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49話

 アイディオンの基地、という以上、当然それは街から離れていた。

 シルフボードを最速で飛ばして2時間、というから、当然、ヒーロー全員が現地集合するには不便なのである。

「あ、それじゃいいですか。皆さんいらっしゃいますね。いいですね、行きますからね」

 なので、街のとある一角に、ヒーロー達が集まっていた。

 瞬間移動系の異能を持っているヒーローがいたので、それで全員、一度に一瞬で運んでもらおう、という事になった。

「私、皆さんをお運びした瞬間、落ちますので。あとはヨロシク。そいじゃー参りまーす」

 そのヒーローさんはのほほん、とそんなことを言って、一瞬表情を引き締めたかと思うと……辺りの景色がもう、変わっていた。


 鉄クズの山のような、只のゴミ捨て場のような、そんな場所だったが……確かに、その鉄クズの中に扉らしきものが見える。

 恐らく、この場所に複数個所、扉にあたるものがあるのだろう。

「っと。……おーい、おーい……あ、やっぱ駄目だね、これ。ま、しょうがないかぁ」

 そして、俺達をここまで運んだヒーローさんは、宣言通り意識を手放してしまったらしい。

 一気に50人以上のヒーローを運んだのだ。当然だろう。

 行きはよいよい帰りは……っていう所か。

「……とりあえず、じゃあ、各自、持ち場について下さい。『ポーラスター』の人達は……ご武運を。報告を待っています」

 ここからは無駄な挨拶も会話もナシだ。

 各自が速やかに動いていく。

 もう相手にも、こちらの侵入は分かっているだろうし。


「……じゃ、行くか」

 古泉さんが扉の前に立ち、腰を落として真っ直ぐ、拳を突き出した。

 古泉さんの拳が受けるエネルギーの半分を反転させることで、古泉さん自身はダメージを受けずに、扉にダメージを与えることができる。

 だから思いっきり殴れる、らしい。

 古泉さんの拳は鉄の扉をひしゃげさせた。

 それを同じようにして蹴り飛ばし、完全に扉を外してしまうと、古泉さんは俺達の方を見て、1つ、頷いた。

 何も言わず、俺達は古泉さんの後に続く。


 古泉さんが上に落ちたり下に落ちたりしながら猛スピードで進み、それに茜さんが跳ねて続く。

 2人の起こした風を操って桜さんが飛び、その後をシルフボードに乗った俺と恭介さん、コウタ君とソウタ君が続く。

 道中に現れるアイディオンは、茜さんの投げキスか桜さんの投げナイフや風で一瞬動きを止めて、その隙に全員素通りしていく。

 後から追ってくる分は、他のヒーロー達が始末してくれる手筈だ。

 とにかく、俺達の仕事はLv30のアイディオンを叩くことだ。

 それ以外は全て無視して、最速でLv30アイディオンの元まで辿り着かなきゃいけない。

 時折、トラップが作動しては槍や矢が飛んできて、床から棘が生えて、更にはレーザーが飛んできさえした。

 物理的なものは大抵、古泉さんか茜さんが払って、レーザー類は必死に全員がなんとか避けた。

 ……そうして、ひたすら進んでいく。

 予め、建物の中の様子は、地図が作られて配布されていた。

 地図を作製したのは、元『ミリオン・ブレイバーズ』の『ウェブ・センス』さん、らしい。

 多くのヒーローの協力があってこそ、この戦いは成り立っている。

 ここに来るまで、何人ものヒーローが尽力しているのだ。

 あとは、俺達は俺達の仕事を全うしなくちゃいけない。




 〈誰か知らないが、ここは通さない〉

 少しばかり、開けた場所で足止めを食らった。

 地図上では、ここを通過して真っ直ぐ行けば、中心部……恐らく、Lv30のアイディオンが居るであろう場所に辿り着く。

 〈通りたければ私達を倒してから行け〉

 足止めにしては十分すぎる程、十分だった。

 数は……ざっと数えただけで、20余り。

 どれもがLv10以上のアイディオンだった。

「こんな所で足止めされる暇は無いんだがな」

 しかし、ここで俺達が止まるわけにはいかない。

 ここで止まれば、前も後ろもアイディオン、という、最悪の状態になる。

 他のアイディオンの陽動をしてくれている他のヒーロー達の努力を無駄にするわけにはいかない。

「シールド展開!」

 仕方ない。せめて、できるだけ威勢よく発声しながら……シールドの幻影を生み出す。

