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39、反逆

 コインを入れて、ボタンを押す。

 ピ、という短い電子音と共に、自販機からガコンと缶が落ちてくる。

 少女はそれを暫く取らずに、ボタンを押したままの姿勢で止まっていた。

 この病院に通い始めてから、もう何日が過ぎたのだろうか。

 それはまだ一週間にすら及ばない日数であったが、少女にとってはその1日1日がとても長く感じた。とても長く、そして全ての色が失われたような、まるで心が死んでしまったような日々を過ごしていた。

 やがて少女は、ゆっくりとした動作で缶を拾って、病室に向かって歩き出した。

 普段なら緑茶や紅茶だが、ここに通うようになってからはコーンスープである。別に寒いからコーンスープで暖まりたいとか、そういった理由ではない。

 食事が喉を通らないのだ。

 朝、昼、夕と、3食ともほとんど食べれず、それを知った親友がせめてこれを飲めとコーンスープを買ってきてくれたのが始まりだった。それ以降、やはり食事はほとんどとれないため、このコーンスープが1缶が少女の1日分のエネルギーを支えていた。

 病院の待合室に座って、プルタブを起こして、喉に流し込む。味などほとんど分からなかったが、今は少しでもエネルギーを補給できればそれで良かった。

 会長不在となった生徒会を支えるためには、本来はもっとたくさんのエネルギーが必要なのだろうが、少女にとってこれが今の最大限であった。

 顔見知りとなった看護師が心配そうに話しかけてくる。始め少女は、入院する生徒会長の妹だと思われていたようだが、今ではすっかり彼女扱いだった。

 内心では、違うのに、と思っていた少女であったが、特に誤解も解かないまま今にいたっていた。いや、始めのほうは、聞かれる事に「ただの後輩です」と答えていたのだが、少女の必死な様子からか気がつけば彼女と言うことになっていた。

 じきに目覚めるはずだから、がんばってね。と少女を励まして去っていく看護師。

 少女はそれを見送った後に、空になった缶をゴミ箱へ入れて、生徒会長の眠る病室へ向かった。

 コンコン。

 と2回のノック。

 礼儀として暫く待ってみるが、当然返事はない……。

 ため息を1つ着いて、少女は扉を開いた。

「失礼します会長さん。入り——」

 誰も見ていない。しかし律儀にもペコリと頭を下げた少女であったが、顔を上げてベッドを見た瞬間に言葉が止まった。

「会長さん……」

 口から思わず声が漏れた。

 この数日、少女が何度訪れてみても変化がなかった風景が、今初めて崩れた。

 会長にかけられていた布団は乱れて、そして誰かが上半身だけを持ち上げたように、上側だけが折れていた。

「…………」

 だというのに肝心な中身がない。

 頬に冷たい風を感じて、もぬけの殻となったベッドから視線を移動させると、そこではカーテンがひらひらと舞っていた。

「…………」

 何が起こったのか、少女は頭の中で整理する。

「——逃げやがりましたね……」

 少女は外出用のコートを掴んで、開け放たれた窓に向かって走り出す。

 気がつけば少女の口元へ笑みが浮かんでいた。

 この病室は何階だろう?

「そんなこと関係ありません!」

 何もおそれる事がないと、少女は闇へ身を踊らせた。

 以前、生徒会長と初めてであったとき——もっとも、そのときは生徒会長ではなかった——少女は崖から飛び降りて学園を目指すという過激な体験をした。それにこれくらい出来ず、生徒会長の隣を歩けるはずがない。そして今まで隣を歩いてきた自分が、こんなことが出来ない筈はなかった。

「後悔してください! 会長さん。貴方が育てた部下は優秀ですから。直ぐに追いついてベッドに叩き戻してやります!」

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