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47話

 その月のノルマをギリギリでなんとか片づけた翌日。

『ポーラスター』ヒーロー事務所は大層賑わっていた。

「本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。これより、第3回『星間協会合同会議』を開催させていただきます。司会は『イリアコ・システィマ』の『エルデ』が務めさせていただきます」

 若い男性がそう言って、『星間協会合同会議』は開催された。




『星間協会合同会議』は、『ヒーローの要らない世界を作る』事を目的としている……つまり、『ポーラスター』と志を同じくするヒーロー達の集まりである。

 俺達はこの人達と一緒にLv30アイディオンとの戦闘を行うのだ。

 来週に迫ったその大規模な戦闘に備えて、最終的な調整を行うべく、今日の会議がある。

 ……なにしろ、この数だ。

 参加しているヒーロー事務所の数は6。

『ビッグ・ディッパー』、『イリアコ・システィマ』、『ノヴァ・ブレイズ』、『サウザンクロス』、『スターダスト・レイド』そして『ポーラスター』だ。

 どこも小規模とはいえ、6つも事務所が集まれば、そこらへんの大手と同じようなヒーローの数になってしまう。

 だが、人数がいくらいたって、統率が取れていなかったらそれは単なる烏合の衆でしかない。全員の統率が取れていてこその戦力だ。

 だから、このような会議の場は自然と必要になってくるのだという。


「では初めに、『ポーラスター』の『スカイ・ダイバー』さん。Lv30アイディオンと交戦する際の作戦をお願いします」

 司会の人に促されて、古泉さんが起立する。

「お手元の資料に詳しくはありますが、簡単に言ってしまえば、フィールド系異能で巻き込んで戦おうと思っています。なので、周囲に被害が出ることは少ないかと」

「あれ、そちらってフィールド系のヒーロー、居たんでしたっけ」

「つい最近拾いました」

 古泉さんの側に座っていた女性が首を傾げたので古泉さんが胸を張ってそう答えると、その女性を始めとした多くのヒーロー達が、いいなあ、と、羨ましそうに、かつ、嬉しそうに声を漏らした。

 羨ましそうな声と視線を浴びて、しかし、それらが嫉妬というよりは祝福に溢れていて……コウタ君とソウタ君はなんとなくもじもじしていた。


 古泉さんの説明と、資料……コウタ君とソウタ君の異能についての情報とを照らし合わせながら、その場のヒーロー達が考え始める。

「『ビッグ・ディッパー』の『ライト・ライツ』だ。久しぶり。……ええと、てっきり、そっちの『カオス・ミラー』さんが致命傷負って『パラダイスキッス』さんに治してもらうパターンかと思ってたんだが、条件付きのフィールドを使うのはそれより効率はいいのか?」

「フィールドを使えば相手に賭けの結果を強制でき……上手くいけば、相手の命より大きなものを得ることができる、と踏んでいます。……Lv30ものアイディオンが何も情報を持っていないとは思いにくい」

 古泉さんがそう言うと、成程な、と『ライト・ライツ』さんは納得したらしい。

 ……つまり、この戦いでコウタ君とソウタ君のフィールドを使う事で、次の大きな戦いへのとっかかりにしたい、というのが1つの理由だった。

 アイディオンについては分からないことが多すぎる。

 情報規制があるのもそうだし、恐らくは、『ヒーローの要らない世界』を疎む大手が情報を得ても潰しているのだろう。

 だから、もし情報が手に入るのならば……そこに多少のリスクはあったとしても、是非やりたい、ということで。

「『イリアコ・システィマ』の『ヴェノム・ハデス』です。賭けに巧く持ち込む為の手段があるようですが、賭けに持ち込むまでについては心配はいらない、ということですね?」

「はい。それについても『ポーラスター』の新人がやってくれます」

 そう言って、古泉さんはちらり、と俺を見た。

 ……つまり俺の仕事は、『この賭けには乗らなくてはいけない』とLv30アイディオンに思い込ませて、賭けに乗せること。

 この作戦の鍵と鍵を繋ぐ事が、俺の仕事だった。




「実際にどんな情報が欲しいかと言われても、正直な所分からないことが分からない状態なんですよね」

 そして、アイディオンから『賭け』で得る情報について、だが、こちらは殆ど有効な意見が出てこなかった。

「そもそもアイディオンって何なのか、とか、どこから湧いて出てるんだ、とか、聞きたいことは山ほどあるけどな。とりあえず聞くとしたら、他のアイディオンの基地じゃないか?」

