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ZSーゼット・ストライカーー  作者: ひびき澪
EP2ーライディング・ビークル
21/36

第三章 capter-2   「クイック・ライダー」

『さぁ次の試合は、従兄妹同士の試合ということになります! 中堅 群雲 順 対 大将、レオカディオ・アロンソ・ムラクモ!』

 アナウンスが流れる。

「接待の必要は無さそうだなぁ、順!」

「私が止まっていた間……お前は成長したようだな、アロンソ」

 フィールドの壁の補強が済み、二人は相対する。

 順の方はいつものように平静な態度を取ろうとしているが、まだまだ相手の力を測りかねているようだ。

「あたりめぇよ。空を飛ぶには安定感が必要だ。まだまだ自分じゃ天井とはおもえねぇが、相当センスを磨いたぜ」

「……そうか、だからブレイズクレイドルなのか」

「あぁ、そういう事だよ」

 二人は意味深な会話をする。

「……どういう事だ? 話の意味が分からない」

 二人の話についていけず、須賀谷は篝火に補足解説を頼む。

「ブレイズクレイドル以外にも、幾つかマジックボードのメーカーはあるんですよ。とにかく頑丈で初心者向けな楓コーポレーション、ハンドリングに優れたイースタンインダストリー、アジリティに秀でる朝日魔道機器……その他にも色々あります」

「……では、ブレイズクレイドルは?」

「バランスを崩した時の失速率も多く操縦性が劣悪ですが、魔力を推進回路に回す効率が他社より秀でていてトップスピードは他を寄せ付けない、特性としてはそんな感じです。恐らく技量への依存度は他社と比較しても高いでしょう。後はオーバーテイクボタンの性能も相当高いといったところでしょうか」

「ただのモンスターじゃねぇか……」

「ええ、事実私が調べた情報ではアロンソさんが契約する前のブレイズクレイドルは操者が誰もマシンについていけずレースの度にクラッシュするようなところでした……それが、表彰台常連になったという時点で彼のマシンを乗りこなすセンスとバランス感覚は、人並みをこえています」

「……成程、だがそのセンスは戦闘にどう生きるかだが……」

「順さんが警戒している時点で一筋縄ではいきませんよ。……我々は落ち着いて、見守りましょう」

 そう話している間にも、二人は構えをとる。

 順は制服のまま一振りの太刀を持ち、アロンソは……三又に先が分かれた槍を装備する。

「おめぇが剣でくんならこっちも本気で行かせてもらうぜ? 地上の機動力じゃお前にゃ勝てねぇからよ」

 そう言いながらアロンソは自前のマジックボードに飛び乗り、その場から静かに浮遊する。

「……好きにしろ」

 順はそう不敵に笑うと、歯を見せて言い切って見せた。


「始め!」

「ちょいさぁっ!」

 アナウンスが掛かってから体感で0・3秒後、アロンソがいきなり急加速して順の背後に回り込み、槍を振り下ろす。

「速い!?」

 須賀谷はギリギリ目では追えたが、前情報なしの自分では反応する前に一撃で斬られていたレベルだと自覚する。

 もっとも、順のほうはその攻撃を回避し余裕で離れてさえみせたが。

「あれの何処が失速率が高いだ、速すぎるだろ?」

 納得がいかず篝火に向かい、怒鳴る。

「あれでもあの向こうのアロンソさんは手加減していますよ。マジックボードの世界はトップレベルになれば時速1400kmを越えます。ここはフィールドが狭いから速度が出せないだけですよ」

 すると篝火は落ち着いて返事をしてくる。

「プロってのはそんな高いレベルなのかよ……」

 自分の世間知らずさに唖然とせざるを得ない。あの男はスピードの世界で戦っている、そしてそいつの攻撃を順は避けて見せた……。

「成程、俺はまだまだだな……」

 ヒオウ学園での大会で自分がかつて、俺もまだ子供なのかと問いかけていた事を思い出し、恥ずかしくもなる。

 順に子供扱いされても仕方がない……まだまだだ。俺が思い上がっていただけだ。

 そう思っている間にも二人は剣撃をお互いに繰り出し、避け、魔法を撃ち、飛び上がりと状況を変えていく。

「まだまぁだ本気じゃねぇんだろ、順! 奥の手を見せてみろよ!」

「確かに成長をしていたようだな……アロンソ。今のままじゃ防ぐのが手一杯だ、反撃の余裕すら持てない。悔しいが追いぬかれているといっても差支えないだろう。マジックボードの扱い、それには敬服する」

