35 物語の続きのは~じ~ま~り~
Dクラスでの騒動後、休養日明けにゲイルがミリーに土下座をして赦しをいただいた日のさらに翌日、便宜的に火曜日と呼ぼう。授業が始まってから四週目に入った。
火曜日の午前は剣術の授業。予鈴が鳴り出す前でまだ全員揃っていないがそれでもクラスメイトの半数以上が準備を済ませていた。自主的に準備運動をする者もいる。
ゲイルは周囲を見渡すが、ミリーの姿が見えない。ついでにネルカとファーノの姿も。更衣室でまだ着替えているのだろうか?彼女たち三人はこの間の研究日 (土曜日) と休養日 (日曜日) に王都内のネルカの実家で泊まってきたらしい。すっかり一緒に居るのが当たり前になってきた。
仲いいことはよきことだと思いながら身体を伸ばして、剣術の講師ギルバートの傍による。
「おう、ゲイル。身体の痛みは取れたか?」
Dクラスでの騒動でケガを負ったゲイルを気遣い、ギルバートが尋ねる。ちなみにゲイル自身はその日一日何が起きたのか記憶にないそうで、気が付いたら包帯がまかれていて奇妙な気分になったという。
「これくらいはどうってことない。昔親父とおふくろにメリー・バッド・エンドをくらった時に比べたらな」
「……なんだそれ?」
「さあ?必殺技らしい。あの時のこともよく覚えてねえんだよなあ」
ガチで遠い目をするゲイルを見て、マジでそんな技があるのかとギルバートは顔を引きつらせた。
「そういやあ、ここの訓練場って、剣術専用なの?」
「ああ」
「その割には随分広いよなあ」
「まあ木刀を振り回すんだ。隣とごっつんこするくらいならこれくらい広い方がいいだろ?」
「まあそうなんだけどさ、だからこそ気になることがあるんだ」
ゲイルはある一点を指さす。ギルバートもその指し示す先に目をやる。
「あのクレーターは何だ?」
「…………」
ギルバートはすぐに答えなかった。指差す先には直径5メートルほどあるクレーターが存在していた。見事に地面がえぐれている。剣術専用の訓練場としては明らかに場違いな穴だった。
「剣だけであんな穴つくれるの?」
「剣に魔術を上乗せすれば不可能じゃない。尤も……、剣術の授業で作るような穴でもないがな…………」
「マジで何があった?」
ギルバートは遠い目をしながら「Cクラスの連中がな」と語り始めた。
「なんでも重たい剣を持てない人間にとっては、軽いかつなんでも叩き壊せるよう魔術で加工された剣の方が好ましいとか言い出したらしくてな。ただ剣に魔術を上乗せさせるだけじゃあ、剣の方が持たないことがあるんだ。そこで訓練用の剣はどこまで魔術加工に耐えられるか試してたらしい」
「試したところでクレーターが出来るとは思わないんだが…………」
「ああ、それで話が済めばな。試しているところで別の生徒が口を挟んで、遠距離攻撃にしておけばその不安はなくなるって言いだしてな。物理耐性魔法を重ね掛けした羽ペンに更に飛行魔法を重ね掛けして無茶苦茶な初速を出せるようにしてな。教室から投げた」
「…………Cクラスの連中は頭おかしいのか?」
「お前には言われたくないだろうが、そういう連中ばっかだ」
羽ペンで直径5メートルのクレーターを作る。本当に物理耐性魔法と飛行魔法だけでできるのだろうか?そんな疑問をゲイルは抱いてた。
「ゲイル様。先にいらしていましたか」
声をかけられ振り向くと着替えを済ませたミリーが碧い目をゲイルに向けて立っていた。
「ネルカとファーノは?」
「ノエル様とアイン様のところへ向かわれました。最近は私にばかり気にかけてくださっていたのでたまには他の友人とも、と言った感じでしょう。ゲイル様にもそういった友人がいらっしゃればいいのですが……」
「なんだ?兄ちゃんの交友関係が心配?」
「…………」
目を逸らし無言になって何も返してくれなかった。その様子にギルバートが顔を引きつらせる。
「そんな事よりも、あのクレーターは何ですか?」
ミリーが先ほどのクレーターを指差して質問する。
「Cクラスの連中の実験の余波が着弾したらしい」
ギルバートから受けた説明をゲイルが簡潔にまとめた。だいたいあってる。
それを聞いたミリーは納得顔になった。
「え?納得できるの?」
「Cクラスの方々ですから」
入学して間もないのにそれだけ評判になってるのかとギルバートの顔を見る。
「お前の耳には入ってないんだな。毎年、1−Cに割り振られる連中は……、ああいうことよくやる」
「毎年かよ……」
「ゲイル様」
呟いたところでミリーに声をかけられた。
「Cクラスの方々にはくれぐれもご注意くださいね?」
いつもの無表情ではあるが、目が真剣だった。
「関わる機会……、ないと……、おもうから」
そう言ったところでちょうど予鈴がなった。
「おうし!整列!」
流石教師と言ったところか、予鈴と同時に心を切り替えたギルバートが声を張り上げる。生徒たちが一ヶ所に集まり整列した。
「さて、授業を始める前に事務的な確認だ。確かお前らは昨日輪廻学の振り替え授業を受けたんだったな?」
研究日明けの昨日、便宜的に言えば月曜日、本当はルーカスの生物学の授業があったが、(便宜的に言えば) 木曜日のゲイルとDクラスの騒動の後始末に駆り出されたレベッカの都合に合わせ、(便宜的に言えば) 本来金曜日にやる予定だった輪廻学の授業と入れ替えたのだ。そのため、昨日、ゲイルたちは輪廻学の授業を受けたことになる。
……………………一々便宜的な曜日を書くの面倒だな。
話し戻して、ギルバートの問いに生徒たちはコクリと頷く。
「ならレベッカから聞いて知ってるはずだが、念のため再度説明する。今週の休養日には二度目の想起の儀式が行われる」
想起の儀式は一回やっておしまいではない。無理やり想起しようとすると身体や人格に負担がかかり時に廃人になってしまうリスクがある。そこで、複数回に分けて行うことで徐々に身体や人格を慣らし、知識だけを完璧に引き継げるよう、限定的に想起させるのだ。完全想起まで目指さないのは、前世の人格と現世の人格がごっちゃになってしまうのを防ぐためである。
尤も今年は一発で完全想起してしまった例外令嬢ネルカが居る。彼女は二度目の儀式を受ける必要はない。
(そーいえば、もう一人いるっけ?)
「二度目の儀式からは知識面での想起を促す。自分たちが前世でどのような技能を持っていたのかが分かるようになる。そうなればその知識に基づいてどのように研鑽すれば少なくとも前世の技能を習得できるのかが分かるようになるだろう。特に剣技なんかを心得るには大変都合がいい。前世を見本にすればいいからな」
これこそが想起の儀式の目的。決して厨二心から行っているわけではない。
たぶん…………。
「勿論、二度目の儀式を受けたからと言って剣技が突然うまくなるとは言えないが、上手くなるための良い指針になるのは確かだ。そこで、二度目の儀式終了後に剣技によるクラス対抗での決闘を行う。勿論儀式当日じゃないぞ?今予定調整中だから具体的日取りは待ってくれ」
ふと空気が変わる。その主を見るとネルカから殺気めいたものが流れていた。
「クラス……、対抗…………?」
誰もが面倒くさいことになりそうだと予感したのだった。




