第三章 capter-2 「クイック・ライダー」(2)
「ふふふ……どうです? 薮崎さん」
「確かにこれは一本取られましたね……見事なお手前で」
観客席。そこで二人とも隣になりつつ、火迎と薮崎が会話をしている。
主に試合内容についてではあるが、薮崎にとっては情報集めも兼ねてのことであった。
「ーーそれにしてもあれだけの兵器を複数用意するとは、流石ですな。朝霞には相当金が余ってるとみますが……」
「いえいえ、現在ロールアウトしたのはうちではスコーピオンとティソーナの二機だけです。でもそちらこそ、あの群雲という御嬢さんはやるじゃないですか。正直あのマシンはうちの生徒じゃ模擬戦をやっても5人がかりでも止められませんよ? 性格的に油断する天月院ちゃんはともかく、アロンソ君相手にあそこまでダメージを与える時点で、相当に強いです」
「そう言ってくれると嬉しいですね。……では嬉しいついでにあのケライノウィングというのは……どういう仕組みなので?」
「教えてほしいですか? ふふっ」
「ええ」
そう言ってからちょっとの間が開き、火迎は
「企業機密ですっ」
と笑って誤魔化した。
「やはりそう来ますか。ではまぁ予想としてあの砲塔を展開するときに背後に出来たブースター、あれは衝撃相殺用ですよねぇ。しかしあの赤黒いオーラは本当、魔石エンジンのものじゃないですかね?」
薮崎はここで小声になり、耳打ちをする。
「……この情報は口止めされてないので言っておきますが……その通りです。リーブラ鋼ととある純度4の魔石の混合物ですよ。あの出力はそれだけの賜物です」
「道理で……幾らあのアロンソ君が強かろうとそれまで押されていたのにもかかわらずあそこまでの逆転劇はそうでもなければ出来ないでしょうからね」
「ふふ、でも魔石エンジンはそちらでは実用化はされてないでしょう?」
自慢のつもりか……。
「……ま、そうですがね」
薮崎は少々ふて腐れながらも、そう返事をした。
--データさえ取れば近いうちにマルクカ博士が作ってくれると、そう願いつつ。
(ーーしかし、周りの学生からの報告もない)
薮崎は少し風向きに苛立ちながらもそれを隠し、ベンチ側にいる須賀谷に目を向ける。
その須賀谷は少し……震えていた。
ーー勝てない。 絶対に勝てるわけがない。 無理だ、無理。俺がどう足掻こうとあれ相手には、無理だ。
須賀谷は愕然としつつも、膝を落としていた。
実際順がやられるような相手には、俺が勝てるわけもない。
「……行かないのですか?」
横から篝火が、声をかけてくる。
「無茶を言うなよ。……あの順が、やられたんだぞ!? むざむざ恥を晒しに行かせる気か!」
「実際彼女は油断をしただけです。吹き飛ばされていたから試合では負けでしょうが、実戦なら彼女は立ち上がってまだ戦いに行ったでしょう。ケイラウトアーマーが強制解除されてないという事は、彼女にはまだまだ戦う力があったという事を示します」
反論をするが、上からとめられる。
「でもよ、俺の力と装備でどう戦えってんだ? 素のステータスでさえこれだけの差があるというのに、多少ダメージを負ったとはいえ向こうにはあのマシンがある。俺の方で使えるのはタマチルツルギと対ビームマント、それに炎の紋章のリングくらいなもんだ、戦力差があるにも程があるだろ!」
「……私は貴方の、セコンドですよ?」
「……何が言いたい、篝火」
「状況分析をしつつ、私もプログラムを組んでいたという事ですよ。ギリギリで間に合いました」
そう篝火は言いつつも、ポケットから筒状の小さな機械を取り出して自らのおでこに少しかざす。
「……何だそれは?」
「USBメモリですよ。私が先程から脳内で構築していた弾道制御プログラムです」
「……何の弾道制御だ?」
「ここまで言って分かりませんか? 先程から言ってたじゃないですか、順さんがあれさえ完成していれば、って。この状況を、打開するための道具です」
篝火からはどういうつもりで言ってるのかはわからないが、態度的には得意そうにも、聞こえる。
「それは……何なんだ?」