「だよねー。精々そんなもんだよねー」

 余りにもアイディオンの事を俺達は知らなさすぎる。

 その第一歩を踏み出すようなものなのだ。五里霧中も仕方ないかもしれない。

「賭けの内容は?まさかアイディオンとカードゲームでもやるのかよ?」

「そのままでいいんじゃないか?普通に殴り合って勝った方が、でいいなら単にバトルフィールドを移しただけになるし」

「後は行き当たりばったりですけど、相手のアイディオンを見てからでもいいんじゃないかと思います。向こうが脳筋なら戦えばいいし、そうでないならもっと有効な方法もきっとあるんでしょ?」

 ……その後も幾つか、参考になりそうなアイデアを貰ったが、結局の所、俺の技量と時と場合に応じて、という事になるのだ。

 一応、俺の異能がどんな異能なのか、この場に居る人たちにも明かしてはいない。

 いつか明かすべきかもしれないが、同じバトルフィールドで戦う可能性がある以上、できるだけ『騙されてくれる』人が多い方が良い。




 そこら辺はまたそれぞれ思いついたら『ポーラスター』に連絡、という事にして、その他……Lv30のアイディオン以外に居るであろう、そこそこ高レベルであるはずのアイディオン達についての対策を考えることになった。

 基本的には、ヒーロー事務所ごとに戦い方があって、それぞれがそれぞれに戦う、という事になるのだが、新しく入ったメンバーが居たりしたら、そのメンバーの異能について説明して意識の擦り合わせを行ったりしておいた方がいい。(俺のような場合は除くけれど。)

 特に、回復ができる人は少ないから情報の共有が当然必要だし、状態異常系ならどんな状態異常にできるのか、発動条件は何か、等、共有すべき情報は無数にある。

 特に、今回は。

「『スターダスト・レイド』の『エレメンタル・ナイト』です。今回から星間協会に入らせていただきます。……ご存知の通り、うちは人数が多い。それぞれ、まだ戦い慣れない部分もありますが、数と気持ちでカバーしていきたいと思います」

 彼を見て、思わず顔がほころんだ。

 彼も俺を見て、小さく目を見開いてから、微笑んだ。

 その姿には見覚えがある。

 深い赤の髪と、炎のような朱の瞳。

 笑顔を浮かべる好青年はついこの間まで、『エレメンタル・レイド』と名乗っていた。

 ……成程。元・『ミリオン・ブレイバーズ』のヒーロー達は、自分たちで新しい事務所を立ち上げてしまう事にしたらしい。




『スターダスト・レイド』のヒーロー達の把握も終わり、細々とした打ち合わせも終わった。

 今回の戦闘は、『ポーラスター』対Lv30アイディオンの戦闘が、数分足らずで終わるだろう、という所に肝がある。

 コウタ君とソウタ君の異能の都合上、フィールドで流れる時間は実際に流れる時間よりもかなり早いのだそうだ。

 それは古泉さんがコウタ君と碁を打ってもほんの数十秒にしかならなかった辺りからも察せられた。

 ……つまり、この大規模な戦闘では、一番大きな戦闘が一番最初に終わるのだ。

 よって、『ポーラスター』以外のヒーロー達は、それぞれに出入り口を塞ぐようにして陣取ることになる。

『ポーラスター』が勝ったなら、逃げる他のアイディオンを逃がさず潰す。

 もし……『ポーラスター』が負けたなら、すぐに撤退できた方がいい。

「……最後にもう一度、確認しますが、『スカイ・ダイバー』さん、本当にそれでいいんですね?」

「はい。うちは絶対に負けませんから。『ポーラスター』が負けた時の事を見越して俺達の救援を用意する、なんてことは不要です」

 古泉さんは自信たっぷりにそう答えた。

 この布陣の問題点があるとすれば、『ポーラスター』が負けた時に救助しにくい、という事だった。

 ……そして、古泉さんはその懸念をおして、この布陣を勧めたのだ。

 他の事務所のヒーロー達は多少心配そうだったが、古泉さんが大丈夫、と言えば、信頼することにしたらしい。


「では、第3回星間協会合同会議を終了します」

 集まったヒーロー達は、全員自信と覚悟に満ちた良い顔をしていた。


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