第40話 土木工事
「明日の昼頃に合流予定のフェルマー辺境伯含む兵士約3000人が立ち往生しているらしいです。強烈な雨が降ったらしく、土砂崩れが起きたと連絡が来ました。」
「それはまずいですね。救援に行ければ良かったのですが……」
ハクアを助けた件の報告に来ていたのだが、面倒そうな話が出てきた。
フェルマー辺境伯、ミリヤムという「海の都」と王国で呼ばれる港街の領主だ。
フェルマー辺境伯一行の進路が土砂崩れでふさがってしまったらしい。
遠回りするにも、森の中を突っ切るしかないらしく、危険が伴うらしい。
そこで、オレに声がかかる。
「ゲスト、君はフェルマー候とどのくらいで合流できる?」
「どこにいるかによりますが、三、四時間くらいかと。」
「それと、ソフィーアから聞いたのだが、転移魔法が使えるとか?」
少女誘拐事件を解決した帰りに使ったことを、ソフィーアは話していたのだろう。
今回の件でも役に立つとは思うが。
「使えますが、人数が多いんで、使ったあとはしばらく魔法が使えませんが、よろしいですか?」
「かまわん!合流するほうが優先だ!ついでに土砂も片付けられるか?」
「吹っ飛ばしてもかまわないですか?」
他の騎士達が驚きの表情だ。
彼らは伯爵の直属の騎士団の幹部と精鋭達だ。
オレの実力を聞いているものがほとんどだが、吹っ飛ばすなんて言葉が簡単に出るとは出るとは思っていなかったのだろう。
「んー、そこはフェルマー候と話して決めてくれ!ところでどうやって行くんだ?」
「えっ?ドラゴンに乗ってピューって、」
「「はぁっ?!」」
伯爵はにやけている。
わかってて聞いたのだろう。
オレの実力をどうも侮っている者が多いらしい。
見た目が実力についていってないのだからしょうがないが。
早速行くことにしたので、一礼してテントを出ようとすると、中にいた者が全員ついてきた。
ドラゴンが見たいという好奇心と、実力を測ってやろうという理由だろう。
夜営場所から少し離れた、開けた場所でドラゴンのリュートを出す。
「すまん!リュート!また乗り物役に呼んでしまった!」
「わかっておるぞ!そんなことでしか、我は役に立たんのだろ?」
「そんなことはないぞ!これから戦争があるから暴れさせてやるよ!」
「ハッハッハ!!それは楽しみだ!」
戦争の話を聞いたリュートは上機嫌。
伯爵もリュートが参戦してくれることを知り上機嫌。
他に見学に来ていた者は、腰が砕け、失神寸前!
失禁したものは……いたのかもしれない。
彼の名誉の為に忘れることにする。
オレはリュートに跨がり、飛び立つ準備が完了する。
ちなみにハクアはオレの膝の上だ。
しっぽがモフモフで気持ちが良い!
