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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP3ー虚心坦懐
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第一章 capter-3   スピードの中

「流石は優待チケット……殆ど並ばず来れるとはな、順」

「……S席だしな」

 先程売店で買った黄粉餅を頬張りながら順は、返事をする。

 相当でかいブレイズクレイドルサーキット場に着くと、数万人とも言える人々でごったがえしていた。

「一体、このレースは何人くらい参加しているんだ?」

「非公開の予選が50、決勝が10だ。サーキットの一周が6kmで、3時間耐久レースになる」

「……へぇ、周回じゃないんですか?」

「たかだか6kmのコースに音速のスピードで走ったらあっという間に終わってしまう。これは耐久レースなんだよ」

「へぇー」

 イフットは成程と感心する。

「レーサーってのはな、自分の受ける風、そして疲労と戦わなくてはならないんだ。このマジックボードが既存の馬車レースと違うのはピットで馬の車輪を変更したりすることではなく、レーサー自身の休憩とオーバーテイク用のエネルギー補充の為にあるということになる」

「ふむ……」

 中々勉強になる。

「3時間精神を集中させて走るってのは、相当に辛いことだと、私だって思うよ……」

 順は黄粉餅に黒みつをかけ、また一つ口に入れた。

 そんな会話をしていると、入場がやがて始まった。



「さぁ第4回マジックボードグランプリ第6戦、スターティンググリットに各自着きました、ポールポジションを飾る予選一位は前準優勝者イースタンインダストリーの勇気 一真、高山での特訓とボードチェンジをして見事なタイムです。0・2秒違いで二位に前回のチャンプ、ブレイズクレイドルのレオカディオ・アロンソ・ムラクモ! 天才少年の二冠はなるか! 三位に朝日魔道機器の鉄人、兜田鎧! 今季最年長のレーシングマシン! 四位、新人にして予選突破! ライジングサンの青木巨星! 走りに期待です! 五位に楓コーポレーション 梅染 桃、こちらも今季デビューの女性ドライバーです! 六位も女性、ブレイズクレイドルの甘露寺 彩葉! 地元出身だけあって人気も高い! 七位 ジョン・カタストロフはチームインフェルノ! ボードトラブルで失速中だがここで力を見せてほしいところ! 八位……」

 実況の男の声が放送で、聞こえる。

「なんだ、二人とも予選突破できているじゃないか」

 須賀谷はおお、と声を出す。

「そりゃ走りなれてるコースだしな。……とはいえ予選であいつを抜かす人間がいるとは、スポーツの世界も奥が深いな……」

 順は静かにもちもちと頬を膨らませつつも喋る。

「心配なんですか?」

 とイフット。

「いや……私の心配などいらない、あいつはヒーローさ。自分で考えて、自分で答えを生み出せる」

 順はそんな質問に、首を振って言った。

 須賀谷も思う、朝霞でみたあのスピードを超えるものなんて早々ありえない、と。


 自分の知らない世界のなかの話だが、彼らには彼らの物語がある。

『……GO!』

 レッドシグナルが消えた瞬間、10人は各々飛び出した。

 スピード感とかいうそんな言葉ではない速さだ。

「……っ」

 目を凝らさないと、見落としてしまう。

「あーっと、ブレイズクレイドルの甘露寺、スタートでいきなり飛び出した! そのあとを兜田、勇気が追う! 他の選手は出遅れたぁ!」

 そんな実況の声も、あんまり耳に入らない。

 ……ただただ、この観客の歓声を浴びながら走っているという彼ら……それらに、美しさを感じた。

 ボードから火花の軌跡が走り、アロンソが急激に加速していく。

 そして一つ目のコーナーを越えたあたりで、一気に前にいた3人を抜き離した……。

「アロンソさん、そんなペースで走ったら!」

「根性が違うんだよ、根性が! ビリッケツになりたくなかったら着いてこいや!」

 後ろからの甘露寺の忠告も聞かずにアロンソは、さらに加速する……!



 息を呑むかのような時間は、あっという間に終わってしまった。

「おめでとうございます」

「おめでとう」

「ありがとよ。かぁーっ、やってやったぜ!」

 得意満面のアロンソは、胸を張って狂喜乱舞する。

「1位だからってこれで勝ったと思わないでください。まだシーズンは終わってません」

 面白くなさそうな甘露寺は、そこへぶつぶつと小言を言った。

「おめぇ4位じゃないか最終的によ。このシーズンで俺に勝てるのか?」

「ぷん」

 夕方になってインタビューを終えた二人の元へ行くと、相変わらず喧嘩をしている。

「私の前をふさぐから悪い」

「人のスリップストリームに付いたくせに何言ってんだ」

 走っている間はただひたすらに格好いいとさえ思えたが、やはり人間なんだなと思わせる。

「あぁん?」

「何があぁん? だ愚か者!」

 ぬぅぅ……。少し困るな。

「この二人、大丈夫なんですか?」

 監督のバッヂを付けたおじさんに言うと、

「……これでも仲がいい方なのさ」

 するとそう男がやれやれといった手振りをしつつ言った。

 そこへ振り向くアロンソ。

「ま、うちの所は賞金入ったしな。お前ら遊びに来たわけだしパーッと飯でもおごってやろうか?」

「……いいのか?」

 順が遠慮がちに言う。

 今日はどの道祝勝会だしな。お前達の泊まるとこは朝飯は付いてくるが夕飯はないからよ、どーんとセッティングは任せとけ!

 そのままにかっと笑い、Vサインをした。

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