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朝焼けの戦線  作者: 海崎 涼
《アサルトスコーピオン》
12/14

補給地点


「こちらK-4、目標補足。引き続き監視を続ける」

 

「了解。変化があればこちらに伝達せよ」


「サー……イエス……サー」

 

 そっと無線を切り、双眼鏡を覗き込む。強襲戦車に描かれた黒サソリと、その周囲に群がる兵士。

 存在しないはずの部隊『アサルトスコーピオン』いや、消滅したはずの部隊。

 

「ダイヤ……………………」


 昔—————遠い昔の友人の名前をこぼす。それと同時に、笑みの気配。ああ、なんて美しい。

 

「待っていろ……………………」


 狂気に満ちた笑みと、その声の行方を知るものは誰一人としていなかった。


















『ラトラス村に着いたんだが……………まず俺とダイヤ、レイの三人で行こうと思う、あとは留守番頑張ってくれ』


 イグナの声にホームの奴らがブーイングを始めるが、了承する気があるゆえのブーイングということで無視する。


「あ、ライフルは持ってくなよ」


 肩からライフルを下げたレイにダイヤが一言警告、あ、そうか。気が付いたレイはライフルを仕舞う。

 ライフルというものは殺傷兵器なので、そんなものを持ってたら住民から警戒されてしまうのを忌避しての対応だろう。まあハンドガンは持ってるんだが。

 

 ダイヤたちに続いて戦車を降りる。


『——————————』

 

 

 何かが、そっと、そっと背中を撫でた。あの時感じた冷たい感覚。



「ッ―—!?」


 焦燥と戦慄のあまり振り返るが、そこにはただ俺たちの家があるのみで、先ほど感じた氷のような冷たさはどこにもない。


「——————イ?レイ!?」


「あ…………ああ、すみません。ちょっと呆けてました」


「なんだ…………まあいいや、とりあえず行くぞ」


 刹那のフリーズから意識を返すと、少し、ほんの少しだけ先を行くダイヤたちへ走る。足を速めたのは悪寒から逃げるためか、バターが早く買いたかったからかは今のレイにはわからなかった。





 

 











「————どうしてこうなった………………………」

  


 机を挟んで向こう側に座るのは身長が二メートルを優に超える巨漢。

 反対側にチョンボりと座るレイ。そして机の上に置かれたトランプ。


 ちなみに酒場。


「そっちには、もう賭けれるものが残ってないな?さ、俺たちの勝ちだ」


 そう言ったのはダイヤ。掛け金をこちら側へ寄せたのはイグナ。実際にポーカーをやったのはレイだ。


――——俺たちの勝ち、って俺がやったんですけど!?


 などと言えるはずもなくレイは返答を待つ。


 事の発端は三十分前。チーズの焼ける聖なる匂いに釣られたダイヤがこの酒場に入ってしまったことから始まる。

 



 問題の彼が注文したのは『三種のソーセージのチーズ乗せ』この酒場のイチオシメニューだ。

 そして問題なのは『三種のソーセージ』が『三本』ということである。一本はバジル。もう一本はハーブ。最後の一本はイカスミだったのでじゃんけんで決めることにした。


「漢なら拳で語り合おう…………いざ!!勝負!!」


「さいッしょは…………グウッ、じゃんけんポォォォォォイ!!!!」


 むさくるしい男達による拳と拳のぶつかり合い。それは世界の隅っこの、こじんまりとした酒場を震わす!!


 パー、パー、パー………………チョキ。


 …………あれ?一人多くね?


「フハハハハハハハ!!どうやら我の勝利のようだな!!」

 

 腰に手を当てて哄笑するテンガロンハットの男…………年齢は恐らく五十代らへん。

 肩幅のクソデカい黒色人種で、チャームポイントらしきちょび髭が体格に全然合ってない。


 あと…………このベストがコーヒー豆の袋を切ったやつ、っていうのが異常に気になる。


「我が名はアルレド・カーレック!!このソーセージはもらったアア!!」


 レイたちの眼前に置かれたフォークはいつの間にか三本の激ウマそうなソーセージを貫いていた。

 そのままアルレドの口に運ばれ――。


「おお……これは旨い……」


 パリパリと、旨そうな音が聞こえてくる。————アルレドの口の中から。

 

「——————」


「「「俺たちのソーセージがぁぁぁ」」」


 全身の血があたまに昇って沸騰するような感覚。血はそのまま蒸発して一滴たりとも無くなった。

 

「おッお前ぇぇ!!」

 

 いきり立って懐から拳銃を抜くダイヤたちに続いてアルレドも懐を探り――――。


「これで勝てたら全額返金プラス……俺の牧場で作ったバターやるよ」


「……………お前……なんつった?」


 思わず聞き返すイグナに巨漢は不敵な笑みを見せつつ答える。


「全額返金。そして…………バタープレゼント。それも十キロ分」


「じゅッ!?………………よし!受けて立つ!!」


 十キロ分というイマイチ分からないスケールの条件を差し出されると同時に、ダイヤが大声で答え今に至る。





 そしてアルレドが、異常に弱かった。


「大号泣の一回です。バター二倍にするからもう一回お願いします」


 彼はすでに「泣きの一回」と「大泣きの一回」をすでに使用済みだ。


「…………いいだろう」


 ふてぶてしく答えるレイは心の中で踊り狂う。


――――あ、勝利の女神が大爆笑しているのが俺には見える、俺には見えるぞ!!


 だって二倍だよ?二十リットルだよ?パンに塗り放題だよ?


「さあ、ショーダウンだ」



 俺の声と共に、欲とバターと執念にまみれたラストゲームが始まる。


 

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