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13 授業初日1

この世界の曜日は一週間。週末には休養日がある。便宜的に、月火水木金土日と置こう。休養日は言わずもがな、日曜日である。


さて、レーニアリスの場合、正規の授業日は月曜日からの五日間。土曜日には正規の講義は入らない。しかし、土曜日に授業が無いからと言って通わなくていいわけではない。

 レーニアリスに限らず、ベルフェリオ王国のほとんどの学校では休養日の前日、すなわち土曜日を「研究日」と呼んでいる。この日は一部の自発的な生徒や若手の講師が研究の為に学校を訪れ、議論に励むのである。

 一年生から参加する生徒は珍しく、大抵後期になってからスカウトなどで参加するので、前期のうちは事実上の週休二日であると言えるのだけれど。


想起の儀式(アナムネーシス)は休養日、すなわち日曜日に行うのが慣例だ。魂も休養に入っているから、無防備な時に引っ張り出そう、という発想の下である。勿論そんなストレートには言わず、言葉は濁すけれども。


というわけで初回の授業は火曜日から。2時間を一日2コマ。最初の記念すべき1コマ目の授業はギルバートの剣術の講義だった。

 剣術用の訓練場には長袖長ズボン、革製の鎧を身に着けたBクラスの生徒が男女そろって並んでいる。


「この中で剣を握ったこともない奴はいるか?」


ちらほらと見受けられる。主に平民と貴族の令嬢で、貴族の子息はだいたい経験者のようだ。


「……。ゲイル、一応経験者なのか?」


「握ったことはある。実力は察してくれ」


教師を前にも口調を変えない変人ゲイルに周囲の生徒たちはくすくすと笑う。溜息を吐き、ギルバートは今度はネルカの方を見る。


「ネルカは何故手を挙げる?」


前世があの姫騎士リズであるはずのネルカ。しかも完全想起を果たしている。そんな彼女が挙手したことにギルバートは困惑していた。


「ネルカとしては握ったことが無いので」


言われてそれも当然かと納得する。


「まあ、半数くらい生徒の手が上がったから……。ちょっとまて、ゲイル、確認していいか?」


「なんだ?」


「ミリーが手を挙げていないように見えるんだが……」


ギルバートはちらりとミリーの顔を見る。視線を感じたミリーは表情こそ変えていないものの、内心手を挙げておけばよかったと感じていた。


「そりゃあ、経験者だからな。ぶっちゃけ俺よりも強いぞ」


ミリーの心情など察していないゲイルは正直に答えてしまう。


デュアンのような軍人奴隷ならともかく、そうではない一介の奴隷に剣を握らせるようなことは普通しない。反乱を起こされるのを避ける為でもある。

 クラスメイト達の中にはその異様さに気が付いて眉間にしわを寄せる者もいたが、考えてみればフォアワード家はそのデュアンの末裔で、そこらへん信用しているのではないかとギルバートは考えた。それよりも……。


「おまえ……、ミリーよりも弱いのか……?」


「出来る妹を持つとつらいぜ……」


勇ましく言おうとするが、まったく勇ましくない。ギルバートの中で、ゲイルは実力面で課題ありと評価された。


「まあいい。経験者もいるが、まずは一度剣を握ってみてくれ。振り回すなよ?絶対だぞ?」


訓練用の剣を一人ずつ受け取る。経験者はともかく、未経験者は意外な重さに驚いているようで、中には思わず落としてしまう者もいた。


「気をつけろ!ケガするからな!」


落とした生徒は慌てて手に取ろうとするが、持ち方が分からないのかうまくつかめない様子だった。


「相変わらず重いよなぁ」


そう呟きながらも伊達に経験者をやっていないゲイル。特に顔色を変えずミリーに話しかけていた。


「ゲイル様の場合はその重さに慣れた上で技術力を併せ持つ必要がございます。剣の種類にもよりますが、訓練用の剣では鎧を叩き壊すことはかないません。ゲイル様に不足しているのは技術力です。こん棒のように振り回してもあまり意味はございませんよ」


ミリーもミリーで顔色を変えず、一度ゲイル達から離れて剣の重さや柄の感触を確かめるように軽く振り回す。流石は経験者というところ。その振る舞いはかなり様になっており、振り回すなと注意したギルバートも思わず目を見張った。


「経験者の方々には物足りない獲物かもしれませんが、未経験者の方からすればちょうどよい重さでしょうね……。最初こそ重さに驚くかもしれませんが、身体を作れば肩などをそう簡単に壊すことは無いでしょう」


ギルバートは思わず頬を掻く。これから話そうとしていたことをミリーに横取りされたためだ。


もしミリーが少なくとも平民以上の身分の持ち主であれば、多少の嫉妬はあるものの他のクラスメイト達から羨望の眼差しを受けられただろう。奴隷であるが故にその視線はない。嫉妬の目は特に経験者の方が色濃かった。


「まあ……。気づいている奴もいるみたいだが、剣の重さを感じ取ってくれ。軍人がさも軽々と振り回しているのを見たことがある奴がいるかもしれないが、ああやって振り回すには今のお前たちの体力じゃあ難しいのは分かってくれたか?」


幾人もの生徒たちが首を縦に振る。

 ゲイルがふとネルカを見ると、彼女は剣先を地面につけていた。前世が姫騎士リズとは言え、気づいたのは二日前。それまでは一貴族の令嬢として振る舞っていたのだから剣には慣れていないのだろう。時折持ち上げようとしては恐る恐る地面に戻すと言った具合に剣を重そうに扱っていた。


「今日は剣の重さを知ってもらうためにこれを持ってきたが、授業のときは木刀を使う。大怪我されてもたまったもんじゃないからな。じゃあ重さに納得したあたりで、剣を戻してくれ。今日は一度走り込みと筋トレのやり方を教える。ただやるだけでも意味は無いからな?気を付けないと逆に身体壊すからな?」


こうして今日の授業は走り込みと筋トレのやり方の説明、実践をした。各自が毎日練習できるときに練習するようにと説明を受け、授業は終わった。木刀を握るのは来週からだそうだ。

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