クエストに関してはB級ハンター以下の参加を一切禁じる。
注意事項(追記2):A級ハンターの参加を禁じる
注意事項(追記3):全ての◆◆◆◆はクエ◆トの参加不参加にかかわらず、最新の戦闘状◆、◆◆地帯の◆認を◆◆◆と。遭遇戦による◆◆◆◆多◆出ている。
注意事項(追記4):討伐クエスト参加者以外の戦闘地域の立ち入り◆◆◆◆。現在◆戦闘地◆◆◆◆る情報は緊◆◆示板を確◆のこ◆。
注意事項(追記6、重要):遭遇の気配を感じた場合、すぐに撤退せよ。伝達中の戦闘地域以外でそのような気配を感じた場合はすぐにハンターギルドに報告すること。報告を怠り消滅した村が出ている。
注意事項(追記10、最重要):全ハンターに対する出撃命令が出ている。他全てのクエストを破棄し、至急本クエストを受理せよ。
最重要連絡事項(追記11):S級ハンター、リーゼ◆◆テを見かけたものは大至急彼女にギルドに出頭するよう連絡してください!!!(走り書き)
討伐対象の戦闘能力について(追記3):不明。
(追記5):レッドネックとの戦闘以前に魔物との遭遇戦による全滅が相次いでいる模様。現時点で不明。
(追記6):魔法が使える模様。
(追記8):魔物(バルディグラダボナ、魔製コカトリス、デノーエ、ベア、正体不明など) 並びに悪魔 (アルベルフェティオ、ジャノマ・ディラ・メラなど) などについて、個別に討伐クエストが出ている。大至急、確認せよ。A級以上が推奨だが現在人手が足りていない。
(追記10):奴は悪魔か神そのものだ (走り書き)
(追記12):◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆。生死不明の状況。 ←いま彼女はどこにいるんだ? (誰かの走り書き)
それよりも他に対処可能なハンターは居ないのか!!(誰かの走り書き)
ギルドよりそのほかの連絡事項:
(追記13):ハンターギルドはグルッヴェオ地方より撤退が決定しました。
(追記14):本クエストの失効を検討中。ハンターギルドのベルフェリオ王国からの撤退を検討中。本クエストの参加申請は控えてください。レッドネック討伐に参加する場合は、ハンターギルドではなく、王国軍に志願してください。
(追記15):参加要件を満たすハンターがいないため、本クエストの受理を停止いたします。
???? (追記7?):◆◆って誰な◆だ?◆◆◆◆ックが◆う言◆◆い◆。
私に勝てると思ってるのかなー♪君たち弱すぎww BY ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ V◆◆ ◆◆◆NE◆K ( 血文字)
↑ ざまあみろ!!!!! (誰かの走り書き、大文字)
ギルドより最終連絡:本クエストに当たって、レッドネック討伐に参加したすべての方々、並びに彼女の悪意にさらされた全ての方々のご冥福をお祈り申し上げます。
本クエストは失効決議可決前に、討伐対象が投降したため、クエストは無効となりました。
本クエストは無効となりました。レッドネックに対する一切の敵対行動をハンターギルドとして禁じます。
詳細に関しては、対レッドネック部隊の各拠点にてご確認ください。
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