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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP3ー虚心坦懐
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第二章 capter-2    襲来(2)

「……っ!」

 相手の威圧感に一瞬足がすくむ。……だが。

「呑まれる訳にはいかない……!」

 シラヌイが剣を抜き構えたのを見て、須賀谷もタマチルツルギを抜く。

 こういう状況で共に闘ってくれる者がいるというのは心強い!

「うぉぁぁぁっ!」

 シラヌイが剣で切りかかると、カゲロウは巨大な爪で剣を受け止める。

 その上を須賀谷は飛んで追撃を仕掛けるが、カウンター気味にバックブローを食らって吹っ飛んだ。

「ぐぅぅっ!?」

 今日は鎧を着ていないせいで、ダメージがよく通る。

 だが、吹き飛んだところでただではおかない。ここで負けては話にならない!

「食らいやがれ!」

 一撃で仕留めようと両手で保持したタキオンマグナムを相手の肩目掛けてぶっ放す。

 ドゥッとでかい音がしてマグナムは発射された。

「ぬんっ!?」

 だが、カゲロウはこちらの弾道を見切り回避してくる。なんて運動性能だ。

「せぇやぁはぁ!」

 そしてそのまま奴は流れるようにシラヌイの剣を掴んでシラヌイごと投げ飛ばした。


「くっ……」

「畜生……」

 須賀谷とシラヌイは膝を付く。

「俺は元々100年に一度の天才エージェントだ。10年に一度のエージェントと言われたシラヌイ如きが、俺に勝てる訳なかろう」

 カゲロウはそう嘲笑う。

「お前達を片付け、カカサマを殺す。それから俺の時代が……始まるのだ」

 そして続けてくる。

「何故、裏切った!」

 シラヌイはそんなカゲロウに対し立ち上がりながら尋ねる。

「何故? そりゃあ決まってるだろ。それはこの世界がくだらねぇからだよ!」

 するとカゲロウは苛立ちながらも返してきた。

「シラヌイ、お前エージェントってのはどうなるのか知っているか?」

「……学校で各学年3席までがトップエージェント、5席までをその候補生とするとは知っている」

 シラヌイは苦し紛れにそう言う。

「そういう事をいってんじゃねぇよ。俺らナガオカの国民はな、生まれたときから検査で打診されんだよ。適性のある奴は言葉も覚える前に検査を受けて、親に話が行くんだ。朝廷の元で働けるかもしれませんよ、いい名誉ですよ、ってな」

「……それがどうした」

「好き勝手に生きる道を決められるってのは面白くねぇんだ」

「何?」

「俺はな、小さい頃からエンヂニアになりたかった」

「……」

「でもな、この歳からは遅いんだよ。脳が受け付けないんだ、覚えようとしてもな。成りたいものになれない世界になんの意味があるんだ、親に強制されしたくもないことをして長時間拘束されて! 御蔭で俺の人生は帰ってこないのだ!」

「……!」

「人に人生を狂わされて奪われた時間ってのは変わらない、取り戻せないし何にもならない。金も女もない、人生の過ごし方も知らない。ただこの歳になって残ったのはただの筋肉だった」

「……っ」

「だから俺は奴らに襲われたときに提案を受け、大妖魔の力と肉体を手に入れた。大妖魔ならば有り余る時間もあり、正しく生きれば脳細胞も活性化する! しかも限りなく生を謳歌できるのだ! これほど正しいことはない!」

