11 自己紹介
「俺がこのクラスを受け持つギルバート・アレキサンドリアだ。剣術と総合戦術演習を担当する。少なくとも1年間は付き合うことになるからよろしくな」
1−Bの担任ギルバートが自己紹介し、オリエンテーションに入る。
「ここはレインフラック王立学校とは異なり、条件さえ満たせば貴族、平民、奴隷が分け隔てなく学べる場所だ」
奴隷と言う言葉にクラスメイト達がチラチラとミリーの顔をのぞきこむ。
「平民、奴隷にとっては身分の枷をはずし出世のチャンスを掴む場所であると同時に、レインフラックに入れず出世コースから大きく外れた貴族にとっては出世のための最後の砦でもある。…………何事にも例外はあるが」
ギルバートがチラリとゲイルの目を見、ゲイルはそっと目をそらした。
「卒業生の進路は多岐にわたる。騎士、軍団指揮官、官僚、外交官、研究者等々。中には才能を有効活用し、貴族の跡取りになれた者、爵位を授かったものもいる。時に変人もいてハンターだの冒険者だのになったものもいるがな」
教室内でクスクスと笑う声が響き渡った。
「特に君たちは想起の儀式を経験し、他の者達に比べ才能を有効活用する機会に恵まれている。しかし、前世の自分に自惚れ、努力を怠り破滅したもの達もいる。決して自惚れるな」
ギルバートがネルカに目を向けたのは気のせいではないだろう。それを察したクラスメイト達もチラチラとネルカに目を向ける。対するネルカは涼しげな顔で向けられた視線を流していた。
その後ギルバートはカリキュラムの説明に入った。
講義には通年科目と半期科目があること。前期の講義は全て必修だが、後期からは選択科目が追加されること。この1年間で予定されている科目の内容と担当講師の説明等々。
政治学の担当教員の紹介がなされたとき、ゲイルは一瞬怪訝な表情を浮かべる。
(今、ネルカの雰囲気が変わらなかったか?)
ネルカの後ろ姿に目をやるが、彼女の姿勢に特に変化はなかった。
(気のせいか……)
「一通り説明が終わったところで、今度はお前達に自己紹介をしてもらおうか。当たり障りのないことで構わないぞ?その……無理に前世が誰だったかまで言わなくていいからな?」
ギルバートが再びゲイルの顔をチラチラと見る。そんなに農民であることがおかしいかと思わずムッとなっていた。
前の席から順番に自己紹介が始まる。自分の名前、出身地、入学申請時の推薦人の名前、前世の話、将来の希望進路と皆が同様に話す。
そしてネルカの番になり教室内で緊張が走る。
「スワローズ子爵家三女のネルカ。父は官僚だから生まれも育ちも王都。推薦人はメイル=ラスフィン侯爵様とユーノス子爵御夫妻。ユーノス子爵家からは御夫妻の他に次期当主のカリン様、長男のベラトリア様、次男のラトヴィッヒ様からも推薦を戴いたわ。もう知ってる人もいると思うけど、私がリーゼロッテ・ドゥーノ・メル・フォン・ツェッペンハーノ。姫騎士リズと言った方が伝わるかな?ホントはこの呼ばれ方好きじゃないんだけどね。ちなみに完全想起だよ」
話を聞きながら、他の令嬢達とは話し方が違うなと感じたゲイル。元からこういう話し方なのか、それとも完全想起の影響で口調が変わってしまったのか。機会があれば尋ねてみようと考えていた。
教室に居る者達はこの後に続けられるだろうネルカの抱負に耳を傾けようとする。特にギルバートは緊張した面持ちで彼女を注視していた。
「私がリズだって分かった瞬間、元々の夢を考え直さなきゃいけなくなっちゃったからね。これから一生懸命頑張ります、以外に述べるべき抱負は見当たらないかな?奴が居るから700年前の続きを……とも考えてるけど…………」
その言葉にギルバートの表情があからさまに強張っていた。
「それ以上にやっておきたいことがあるからね。やっぱりまだ考えてないかなあ〜?」
そう言ってネルカは着席した。
彼女の自己紹介が終わった後も教室内では妙な緊張が残っており、すぐさま次の生徒へと続かなかった。
あまり緊張していないのはゲイルくらいだろう。彼はと言うと「それ以上にやりたいことってなんだろう?」と考えていた。
それから自己紹介が再開し、いよいよゲイルの番となった。
「ゲイル・フォアワード。グルッヴェオ地方出身。義妹のミリーの付き添いできたから推薦人とか分からん!」
入学の名目は確かにミリーの付き添いではあるが、付き添いの資格があるかどうかで一応推薦人がついている。にもかかわらず、当人は知らないと堂々と断言した。その様子にギルバートは彼から地雷の臭いを感じとり、顔をひきつらせていた。
ちなみにゲイルを推薦したのは国王陛下、三大公爵家各当主、その伴侶と次期当主で推薦資格のある者。また第三王子と彼を支持する有力貴族ら等々。正直知りませんでは済まされない面々である。それを知っているギルバートは今後ゲイルがどのような粗相をしでかすのかと内心怯えていた。
「前世は農民だからどう将来の夢を語れば良いのか分からないので抱負は省略で!これからよろしくな!」
おあとはよろしくないが、ゲイルはそのまま着席する。クラスメイト達はなんとも言えない表情で隣の席の生徒と顔を見合わせていた。そして朝のネルカに対する態度を見て薄々気づいている者もいたけれども、誰もが「こいつ変人だ」との確信が一致した。
そして一番最後にミリーの自己紹介となった。
長くて綺麗な銀髪と透き通るような碧目に皆が目を向ける。これで無表情でなければ、そして奴隷の首輪が無ければ誰もが息を呑んだだろう。
「ミリーです。ゲイル様のご実家であるフォアワード侯爵家所有の奴隷です。ゲイル様とは血縁関係も家族関係もございませんので、先程のご発言については真に受けないでいただけますと幸いです」
ゲイルが信じていた者に裏切られたときにする表情を浮かべてミリーを見る。それを無視し自己紹介を続ける。
「本来私のような者はこの場にふさわしくないのですが「何を言う!ここにミリーの居場所があるじゃないか!」人が話をしているときは黙っててください」
「はい……」
もうどちらが主人なのか分からなかった。ゲイルがミリーの付き添いで入学したと言うのは裏口入学の方便などではなく実際にそうなのではないかと皆が感じた。
「改めまして、本来であればこのような場に似つかわしくない私ではございますが、ご主人様であるロイド・フォアワード侯爵様並びにアシュリー夫人より入学の提案と推薦を戴きました。……入学に当たっては他にも多くの方々からご支援をいただいておりますが、奴隷の身分ゆえ皆様の前でお話しすることは憚られますので、沈黙いたしますことをどうかご容赦ください。また、奴隷が夢を語るなどもおこがましいことでありますので、こちらも沈黙させていただきますが、ご支援いただいた方々にこのご恩をお返しできるよう精進いたします」
それからミリーはそのまま着席する。
新入生に限らず在校生唯一の奴隷出身の生徒。侮蔑、好奇心等様々な眼差しが向けられる。その眼差しにミリーは特になにも感じず、ゲイルは不快な気持ちになった。
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