38 はじめての研究会2
部屋の中央に用意されているソファーに座るよう促され、ゲイルとカロゥは指示されるままに座る。
「カロゥ・ドナフトには先週説明したが、ゲイル・フォアワードには俺の専門を話していなかったな」
ゲイルは「ああ」と頷く。
「俺の専門は徴税コンプライアンスだ。特に徴税請負人の徴税行動をどの程度までコントロールできるのかについて研究している」
徴税請負人とは、税を徴収することを国や領主から委託されている人間のことだ。税が絡むので行政の人間や領主の部下だと思われがちだが、外部の人間である。つまり外注である。
「その研究でヘッドハンティング受けたのか?」
「そうだ。徴税請負人はかなり厄介な存在だ。行政や領主にとっては外部の人間だが、納税者からしてみれば行政の顔だ。行政官僚と勘違いする者もいる。彼らは常に行政や領主の名のもとに税を回収しに来るからな。徴税請負人が納税者との間でトラブルを起こした場合、納税者たちはその後ろにいる行政や領主に対して不満を抱くことになる。その不満が積み重なれば納税者による反乱も起こりうる。反乱を嫌う連中にとって俺の研究は農民の反乱を防止する手段にもなり得るからな。それで目をつけられた」
徴税請負人は行政や領主の外部の人間なので、横領などをされても気づかない場合がある。本来はそれほど税が重くない筈なのに、徴税請負人の横領のせいで納税者に大きな負担をかけることもありうる。それが引き金で反乱がおこることもしばしば。規模が大きくなれば、革命だのクーデターだのにまで発展することもある。
「じゃあモルゼオは徴税請負人の横領をどうやって防ぐのかを研究しているってことか?」
「そういうところだ」とモルゼオから肯定の返事が来る。
「なるほどね。じゃあ研究会では何をするんだ?」
「俺の研究成果を聞いてもらう」
ゲイルは思わず目が点になった。
「お前の研究成果を聞くだけか?」
「それだけというわけではないが、基本そうだ」
ゲイルは腕を組み唸る。それから「俺じゃなくっても良くね?」と返した。
「聞くだけならだれにでもできるだろ?」
「そうでもない。君でなければならない理由はいくつもある。まず興味のない奴にとって興味のない話を延々と聞かされるのは苦痛に過ぎない。君だったら苦痛なく聞いてくれるだろうと判断した。それに君の前世が農民であることもまた君を誘った理由でもある」
2番目に挙げられた理由に思わず眉間にしわを寄せた。
「なんでまた俺の前世が関係あるんだ?」
ゲイルの問いにモルゼオが答える。
「さっきも言った通り、俺の研究は徴税請負人の行動をいかに監視できるか、にあるが、その監視が必要な理由は徴税請負人と納税者との間でトラブルが起き、反乱などの事態に発展させないためにある。しかし、そもそも主たる納税者の大半は農民だ。納税者から見た徴税請負人とは、農民から見た徴税請負人と言い換えることができる。ここ王都に暮らすものは商人や貴族ばかりで農民はいないから俺の研究内容に
農民の立場から言ってもらえるわけではない。しかし、ここはレーニアリス。前世の知識を有効活用する場だ。今でこそ想起は未熟だが、今後想起の儀式を繰り返していくごとに君は農民としての記憶を思い出すだろう。その記憶の中には、当時の徴税請負人とどのような関係を持っていたかが含まれているかもしれない。その知識に基づいてコメントしてくれることを期待してるのだよ」
それを一通り聞いて、なるほどと納得した。
「ついでに言えば、カロゥ・ドナフトも君と同じ前世が農民だ。だからスカウトし、ここにいる」
その言葉に慌ててカロゥへと顔を向ける。
「お前も前世が農民なのか!!!?」
するとカロゥは照れたように「そうだよ」と言った。
「俺以外に農民がいるだなんて初めて知ったんだけど…………」
ゲイルのつぶやきに「Cクラスの伝統の影響だな」とモルゼオが返した。
「1−Cは前世がどういう存在かよりも前世の知識をどこまで生かせるかにしか興味がない。あらかた、生徒たちの間で噂にならなかっただけだろう」
「僕自身公言することでもないしね?本当は同じく前世が農民のゲイル君とお話ししてみたかったんだけど……、クラスメイトがあれだからさ、中々忙しくって」
カロゥはクスクスと苦笑を漏らしながら言う。確かに訓練場に勝手にクレーターを作るような連中に囲まれているのだ。他にも何か気苦労があるのだろう。
しかし、今日はこうして同じ前世が農民の同期と巡り会えた。ゲイルとしては新たに増えた友人に大手をふるって喜ぶことにした。ちなみに、男友達としては初である。
「さて、お互い自己紹介も終えたところで、一度食事をとろう。終えてから君たちには私の研究成果を一つ聞いてもらいたい。さて、研究日であれば教職員向けの食堂が開いてる……。君たち学生にとっては中々はいれる機会のない場所だからな、興味はあるだろ?」
コクリと頷くと「では、教員食堂に案内しよう」とモルゼオが先陣を切った。
「そこでこの学園の多くのものが誤解している事実を教えてやる」
モルゼオの意味ありげな言葉にゲイルとカロゥは同時に首を傾げた。
「なに、農民は君たちが思っている以上に優秀であると言うだけの話だよ」




