反旗
「共和国はこの森を放棄して、戦線を後退させるつもりだよ……」
一瞬息が詰まる。
「でも……なんで…………」
隊員は大きくため息をつきながら呆れ顔でレイに言う。
「姫を敵国の王子と結婚させて終戦するんだとよ、この森の利用価値はほとんどないから敵をおだてて終戦協定を有利に進めようとしてるんじゃねえの?」
なんでだ…………共和国のために戦ってきた戦士たちをわざわざ殺してまで終戦協定を有利に働かせる必要があるのか?そもそも相手が下手に出てくるとも限らないのに……。
洞窟内に大樹がそっと影を落とす。
ふと、洞窟内が輝いた。
ダイヤの灯したランプの光がライフルと銃剣に反射して静かに、力強く照らす。
それはあたかも、漆黒の夜空に瞬く星のようで。美しい眺めだった。
『英雄にならないか?』
不敵な笑みのダイヤと、共和国軍兵士。いや、共和国軍元兵士。洞窟の奥に眠るのは旧式の強襲戦車。
すでに布石は打ってあったというわけか。
小さく笑みを浮かべると、右手をこめかみに当てて敬礼。
大きく一歩前進すると顎を引き、ダイヤの双眸を見やる。
「レイ・アンダーソン、着隊しました‼」
笑みのまま肩に付けられた共和国軍のワッペンを引き剝がし、踏みつける。
ふと、爆音が耳を貫いた。発生源は奥の強襲戦車だ、あの型の戦車が動くのを五年ぶりに見た気がする。
戦争初期から投入されたR-Ⅴ強襲戦車、今は退役したはずだが、この地で生き永らえていたらしい。確か搭乗員上限が八人だったはずだからここにいる全員は乗れないだろう。
「《ホーム》準備オッケーです」
戦車の上から声を発したのは整備兵らしき男だ、彼の言葉にあった《ホーム》は、恐らく戦車の後部に連結されている履帯付きの巨大な箱だろう。大きさからして居住施設っぽいが中身は不明だが、装甲同士がリベットで止められていて、多少の銃弾には耐えれる設計になっているようだ。
「よーし、アサルトスコーピオンとレイはR-Ⅴに乗れ、他はホームに入ってろ」
座っていた兵士たちを手を叩いて立ち上がらせるとレイは戦車に向かう。
彼が強襲戦車の装甲を撫でて乗り込むと、俺もそれに続く。内部はエンジンに圧迫されているようでかなり狭かったが、この際仕方ない。
戦車の構造上、130㎜主砲が正面向き、50㎜副砲が左右に二つ付いていて、それぞれ九十度まで回転する。上部にはハッチが付いており、偵察も可能。さらにハッチを開けて外に飛び出せば徹甲榴弾連装砲が後付けされており、接近してきた歩兵には効果的な対処ができそうだ。
ぱっと見たところ最強そうなスペックの兵器なのだが、弱点がひどすぎる。
剥きだされた履帯と装備過多による圧倒的遅さ、しかも後ろにでっかな荷物付き。
最新のR-Ⅷ突破戦車は細身ながらもロングバレルによる長距離射程と、高速機動、さらに履帯のカバーつき、前後左右に重機関銃が全部で四つ付き。まさに雲泥の差だ。
初めて戦車に乗った感動半分嬉しさ半分で車内を見回していると、ダイヤが叫んだ。
「レイ、右副砲に就け!」
「はい……ってええ!?」
戦車に乗ったことがなければ副砲を操作したこともない、それが伝令兵レイ。
言われるままに砲座に着き、いろいろ確認。大量のスイッチとボタン、スロットルにレバー。無数の置物。
とりあえず上についているスイッチをカチリ。
不気味な人形の帽子が反対になる。なんだこれ。
「………………」
もう一度押して元に戻すと、隣のスイッチをカチリ。
ガイコツアタマの口が開いて煙が出る。あ、加湿器だコレ。
「美容大事ね、ウン」
加湿器を止めてさらに隣のスイッチオン。
爆音。
両脇に付けられたスピーカーから大音量の音楽。このビブラートしまくっている歌は東の国の『エンカ』という歌だろう。聞けば聞くほど味が出てきそうだが歌詞がさっぱりわからないので消しておく。
一通り調べた後、ダイヤにしっかり砲塔の使い方を教えてもらった。
『行くぞ!!お前ら!!』
車内に響いた声に全員が応える。
「「おう!!!」」
戦車は突き進む。戦場へと…………。




