第二章 capter-2 襲来
ゥウゥゥゥーーーーーー。
順を送り出してから20分くらいした後に突然、学校の放送装置から大きな音が鳴り出す。
……低音で、耳障りだ。火災報知機でも誤作動したのか。
「何だーーこの音は?」
「さぁ……?」
須賀谷達が驚いていると、緑の服を着た体格のいい三十路くらいの男性が息を荒げながらどかどかと部屋に飛び込んでくる。
「客人、大変だ!」
その様子はかなり慌てているようだ。騒々しい。
「……このサイレンは、なんです?」
そう尋ねると。
「……国民保護サイレンだ! ……ヴェリエント、妖魔だ! 妖魔がきたんじゃ!」
男は慌てた顔をしながら、そう叫んだ。
「……っ!」
緊張感が走る。まさか打って出る前に奇襲が来るとは。
「わしは校舎内の守りを固める、主らはカカサマを探してくれ!」
男が去り際に、言ってくる。
急いで窓から身を乗り出して外を見れば空が何故かこんな時間なのに薄紫で、生徒が既に100体近くで攻めてきた妖魔たちと乱戦になっていた。
「うわぁぁぁぁ!」
生徒が一人、妖魔に踏み潰される。
「くっぉー! 不倶戴天! 破邪顕正ォォ!」
そんな妖魔を数人の生徒が死に物狂いで囲んで、叩き殺す。
「……数の上で不利だ」
須賀谷は呟く。
「えぇ……しょうがないから私が校庭に加勢するわ。順さんもいるでしょうし貴方は早くカカサマを」
「……お前の火力は確かにありがたいからな。死ぬなよ」
「お互いにね」
互いにハイタッチして別れると、イフットは窓から一気に校庭へと飛び出した。
地に降り立ち、こう叫ぶ。
「行くわよ! 《クリムゾンノヴァ!》」
「グォォォォゥ!」
炎トカゲが咆哮と共に地面から出現する。
「今日は数が多いから本気を出させてもらうわ! ミストエリアで拾って腕輪にした魔石の力も使うわよ!《ドラゴン・エンチャント!》」
イフットが魔法を唱えるとクリムゾンノヴァが発光し、一回り巨大化して翼と牙が生える。
「進化した!?」
近くの生徒がざわめく。だが須賀谷も横目で見つつ、驚いていた。
「あいつ、いつの間に……」
確かにミストエリアでイフットが綺麗な石を見つけたのは知ってはいたが。
「生徒さん達、私の射線から離れてね! 《迫撃!》」
こちらの視線など知らないようで、イフットは曲射で密集していた数体の妖魔を一気に葬っていく。……流石だ。
「おぉぉぉ! 女神はついているぞぉぉ!」
「一億抜刀ォォォ!」
それに乗じて生徒達の士気が上がっていく。
「……流石だな、イフット。……俺も急がないと」
須賀谷は少し誇らしく思いつつも走りながら各教室のドアを開け、カカサマを探した。
「何処へ行った? カカサマ!」
ーーあの子を、守らなければならない。
俺は俺の役目を果たす必要がある。人が頑張ってるんだ、俺に出来ない事が無いわけじゃないーー。
紫の瘴気が差し込む一階の茶道室。そこではシラヌイとその後ろに隠れるカカサマが、一組の男女と向かい合っていた。
男のほうはシラヌイと似たような山高帽を被っていて、女のほうは露出面が大きい服を着ている。
「おやおやぁ、シラヌイ君。その目つきはなんだい?」
二十歳くらいの女のほうが、シラヌイを煽っている。
「お前が何故……」
「半年前にいなくなったはずのエージェント・カゲロウ先輩と此処にいるかって?」
男の方が、遮るかのように口を開く。
「……っ。貴様、謀りおったな」
カカサマが悔しげに言う。
「謀った? 違うな、スカウトされたのさ。妖魔の若頭にな。クソの役にも立たない朝廷よりもこちらのほうがおいしいとそう感じたのでね」
男はへっと笑いながらも土足のまま畳に上がりこんでくると、剣を抜刀して二人を壁際に追い詰めた。
「シラヌイ、いけるかの?」
カカサマが不安そうな顔をする。
「二人だけは食い止める。その隙に脱出をしてくれ」
「じゃが、お前は」
「……俺の頼みだ。頼む、カカサマ」
シラヌイがそう頼んだ瞬間。
「どけよ!」
後ろから須賀谷が踊りこみ、タマチルツルギを発現させ男に切りかかる。
「なんだ貴様!?」
男は受けようとしたが紫の刀身を見て驚き、慌てて飛びのいた。
その瞬間に須賀谷は横のふすまを片手で掴んで外し、女に思い切り投げつけてさらに男にも巨大な茶釜を投げつけた。この行動は予想外のはずだ。
「ぐぉば!」
「がふっ! 何をやっているの!」
女がヒステリーな声を出す。だが、これで少しは足止めになる。
「逃げるぞ! この子の安全確保が先だ!」
須賀谷はカカサマを急いで片手で抱え上げると、シラヌイに叫んだ。
「何故此処が?」
廊下を逃げる途中でシラヌイが聞いてくる。
「聞こえたのさ、ちょうど上を通ったらな」
須賀谷はそう、答えた。
「それよりも奴らは、なんだ?」
「女のほうはヴェリエントの現場に出る最大幹部である、蕨。そして男のほうはカゲロウ。……カゲロウはこの学校の人間で俺の先輩になる。優秀なエージェントだった」
シラヌイは複雑な表情をしつつも言った。
まさかそんな事があったとは。組織という奴もどこも一枚岩ではないらしいな。
「まさかカゲロウが……向こうと内通していたとは思わなんだ」
カカサマも嫌そうな顔をしていた。
「ちぃぃ……」
須賀谷達が逃げた後、襖を押し上げて男女が追ってくる。
「外の様子はどうなの?」
女のほうが聞く。
「駄目ですね、無茶苦茶強い女が二人いて攻め込めませんよ」
カゲロウは苦々しい顔をする。
「良いわ。ならば、その女を捕らえましょう」
蕨はそう提案し、カゲロウはその冷ややかな顔で頷いた。
昇降口を出たカゲロウと蕨の前に、須賀谷とシラヌイが降り立つ。
「逃がさないぞ? 攻め切れなかったお前達が今、イフット達を狙ってくるのは分かっていたからな」
須賀谷は攻撃的に言ってのける。
「ち……」
蕨は舌打ちをする。
「シラヌイ。カカサマはどこへいったのだ?」
その横でカゲロウが尋ねてくる。
「教えるわけにはいけませんね、先輩」
シラヌイも毅然と、カゲロウを拒絶する。
「仕方がないな……俺が黄泉へ送ってやる」
するとカゲロウは、声を一段低くしてシラヌイを睨み付けた。
「昔のおれと同じだと思ったら大間違いですよ」
「だろうな。だか俺も……昔とは違う」
「何?」
「俺は……ヴェリエントの若頭だ。そして始祖に妖魔を超える妖魔、超妖魔の力を授かったのだ!」
カゲロウはドスの聞いた声を上げ、上着を脱ぎ捨て上裸になる。
「超妖魔だと?」
「フハハハハハハ! 無縁仏にしてくれる!」
カゲロウは笑いながら、肉体を瞬時に変化させて怪物と化した。
それも今校庭で戦っている妖魔達の倍は筋肉がある、怪物として。