 一直線に、中心部へ向かう道を作るように生み出したシールドの両脇から、アイディオン達が猛攻を仕掛けてくる。

 ……それがシールドじゃない、とばれるまでの時間があれば、とりあえずは十分だ。

 あとは中心部に入って、Lv30アイディオンをコウタ君とソウタ君のフィールドに引きずり込めればいい。

 時間稼ぎはそこまでで十分なのだ。

 アイディオン達の攻撃に合わせて、シールドの幻影を幾つかわざと壊す。

 壊れるものだと思ってしまえば、ひたすら攻撃して壊そうとする。

 壊すも何も、そこに存在しないものだった。けれど、今やそこにあるのは紛れも無い真実の……本物のシールドだ。

 〈く、卑怯な!〉

「何とでも言えよ」

 そして、立て続けにシールドを展開しながら、俺達は一直線に進む。

 シールドに囲われた道を抜けて、中央部へ入り込むと同時に、俺は背後へ分厚いシールドを数枚置いた。

 これで、また少し、時間稼ぎになるだろう。

 その間に、親玉を叩けばいいだけの話だ。




 建物の中心部。

 そこに、それは居た。

 〈誰だ〉

 独特の、金属質な声、或いは音。

 そんなものが、俺達を出迎える。

「俺達は『ポーラスター』のヒーローだ。お前を倒しに来た」

 古泉さんの言葉に、それが振り返る。

 アイディオン特有の、服とも鎧ともつかないような恰好をしたそれの表情は窺い知れない。


 早速、襲い掛かってきたアイディオンに対して、咄嗟に俺が幻影を展開する。

 壁でも、火の玉でも無い。

 俺が広げたのは、煌びやかな建物の幻影。

 コウタ君とソウタ君のフィールドである、カジノの幻影だ。

「んで、そのついでに俺達のカジノへご招待、だ!」

「ようこそ!僕達のカジノへ!」

 煌びやかな建物の中、俺達と、Lv30アイディオンだけが立っている。

 ……勿論、まだ、アイディオンは『賭け』を了承していない。

 だからまだ、コウタ君とソウタ君は、フィールドを展開できていない。

 勝負はここからだ。


「邪魔が入ったら面白くねーだろ?」

「ここならどんなに暴れても、あなたの基地に被害はでません。僕たちにとっても、あなたにとっても条件は悪くないはずです」

 〈ここで戦うのか〉

 アイディオンが、身構える。

 ……戦うのが好きなタイプ、なんだろうか。

 だとしたら厄介この上ないんだけれど。

「勿論、条件がある。まず、俺達が勝ったら、お前のソウルクリスタルと、持ってる情報を頂く。逆に、俺達が負けたら」

「『ポーラスター』は全員自害しましょう」

 その言葉に、アイディオンは若干、驚いたような感情を見せた。

 俺達はそれに答えるように、アイディオンを見返す。

 〈賭け、か〉

 アイディオンは、コウタ君とソウタ君の話した内容、そして、俺の幻影から、そういう結論を自ら導き出した。

 つまり、信じた。

「何で勝負しますか?ブラック・ジャック?ポーカー?バカラ?」

 アイディオンは悠々と俺達の様子を見る。

 〈殺し合いだ〉

 ……やっぱり、そう来たか。




 その瞬間、カジノの煌めきが一層強くなる。

 多分、本当にコウタ君とソウタ君のフィールドが展開したんだろう。

「条件を確認しま……うわっ!」

 そして、ソウタ君が条件の確認を行おうとした矢先、ソウタ君のすぐ隣を何かが駆け抜けていき、消えた。

 〈ここは頑丈なのだな〉

 アイディオンは手に、剣のようなものを持っている。

 多分、あれを振ったのだろうが……見えなかった。

 恐らく、これがフィールドじゃない所だったら、地面が割れ砕けて、とんでもないことになっていたんだろう。

 〈だが無意味だ〉

「勝負は俺が引き受ける。他のヒーローは」

 そして、古泉さんが言う前に、アイディオンの一撃が古泉さんを襲う。

 古泉さんは後方へ飛びつつエネルギーを反転させて防いだらしいが、咄嗟に反転しきれなかった分があったのかもしれない。

 すぐに茜さんの投げキスが飛ぶが、アイディオンは全く堪えた様子も無い。

 状態異常に耐性でもあるのか。

 〈御託はいい。全員で掛かってこい〉

「それは断……え」

 コウタ君とソウタ君が、何か慌てたように虚空を見つめると……その時、空間に亀裂が走った。

 煌びやかな建物の壁に、床に、縦横無尽に罅が走る。

 そして、一瞬の間の後、割れ砕けた。

 〈小細工するだけ、無駄だ〉


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