「はぁ? らしくねぇなぁ!」

 二人は斬り結びながらも、言葉を交わす。

「……だが、私にも力がある!」

 そしてアロンソが少し飛びのいた瞬間、順が腕を掲げた。

『エクステンション!』

 そして順がついに、剣を捨ててケイラウトアーマーを召還するーー。

「お前も力を手に入れたってことかい! だが、俺のスピードについてこれるかな?」

「追いついてやるさ、必ずな! 《ドリルビット》!」

 順の号令とともにアーマーの背部から出た《ドリルビット》がアロンソに向かい急速で迫る。

「ちぃっ!」

 だがアロンソは槍で弾きつつビットを後退で軽く振り切ってみせると、上空へと急上昇する。

「中々やるじゃねぇか! 当たりゃこいつは一撃で俺を倒せるぜ!」

 さらにそのまま順に言ってのける。

「当たらない自信があるから言えるのだろう!?」

「その通りだぁ!」



「ジェットウインチは射程外、パイルブレイカーも射程外、ドリルビットは速さが足りん……思いもよらぬところで射程の穴が出たか。こんなところで武器召喚の技術を晒す訳にもいかないし、せめてあれが完成していれば……」

 上空のアロンソを見据え、順が舌打ちをする。

「おぉ? 遠距離魔法くらい持ってるだろうにどうした? 爆裂光槍あんだろ、あれがよ!」

「……お前相手には弾速が足りない事くらい分かっている、避け方のコツも知っているしな」

 遥か下から順が不満げに呻き、それから足に力を入れる。

「その鎧は重そうだからな、流石にこっちまではこれないだろうよ。それに……こっちはこっちで遠距離武器もあるしなぁ! 飛べや斬撃! 《空斬波》ッ!」

 アロンソは見栄を切ると、槍を空中で薙いで放射状の魔力の塊を飛ばす。

「フン! そんな物など!」

 順はそれを避けるが、避けた地面には大きな斬り跡が残った。

 『ソニックブームの一種と断定』

 篝火が分析し、瞬時に須賀谷に伝えた。

「……だが、順はどうするつもりなんだ。このままアウトレンジで粘られたらきついぞ?」

 須賀谷は順が攻撃を避けたことに安心しつつも、アロンソの技量に唸る。

 観戦していてわかる、彼はヒオウに来たら余裕で特進Aの生徒だ。

「彼女も考えていますよ、アウトレンジ対策はね」

 篝火が返事をするのとほぼ同時に、順が一目散にアロンソ目掛け地を蹴り飛び上がった。

「装甲強度は問題ない……仕留める……!」

「真正面から突っ込んでくる気かよ! 空中制御も聞かない状態で!」

 アロンソは口元に笑みを浮かべ、狙いを定めて斬撃を飛ばす。

 その斬撃が今にも順に当たるかといった時、順が不敵に笑った。

「考えなしに私が突っ込むと思うか!? 生憎だが私は、魔法障壁を生成できる。だから……こういった芸当が出来る!」

 順はそのまま言い終えると同時に、空中に半透明の壁を生成し瞬時にそれを蹴って跳躍の軌道を変えた。

「三角飛びだと!? そんな非常識な!?」

「違うな、五角飛びだ!」

 アロンソが驚くのもつかの間、さらに順はフェイントも含めて多数の壁を身の回りに生成し、それらを踏み台にして接近し右正拳でアロンソを捉える。

「そんな馬鹿な!?」

「落ちろぉッ!」

「ごふっ!? ……おぇっふ! っぐはっ!」

 アロンソは避けようとするが、フック気味に入れた一撃が腹に入った。

「っつー……。畜生……やりやがったな……!」

 アロンソは慣性で吹っ飛びながらも苦しげな顔をしつつも失速し、フィールドに着地する。

 一方の順もズシンと重い足音を立てながら、体勢を崩し気味に着地した。

「ぐっ……一瞬呼吸が止まっちまったぜ。咄嗟に防御してなければ墜落するところだった……まぁさか、あんな方法で喰らいついてくるとはな……! 流石……だといっておくぜ」

