67 皆さん!第三章ですよ!
剣術決闘から1週間後の研究日。
「…………オークって魔獣じゃ無かったんだ」
ゲイルの呟きに額にバンダナを巻いている三つ目の魔族、モルゼオが「オークの前で呟くなよ?殺されるぞ?」と注意を飛ばす。
ゲイルは謹慎明けのモルゼオの研究室でカロゥと共に研究会に参加していた。700年前の魔族陣営での農民反乱を題材にしたものだが、その時の反乱はオークやコボルトの人権運動も兼ねていたと。
人権運動って何かしら?と首をかしげるゲイルとカロゥ。王制時代の貴族の二人にはピンと来るわけがなかった……。
「今ミリーに無いものを獲得するために訴えかけることだ」
「?あ!笑顔!」
違う。そうだけどそうじゃない。やはりピンと来ていなかった。
ちなみにモルゼオの頬にはグーパンチの痕が真っ青な痣になって残っている。昨日、まだ謹慎中なのに通常通りに出勤したところをレベッカに「謹慎は今日までだから!」と怒鳴られながら殴られたらしい。ご丁寧にも物理耐性、筋力補強、骨格補強、骨密度上昇などの魔術を右手に重ね掛けしていたとか。しばらく門の前で立ち上がれなかったそうだ。南無……。
「要はゴブリンの農民反乱とオークやコボルトの魔獣じゃないって主張が同時期に重なったと見ていいのでしょうか?」
なんとなくの感じでカロゥが尋ねると「まあ、そんな感じだ」と返ってくる。
「どの勢力も昔から不満たらたらだったからな。魔族側が体制移行するのを機にその不満が爆発したらしい」
まあとにかく新政府とオークらの連合陣営が揉めに揉めたと言うことだ。この言い方はこの言い方でざっくばらんとし過ぎているが。
「よくわからんけど、それと税金となんの関係があるんだ?」
モルゼオは税金関係の研究者だ。話の筋があまりわからなくとも、この話が税金と何かしらの関係はあるのだろうと予想するくらいならゲイルでもできる。
問題はこの話がどのように税金と関係があるのかだが、ゲイルは何かしらの徴税行為がオークたちの琴線に触れて反乱になったのではないか、モルゼオはその時の徴税行為についての解説をしてくれるのではないかと予想した。
ところが、実際のモルゼオの返答はゲイルの予想とは異なるものだった。
「以前、奴隷は納税が免除されることについて話したのは覚えてるか?」
ゲイルとカロゥがコクリと頷く。恐らく債務奴隷の下りで出てきた話のはずだ。
二人の首肯を確認したモルゼオが言葉をつづける。
「昔、奴隷扱い、魔獣扱いされてた連中がいざ権利を得て魔族の仲間入りを果たしたとする。すると他の魔族と同じように税金とられるよな?黙って従うと思うか?」
今度は二人は同時に首を横に振った。
「当然そこでも揉めるわけだ。実際、新政府側と権利主張側との間で折り合いがつくのに100年近く経っている。しかし100年掛けて折り合いがついたとも言える。とすれば、どのような交渉過程があったのかは、…………まあ君たちならともかく、我々研究者としては気になるところなんだ」
そう言って机の上に本を2冊置いた。見掛けない言語で書かれている。
「新政府側に保管されていた交渉の記録の写本だ。二人分ある」
「これ、もしかして魔族語?」
「もしかしなくてもそうだ」
モルゼオの回答にゲイルとカロゥは顔をあわせた。
「あの、ジャルマ先生?僕たち、魔族の言葉とか全く知らないんですけど……」
「ならこれを機に勉強すればいい。…………辞書はこれ。文法書はこれだ。どちらもベルフェリオ王国の外交官のために用意されているものだ。滅多に手に入らない貴重な本だから大事に使え」
さも当然のように辞書と文法書を渡され、再び二人は顔を見合わせた。
「…………俺達、お前の発表聞いているだけで良かったんだよな?」
ゲイルの言葉に「そうだ」と頷く。
「ただ、この交渉資料については俺も目を通したことがない。概要とはいえ100年分ある。一人では限界だ。手伝ってほしい」
「いや、多分おまえ一人で読んだ方が早くね……?」
ゲイルの突っ込みに「ふむ」と唸りながら口を開いた。
「魔族とはいえ、俺は人族領で長く暮らしていてな。魔族の言葉が完璧と言うわけではない。それに500年以上も昔の文体となると、いくら魔族と言えど読めるものは限られてくる」
ゲイルとカロゥはまた顔をあわせてしまう。
その様子を見て、モルゼオが遠い目をしながらニヤリと笑った。
「一緒に地獄を見よう」
「…………………………………………」
二人の表情はまるでムンクの『叫び』のようであった…………。
そして、次の研究会から魔族語での輪読会が始まった。
ちなみに今回も回想回は気合入れて作りました。
楽しみにしてください♪




