10 ネルカ・スワローズ2
突然のゲイルの土下座にネルカはどう声をかけていいか分からず、戸惑い、おろおろとする。ミリーはと言うと然り気無くスカートの裾を押さえていた。
ミリーのその行為の意味をしばらく考え、理解して、顔を赤くしながらネルカもスカートの裾を押さえる。
「ちょっと!顔をあげて……、じゃなくて立って!」
「いえいえ!リーゼロッテ様にご尊顔するなど農民風情には過ぎたこと!先程の非礼お詫びしますゆえ平にご容赦を!ご容赦を!」
「き、君!侯爵家の人間でしょ!子爵家の人間に平伏するなんて恥ずかしくないの!?」
「侯爵など肩書きと言う名の飾りに過ぎません!姫様の前ではなんら美しくも輝かしくもない飾り!そんなもの掲げては姫様の目によろしくありません!気にせずどうぞ先にお進みください!」
「呼び方まで変わってる!?」
一向に顔をあげないゲイルに混乱のとけないネルカ、ヒソヒソと話すだけのクラスメイト達。事態を収束するためにしびれを切らしたミリーがゲイルに声をかける。
「ゲイル様。もうすぐ授業が始まります。まずはお立ちになってください。ネルカ様もお困りです。ゲイル様にお声をかけたと言うことは本題があるはずです」
「そ、そうよ。話が進まないからまずは立って!」
「ですが、先程の非礼のお許しがまだ……」
「ゆ、許すから立って!っ!?」
「ゲイル様。これ以上皆様にご迷惑お掛けするのでしたら……。嫌いになりますよ?」
あからさまに不機嫌な声にヒソヒソ声でさえも止まってしまう。
ゲイルはゆっくりと身体を起こし、立ち上がった。
「それとゲイル様はフォアワード侯爵家の嫡男であられます。応対にはご自身の身分に相応しい対応でなさってください。平伏するなど、ネルカ様に対してもリーゼロッテ様に対しても大変失礼な対応になりますのでご注意ください」
「……はい」
奴隷にさとされる侯爵家の子息と言う様相もまた奇妙ではあるが、ゲイルが落ち着きを取り戻した様を見てネルカも落ち着きを取り戻し、本題に入る。
「フォアワード侯爵家ってことは君はデュアンの末裔ってことであってるかな?」
「そうだけど……」
口調がいつも通りに戻ったが、さっきのように変に畏まられるよりはましだと思い、気にせず続けた。
「ならデュアン繋がりのよしみで私と組まない?」
ゲイルは眉間にシワを寄せミリーに顔を向ける。
「噂話でよければ補足すべき情報がございます。勇者アリスはリーゼロッテ様とゲイル様のご先祖様でもあられるデュアン様と共に当時の宿敵である魔王レーノを相手に戦いを挑まれました」
「それは知ってる」
「その魔王レーノの転生者が今レーニアリスに在籍しているそうです」
「……それは知らない」
「ネルカ様……、この場合はリーゼロッテ様とお呼びした方が良さそうですね。リーゼロッテ様はかつての戦友デュアン様の子孫であられるゲイル様に魔王レーノに対抗するための協力を求めておられます」
ミリーの説明にとりあえず話の筋は理解したご様子。その様を見て、ミリーちゃんはゲイル君の百科全書かな?とネルカは然り気無く考えてしまった。
「どうしろと?前世農民だから大して役に立たないぞ?」
「前世農民って噂本当だったんだね……。でもそんなことはどうでもいい。重要なのは魔王が動く前に手を打つってこと。本当はデュアン本人がいればよかったんだけど、私とデュアンの末裔の君がいるだけでも十分抑止力になるでしょ?ユランとデュアン本人、何よりもアリスの完全想起を待てば、うまく囲い込んで今度こそやつを…………」
その言葉に一瞬憎悪の毛を感じた。口を開こうとした瞬間、ちょうど始業の鐘が鳴り、同時に教師が入ってきた。
「いい返事期待してるから」
ネルカはそう言ってさっさと席へと戻ってしまった。
「ゲイル様。先程のような無駄な動作を挟むから肝心なときに肝心な質問が出来ないのです」
心境を的確に読んだミリーの的確な指摘に「以後気を付けます」の反省の弁以外述べることが出来なかった。




