61 唐突に表れる白い世界さん
ほれ……。どうするんじゃ?あれ……?」
学園長が呆れた顔をモルゼオに向ける。だがモルゼオは目をキラキラさせたままだ。
「どうなるか面白そうじゃないか」
モルゼオの場違いな発言に教員は皆がため息をはく。
「ルーカス、バルト、早く来んかな?」
学園長もまたこの手の厄介事を解決できそうな者達の到着を待っていた。
ふとゲイルが目を見開けば辺りは真っ白な景色に包まれていた。何が起きたのかと、首をかしげる。さっきまで何かあった気がするが思い出せない。
「?」
気配を感じ、目を向ければ、誰かが立っていた。
「あなたには取り柄がありません」
出会い様に大変失礼なことを言われた。
「平凡なものの取り柄のなさは、平凡さを物語りますが、あなたのように恵まれたものの取り柄のなさは、あなたを愚鈍な存在へと引き下ろすのです」
正論である。正論ではあるが、出会い頭に言われるようなことではない。
「だからミリーに相手にされないのです」
ピクリとゲイルの目尻が動く。
「あなたはミリーに相手をされたい。ミリーをかまいたいと同時にかまって欲しい。けれどもあなたは重大な思い違いをしています」
ゲイルはその人物の言葉に耳を傾ける。
「あなたはミリーの幸せを願っておりますが、あなたはミリーに自らの願い、不満をぶちまけていません」
「ミリーに不満など感じたことはない!」
その言葉に「嘘です」と一蹴する。
「あなたは気づいているはずです。ミリーに対する不満を。しかしあなたは遠慮するあまり、その不満を伝えずにいました。不満がないこと。それは美しいことです。しかし」
その者の言葉が続くと同時に走馬灯のようにゲイルの過去が頭をよぎる。
「不満があるのにもかかわらず、それを伝えず、恰かも無いかのように振る舞う。それはあなたのためにもミリーのためにもならず、ただただ罪を積み上がらせるだけです」
「不満なんて……。っ!?」
ゲイルは頭によぎった景色に言葉をつまらせる。ミリーと共に過ごした時間のうちに自らの心のうちに秘めていたものを自覚した。
「気付きましたね?それこそがあなたの不満です」
そんな馬鹿なと思うも、言われてみれば確かに、ミリーに対する不満であると分かる。だがそんな不満をぶちあげてなんの意味があるのか?
「意味ならあります。心の平穏が保たれるならば……」
今のお前の心は平穏ではないだろ?と見透かすように言葉を投げ掛けられた。
「望みとは不満から出てくるものです。あなたはミリーに対して自らの望みを打ち明けていた。しかし自らの不満を打ち明けていなかったがゆえに、その望みは軽いものとして受け取られ、ミリーはあなたの望みを一考する余地も見出ださなかったのです」
「そんな!」
ミリーが自分の望みを考えすらしてくれなかったとの事実に打ちのめされ、ガクリと膝をつく。
「俺はこれまで無駄な時間を過ごしていたのか……?」
その言葉にけれども目の前の者は首を横に振る。
「あなたがミリーに不満をぶつけなかったから相手にされなかったのです。しかし、不満をぶつければ今まで述べてきた望みに重みが増します。今までが重みがなかっただけなのです」
「不満をぶつければ望みは叶うのか?」
「それを確約することはできません。しかし望みの重みが軽いものから重いものへと変わることは意味があることです。望みがすぐに叶わなくとも一歩前へと進むのです。そして一歩もう一歩と前に進めば、いつしかミリーもあなたからの望みの重みも気付いてくれるでしょう……」
その言葉にどうすれば良いのかと尋ねる。
「述べなさい。叫びなさい。あなたの不満を。自分がどれ程不満を抱いているのか誰にでも伝わるように言葉に気持ちを乗せなさい」
「俺は……」
「さあ!叫ぶのです!」
「俺の不満は……」
「言葉に乗せるのです!不満を!感情を!己の愛情を!言葉を整理なさい!それを不満と結びつけなさい!それがあなたの望みに近づくための小さな、けれども大事な一歩となるのです!」
ゲイルは昂る感情のままに自らの不満を打ち明けた。
「ミリーがお兄ちゃんって呼んでくれないんだぁ!!!」
その者は喜びに満ちた顔を浮かべ、ゲイルに呼び掛ける。
「そうです!それこそがあなたの心のうちに抱いた不満です!その自覚こそがあなたの望みを叶えるための一歩となるのです!」
ゲイルは顔をあげその者の顔を見る。
「私はシスター・メアリー・コンプレックス!妹を愛でる者たちを導くもの!あなたの心のうち、確かに聞き届けました!ミリーはあなたの義妹です!私がそれを認めましょう!ですから、その不満を含ませて、ミリーに再び望みをぶつけてきなさい!」
大層余計なことをしてくれた女神シスター・メアリー・コンプレックスの言葉に押され、ゲイルの視界はゆがんでいった。




