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20 ネルカ・スワローズ 再び

休養日明けの二日目 (火曜日)。午前中の剣術の授業を終え、それぞれ着替えを済ませたゲイルとミリーは早速学食へと向かった。


いつものように二人で食事をしているところで、声をかけられた。


「相席いい?」


ネルカだ。直接顔を合わせて話すのは久しぶりになる。


「他の取り巻きは?」


ゲイルは不機嫌な声で威嚇する。オリエンテーションのときのあのへりくだった態度はいずこへ向かったのだろうか?


「全員相手にするのはさすがに疲れたから……。こっちは人気(ひとけ)が少ないからね。落ち着きたいって言って離れてもらったよ。ミリーちゃん隣いいかな?」


「…………」


ミリーは無言になり、なにも答えない。ミリーにとってネルカは警戒すべき人物だった。前世が勇者一行の姫騎士リズ。同級生に魔族や魔王レーノがいるなか、自己紹介でもモルゼオの授業でも魔族への敵対を隠さなかった者。前者は勇者一行のデュアンの末裔であるゲイルを瞬時に矮小な存在へと変えてしまう要素であり、後者はネルカと魔王レーノとの間で起こりかねない不必要ないさかいにゲイルが巻き込まれてしまうリスクを持つ要素だ。

 正直に言えば二人をあまり関わらせたくない。


一方ゲイルはと言うと、ミリーの隣に座りたいと言うネルカに警戒した。ミリーの立場を悪くしないかと。


「別になにもしないよ」


ゲイルの気持ちに勘づいたネルカはやんわりと言葉を投げる。しばらく考えて「ミリーが良いなら」と呟いた。


「私は意思決定をいたしません。ゲイル様のご意向に合わせるのみです」


ミリーは肯定も否定もしなかった。


「否定はなかったってことで座るね」


そう言ってネルカはミリーの隣に座る。微妙な空気がテーブルの上に乗っかった。3人は黙々と食事を続ける。


ゲイルとミリーの皿の上に何もなくなったところでネルカが手を止めて口を開いた。


「この間の話の続きなんだけど、考えてくれた?」


「今返事が聞きたいのか?」


相変わらず不機嫌な声で返す。相手が偉い人でも不機嫌なときは不機嫌のままに振る舞うのがゲイルの悪いところ。要はまだ子供なのだ。


「なんかお前といるとミリーに嫌なとばっちりがいく気がするから断る」


「ふうん。じゃあミリーちゃんにとばっちりがいかなきゃいいわけ?」


「そんなところだ」


話題にあがってしまったミリーはそ知らぬ顔で無表情なまま目を閉じていた。ただ内心では妙なことになったと警戒している。ゲイルがミリーのことになると悪手さえもとってしまうことを知っているから。


悪い予感は当たるもので、ネルカはニヤリと笑みを浮かべた。


「だったらさ、私がミリーちゃんの身の安全を確保することを約束しようか?私が一言言えばクラスメイト達はミリーちゃんに手を出さないと思うよ?」


ゲイルは眉間にシワを寄せ、ミリーは表情にこそ出さないもののやっぱり妙なことになったと嘆息した。ネルカだけが笑みを崩さない。


「妹を守るのは俺の仕事だ。お前の力を借りる気はない」


「妹と妹のように思っているのとでは全然違う気がするけど?」


ゲイルから不機嫌さが消えた。ただただ目を細めて「何が言いたい」と返す。それはふつふつと怒りをにじませたときにするゲイルがする表情だった。


「実の妹でも義理の妹でも実際に家族関係があったなら私も余計な口出しはしないよ。でもミリーちゃんの様子を見る限り、君のことをお兄さんとは思っていないみたいだよ?特にこの間の自己紹介で君の想いとミリーちゃんの想いとの間に隔たりがあることがバレちゃってるし、実際に二人を見てればそうだって確信を持てる。ゲイル君の口だけで彼女を守れる防波堤になれるかな?」


ミリーは気づいた。これはネルカが交渉を優位に進めるための安い挑発であると。ミリーはゲイルに気づくよう目でサインを送ったが肝心のゲイルは目を細めたままネルカを見ており気づく素振りを見せなかった。


「赤の他人に妹を任せるような兄ちゃんがいてたまるか」


拒絶の言葉。一見すれば交渉が決裂したように見える。けれどもネルカはその言葉が想定内とでも言うように表情を崩さなかった。


「確かにそれもそうね。でもさ君……、自分の立場分かってる?確かに君はフォアワード侯爵家の次期当主。けれども、1つ、君は落ちこぼれと思われている。1つ、前世もパッとしない。1つ、友人がいない。この状況でどうやってミリーちゃんを守るつもりかな?そもそもこれまでミリーちゃんを守ってきたのは君じゃないよね?君のお父さんや国王陛下が便宜を図ってくれたからミリーちゃんはここにいる。なら君は?君はミリーちゃんに対してお兄ちゃんと呼ばせる以外に何をして来たの?君はこれまでミリーちゃんを本当に守れたのかな?」


「…………」


「うぬぼれちゃダメだよ?ミリーちゃんを守ってきた人たちは、ミリーちゃんを守りながら君のことも守っていることに気づかないと」


続けられるネルカの言葉にゲイルは何も言い返さなかった。


「でもね、それが自覚できたらあとは簡単だよ。要はミリーちゃんを守ってくれる人たちを増やせばいい。そうすれば君の不安は取り除けるよ?そう言う人たちの中に私を加える気はないかな?」


「クラスメイトを押さえるだけだろ?」


「ネルカ・スワローズとして、そしてリーゼロッテとして()()します。ミリーを危害から守ること、ミリーに危害が加わりそうなときは率先して戦うこと、そして私自身がミリーに対して危害を加えないことを誓いましょう」


ネルカは神に宣誓するように言葉を綴った。この宣誓の仕方は単なる口約束では済まされない。これは相手に宣誓するだけではなく神に対しても宣誓しているものだから。これで宣誓を破ることは、貴族であれば場合によっては爵位の取り上げも含まれる。今この場に居るのはゲイルとミリーだけなので、後になってそんな宣誓はしていないと言えばいいように見えるが、ミリーならともかく相手は侯爵家のゲイル。ひとたびゲイルが破られたと言ってしまえば、前世が姫騎士リズといえども大きく信用を落としかねない。勿論ゲイルが破られたと嘘を言った時、その嘘がバレてしまえば、ゲイルも爵位取り上げ、場合によっては奴隷にまで身分が落ちることもありうる。従って、貴族はこの手の宣誓を結婚式以外には行わないし、そもそもこの手の宣誓に関わろうとしない。

 それを行ったのだからさすがのゲイルも戸惑いに目を見開いた。


「折角だしミリーちゃんと友達になろう!私と友達になれば時間はかかるけど友達が増えるだろうし、そうすれば危害が加わることもないからね。ミリーちゃんなら3年後には身分を返上できるだろうから、その準備期間として友達増やすことは悪いことじゃないと思うんだ。どうだろ?」


ゲイルは目を左右に動かし動揺している。ミリーの今後を考えればかなりいい提案だ。断ると言う選択肢は徐々に薄れている。


「そうだ!ミリーちゃんにお兄ちゃんと呼ばせること手伝おっか!」


「あなたについて参りますリーゼロッテ様」


そしてついに陥落した。

評価・ブックマークなどしてくださりありがとうございます!


しばらくリアルの方がドタバタしますので、週1木曜日掲載でお待ちいただければと思います。


ご了承いただけますようどうぞよろしくお願いいたします m(__)m

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