「魔法装具……タキオンマグナムの射撃プログラムを内蔵したメモリです。使用者の魔力により火薬代わりにタキオンを周辺の空間から採取し、その加速で銃口から強力な実弾を射出します。……その威力はAPFSDS、異界の少年の足を吹き飛ばしたあれにすら匹敵します。私はそれを、須賀谷、士亜。二日かけて貴方と順さん向けに調整していました」
「何をさせるつもりだ?」
「それを使って、アロンソさんに勝つ。それこそ素晴らしいことですよ。勝てば郡から補助金も出るでしょう」
「だか、相手を捉えられなければ意味はないぞ」
そう会話をしている最中にも、メモリとやらを片手にしている篝火は、そのデータを打ち込みましたといい拳銃を取り出し、その底部に物理的に接続してデータを入れる。
「ーー何で、このタイミングで?」
「この学校とブレイズクレイドルが組んで何やら作っていたというのは我々生徒会でも周知していましたが……それの具体的性能は分かりませんでした。ですので、順さんにデータの収集も頼んでいたのですよ。アロンソさんのマシンの速さ……それを捉えられるレベルではなければ、少なくとも異界の人間には勝てない。人間同士の中で抜きんでなければ本来想定した敵には勝てないと、私の頭脳も弾きだしています」
「だが、俺は銃など使えないぞ」
「マシン目掛けて引き金を引くだけです。弾頭は換装して人の魔力で消滅する特殊な対金属弾にしているので、人に当てる事はまずありえません。それを、使うのです」
そのまま出来上がった銃を、押しつけてくる。
「素で使えるのは6発。予備弾のケースはこれです。因みに一発につき3000エルカタルなので乱射はやめてくださいね」
「……騎士が拳銃だなんて、格好がつかないぞ?」
「ならば貴方が格好いい騎士の第一人者になればいいんですよ。需要は作り出すものって、そう言うのが商売の文句なんですよ」
優しい目で、言い含められる。
「……それに、イフットさんの為にも、貴方が勝つところを見せてあげてください。これは、チャンスです」
「……分かったよ、篝火。……いいだろう、やってやる。だが、ちょっと今のままじゃ魔力が出せそうにもない。足が震えてな。一発でいい、頬を張ってくれ」
「了解です。歯を折らない程度にやりますよ」
ーーパァン!
言葉が終わると同時に、篝火のビンタが須賀谷の頬に入る。
「ありがとう。戦う気が出たぜ、こん畜生!」
須賀谷は自分の足の震えが止まったのを自覚すると、篝火から出来上がったタキオンマグナムを受け取り、試合フィールドに入場する……。
「ーーアロンソさんの弱点は方向転換時に身体を倒すことです。そこを見切ればいけます、頑張って、下さいね」
背後からそう言葉が聞こえたが、須賀谷は痛みで返事をし損ねた……。
「無暗に煽るような事は好きじゃねぇが……大丈夫か? あんた。何なら名誉ある負けにしてやってもいいんだぜ?」
フィールドに入るなりマシンの上で待機しているアロンソが、降伏を勧めてくる。
「お心遣いはありがたいですがね。生憎ですが俺は、そういう取引に応じる人間じゃ無いんですよ。『姑息な取引での名誉ある負けというのは尚の事不名誉である』って、学則にもあるのでね」
須賀谷は言葉を跳ね除け、断言してみせる。
意地になっている訳じゃない。相手の方が明らかに上手だというのは分かる。でも、それでも諦めるわけにはいかないんだ。
「成程、順が見込んだだけの事はあるかい。男だな」
「無謀で無鉄砲と言ってほしいところですがね。さぁ、早くこちらを潰しにくりゃいいじゃないですか」
「ヘッ、言ってくれらぁ。それなら俺も……やっちまうぞ?」
アロンソは一笑すると、片腕が破損したままのティソーナの指をこちらに向け、指差して見せた。
「巨大機械と戦うってのも一度してみたかったんですよ。ペーパーゴーレムよりは遥かに強そうですがね……」
須賀谷は額に仄かに汗を流しつつも、隙を伺う。マシンが片腕を破損しているとはいえど、奴は素早い。
意図的に隙を作ってそこを突いてきたところを……やるしかないか。
「さぁきやがれ! 戦いを楽しもうぜ!」
「……やってやるさ!」
タキオンマグナムを構えてみせる。
そして一直線に走りだすと、いきなり繰り出されてきたアロンソの一撃を身軽に避けてみせた……。