「では伯爵!次の村に転移するようにしますので、そこで合流しましょう!」
「頼んだぞ!あとこれを持っていけ!私の使いの証明になるだろう!」
「ありがとうございます。では行ってきます!!」
伯爵に家紋入りの短剣を受けとる。
家紋が初心者マークにしか見えないが気にしない……
リュートがグオォーっと吠え、空に羽ばたいていく。
空を飛ぶスピードにビックリしたのか、オレの方に向き直し、力いっぱいしがみついている。
頭を撫でて落ち着かせ、最初の目的地の村による。
よるといっても、上空を飛ぶだけだ。
以前使った転移魔法、『次元の扉』の出口の設定するために必要なことなのだ。
ここまでで30分くらいだろう。
この後は村から伸びている三つの道の一つを進んでいく。
「ハクア、寒くないか?」
「大丈夫……お兄ちゃんの腕の中……暖かい……」
最初、お兄さん呼びだったのがお兄ちゃんになっている。
距離が近づいた証だろうか。
リュートにも慣れたのかすぐに会話を始めていた。
変なことを教えてないか不安だが……
「主よ!あれではないか?土砂崩れというのは!」
「たぶんそうだな!越えた先にフェルマー辺境伯達がいるはずだ。」
約300メートルほどの大規模の土砂崩れが起こった後だった。
幸いこの付近に村や集落はなく、人的被害は無さそうだ。
しばらく上空をゆっくり飛び、様子を伺っていると、前方が騒がしくなっている。
まだ日が昇る前で寝ている者がほとんどだろうが、フェルマー辺境伯一行と思われる大集団が騒いでいる。
気になったのでリュートに近付くような指示を出す。
「ドラゴンが来たぞぉ!!皆、ひ、怯むなぁ!!」
「た、隊長!さ、さすがにむ、無理っすよぉ!!」
どうやらオレ達を見てビビったらしい。
全員がこちらに槍を構えているが、腰が引けている。
仕方がないので、リュートからハクアを抱いたまま降りる。
業火炎獄で翼を作り、ゆっくり降りた。
「あー、キースリング伯爵様の使いなんだが、話ができるやついる?」
「ほぉー!キースリング伯爵殿は竜騎士を手に入れたか!凄まじい存在感だな!」
「もしかしてあなたが?」
茶髪のロン毛を後ろで一つに纏めて、前髪の横から触覚のように髪が二束垂れている。
爽やかな笑顔は女性人気が高いだろう。
そして度胸もある。
ドラゴンに対し、怯むことなく立っている。
若いが、力量を感じられる雰囲気がある男だ。
「そうだ!私がエルマー・フェルマー辺境伯だぁ!!仲良くしてくれ!」
「はぁ、キースリング伯爵様の使いでCランク冒険者のゲストです。」
気さくな感じに手を出して来たので、握手を交わした。
伯爵と違った雰囲気に調子が狂うが本題に移ることにする。
ちなみにハクアは未だ腕の中だが、フェルマー候は気にしていないようなのでそのままだ。
「その子は余程君が好きなのだな!」
「うーん、好きというかなんというか……」
「私……助けてくれたお兄ちゃん……好きだよ……」
今日会ったばかりで好きというのもあれだが、なつかれて悪い気はしない。
「フェルマー辺境伯様、これからどうされるのですか?」
「ん?どうにかしてくれるから来たのではないのか?」
「もちろんそうなんですが……」
オレがどうにかできるから来たのは、知ってるようだ。
ただどう解決するかは知らないようだ。
「で、ゲストはどう解決してくれるのだ?」
「あぁー、土砂を吹っ飛ばすか、転移するかですね。」
「どっちもは頼めないか?」
「あれを片付けるのは簡単ではないですからね。わかりました。やりましょう。」
オレはそのままリュートに跨がり、土砂へ向かう。
街道をとりあえず通れるようにするために、土砂を真ん中から道に沿って吹き飛ばす。
左手に業火炎獄を持ち、黒炎を呼び、密度を濃くした黒炎の玉を作る。
リュートにも手伝ってもらうために、後ろで控えてもらう。
黒炎の玉が直径約5メートルほどになったところで、土砂に向かい剣を向け構える。
「これでイケるかな?『黒炎弾』!!リュートも頼む!」
「うむ!任せろ!グォー!!」
黒炎の玉が綺麗なジャイロ回転しながら土砂を突っ切っていく。
外に弾かれた土砂も黒炎の熱で溶けていく。
土砂の量に押し負けそうになるが、リュートの貫通力のあるブレスでどんどん進んでいく。
リュートが息継ぎする頃には、完全に土砂を突き抜け、馬車が通れる幅ができた。
しかし、黒炎とブレスの熱で、焦土化したため、しばらくは無理だが。
作業が完了したことを、フェルマー候に報告して、次の転移の始めた。