 アロンソは軽く息切れしつつも、肩で呼吸してくる。

 その顔には、冷や汗が浮かんでいるのが見え見えだ。

「地に足がついていなかったとはいえあのパンチを受けて立ち直るとは……お前こそ大したタフネスだよ」

 一方の順もアーマー展開中に魔法を使ったためか、少し疲労の色が見える。

「しかしあそこまで順、お前がくるとは思ってなかった。制空権を完全にとって安心していたが……そういう訳にはいかんらしい」

 言いながらアロンソは、右手を地面に付ける。

「……何をするつもりだ?」

「前の試合を見てりゃ分かるだろ? プライドが邪魔するが、このままじゃ勝てないから俺も使わせて貰うぜ……《ride》!」

 アロンソがそう叫ぶと、スコーピオンとはまた別の機械が地面から浮き出てきて、召喚させられた。

 オープンタイプの機体であり二脚ではあるがスコーピオンよりはやや細身で、シャープな印象を受ける。

 須賀谷の位置から見れば背部には、噴射口のようなものと鳥のような翼が付いていた。

「その体格で空を飛ぶのか!?」

 順が予想外のものを見たという様子で驚く。

「ご名答だ! ティソーナ稼働……行くぜ! さらなる速さを見せてやる!」

 するとアロンソは至極当然だという顔をして、マシンを浮かせつつ手元のレバーを引いた。

「吹っ飛ばしてやるぜ!《ケライノウィング》!」


レバーを引いた瞬間、ティソーナというマシンのウィングが展開し、肩から砲塔が出現する。

「射撃兵装?」

「覚悟しろや!」

 順が疑問を口にした瞬間、ティソーナの砲塔から赤黒い光が放射された。

「《雷帝の加護!》 《プロテクションハードスティール!》」

 咄嗟に身を守る順だが、大火力の光にアーマーの表面がすぐに白熱していく。

「あれは何だ? 篝火!」

「分析中。まだわかりません」

「っく……!」

 そして放射が終わった時には、辛うじて攻撃を防いだものの相当な反動を受けてしまった順がいた。

「緊急冷却システムが作動していなければ今ので危なかった……アロンソめ、やってくれる」

「こちらからすりゃマシンの兵装をフルパワーでぶっぱして倒れないそっちの方が異常なんだよ、何なんだよ今の攻撃を受けて立っていられるってよ、人間の体力を越えてるぜ。おかげでマシンの砲身が焼けちまって二射ができねぇ」


「フン、それは好都合だ。ならば私が、決めてやる……」

 するとアロンソの言葉を聞くや否や順が走り出し、ティソーナの脚部に向けてワイヤーを射出する。

「てめぇ、まさかさっきの試合みたいに俺を引き摺り下ろす気か!?」

 アロンソは慌てて上にマシンを飛び上がらせるが、順はそのような事など効かないかのような顔をして凧揚げかのようにじりじりと離陸しようとするティソーナをワイヤーで巻き取る。

「そんな真似はしないさ。……ただ、私にもやるべき仕事はあると、そう思ったのでな!」

 順は口元に笑みを浮かべると右腕を振りかぶり、

「片翼をもがせてもらう……《パイルブレイカー!》」

 飛び上がったまま、ティソーナの腕ごと片方の翼を粉砕したーー。


「ーー順!」

 だが。順は、見誤っていた。

 ティソーナの……さらなる武装、そしてアロンソの底力を。

「ここまでやるとはすげぇよ……でもなぁ、勝ち星はやらねぇぜ! 《サイクロン・ホイールッ!》」

「そんな、まだ、内臓火器がーー?」

「ぶっ飛びやがれぇぇぇぇッ!」

 次の瞬間、ティソーナの胸部から竜巻が発生し、隙を作ってしまった順を上空へと吹き飛ばしたーー。



「場外! アロンソ選手の、勝ちです!」

 仰向けに倒れた順が次に聞いたのは、その言葉だったーー。


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