 カゲロウという男は高笑いしながらそう言ってのける。

「……くっ」

 須賀谷の胸が痛む。この男も、自分の生きる道を手に入れようとしたのか。

 同情は出来る。そう思った時、シラヌイが口を開いた。

「貴様は……責任転嫁をしているだけだ」

「何?」

「此処に通いながらでも、学ぶ道はあった。有益に時間を使えなかった貴様の負けだ」

「どの口がそれを言う!」

 カゲロウが激怒し、シラヌイを殴りつけた。

「ぐぅっ!」

 そしてさらに追撃で回し蹴りをかまそうとしたので、須賀谷が前に出て弾く。

《プロテクション・ハードスティール!》

「ちぃ! この男!?」

 蹴りは魔力の壁により受け止められる。

「何者だ貴様! 私の知識にはない人間だな!?」

「異界の人間と戦う騎士……そうとでも言っておこうかぁ!」

《イラプション・パワー発動!》

「こんの野郎ぉぉぉ!」

 さらに須賀谷は筋力を倍加させ、腰に力を入れながら受け止めた足を掴んで振り回し投げ飛ばす。重いったらありゃしない。

「ぬぅぉぉぉぉ!?」

 カゲロウは驚くままに投げ飛ばされ、尻餅をついた。


「生きる道を塞いだのは貴様だ! そして自らの行いにカカサマを巻き込むな!」

 シラヌイがそこへ突撃し、剣を抜き切り掛かる。

「ほざけ!」

 迎撃するようにカゲロウが反撃に拳を固めて振り下ろしにくる。

「おぉぉ!」

 だがシラヌイは回避しながらも咄嗟に懐から拳銃を取り出すとカゲロウの顔面目掛け、引き金を引いた。

「まヴぁっ!?」

 そして一撃打ち怯んだところに、必殺の一撃を繰り出した。

「妖力燃焼!《天網恢恢・圧切!》 消えろっ!」

「ぬぅぅぅっ!」

「……勝負というのは一瞬で蹴りが付く。そう昔言ったのはあんただ」

 シラヌイが告げながら血振りをすると、カゲロウの胸が裂けて仰向けに倒れた。


「く……蕨……」

 だが倒れ伏したカゲロウは、まだ生きていて立ち上がろうとする。

 そして四つんばいになって這いながら女のほうまで行った。

「すまない……蕨……」

 申し訳なさそうな声を出し、蕨に縋り付く。

 だが。

「ジュウジツ! ファイヤーアイアンクロー!」

 突如蕨はカゲロウの頭を掴むと、そのまま燃やしてしまう。

「ぐわぁぁぁぁぁ! ぎゃあああああ!」

「無様ね、無様」

 蕨が冷ややかな目で、頭に火が付いたカゲロウを蹴り飛ばす。

「そんな……馬鹿な……!」

 シラヌイも須賀谷もその光景に、息を呑んだ。

「あがぁぁぁぁぁ! そんな…… 大妖魔の……俺がぁぁぁぁぁ!」

 炎の勢いは強く、あっという間にカゲロウの全身を焼く。

 そして5秒後には、もう奴の大きな身体は炭と化してしまった……。



「そんな、こういう事をするのかよ……」

 須賀谷は蕨のえげつなさに、引いてしまう。幾ら負けたからってそんな私刑をするとは。常識を疑う。

「……まるで人とは思えない」

「妖魔だからな、貴様達人間の道理が通じると思うのがおかしい」

 蕨は後悔の念もなくそう言ってのける。

「あの男は自分の信念に従ったはずだ! それを利用しやがって!」

「勝手に人に期待を載せて裏切られたからって、別になんてことないじゃない。人を裏切るものは裏切られる、因果応報よ」

 蕨はそう、ふふっと笑った。

「……腐ってやがる」

 須賀谷は舌打ちをする。

「この女は……生かしてはおけない」

 シラヌイが真剣な表情で、怒る。

「生かしてはおけない? 何様のつもりなの?」

 すると指パッチンと共に3体の妖魔が地面から湧き出てきて、須賀谷の後ろにいたシラヌイを囲んだ。

 須賀谷は加勢にいこうとしたが女を逃がすなとシラヌイが叫んだので再び蕨に向かい直る。

「貴様達は何故……カカサマを狙う!」

「お前はそんな事も知らずに飛び込んできたのか? 我々の千年の因縁を知らずに」

 蕨はあざ笑うと、そう言ってのける。

「先に襲ってきたのはそっちだ。妖魔をけしかけてきてな!」

「ふん、異人風情が我々のテリトリーに入るから悪い」

 この女はプライドが高い。一度捕縛するしかない。

 そう須賀谷が考えたとき、蕨がまた口を開いた。

「少し遊んであげるわ。……エージェント以外の相手は久しぶりなの。かかってらっしゃい、坊や」


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