28、論理武装
去年の冬の事だった。
「先輩、会長さん! 雪です! 雪ですよー! 今日は仕事なんか休みで遊びにいきませんか!」
生徒会の扉を力いっぱいに押し開けて少女は言った。その顔は満面の笑みで、さらに両手には親指以外が分かれていないふわふわの手袋をつけて、首には白いマフラーを巻いている。
いつでも出撃可能、そんな格好だった。
「あ、あれれ? 先輩お一人ですか? 会長さんはどこへ?」
「講義が終わると共に、教室から消えた……」
クラス全体を巻き込んで、雪合戦大会に行ったのである。仕事があるからと、会長を止めたのだが、学園を盛り上げるために、クラスに時間を分けるのもまた生徒会長の義務なのだと返してきた。
理解出来ない論理ではあるが、こうなった会長は止まらないだろう。弾丸のように、狙いが外れたと分かっても、ひたすら走り続けていくのだ。
勝手にしろと告げ、一人生徒開室へやってきたのである。
「あぁーなるほど……。先輩も大変だったんですね」
すべてを理解したように、少女はうなずいた。
「でも先輩はいいんですか?」
「……何がだ?」
「いえ、せっかくの雪なんですよ? ほら。もっとこう、会長さんと一緒にぱーっと、たまには羽を広げて見るものいいと思いますよ?」
脳裏に会長の、子供のような無邪気な笑顔が浮かんだ。
「……不要だな」
「そうですか? でも会長さんだけ遊んでるなんて卑怯です! ということで私と一緒に“かまくら”でもつくりましょうよー!」
少女はよってきて、むぎゅ、と袖を引っ張ってきた。
“かまくら”とは、雪を集めてそこに穴を開けて人が内部に入れるようにしたものだ。内部は暖かく、遭難した際には良く作られるものらしい。
「“かまくら”よりも生徒会室の方が防寒にはいいだろう。古い型とはいえ、ここには暖房がある」
四角にそろえられた長机の中央に目をむけると、アルミの暖房がジジジと音を鳴らしている。
「暖房って。先輩は“かまくら”に何を求めてるのですか?」
呆れた視線で少女に見られた。
「寒さを凌ぐ。それ以外の理由でなぜ“かまくら”を作る必要がある?」
「え? えっと。えーっと。むしろそんな理由で“かまくら”を作るといった先輩に少し驚きました」
困ったように笑う少女。雪が積もっているという普段より悪い環境の中で、“かまくら”制作へ多大な労働を裂くことに、防寒以外どのような理由があるというのだろうか。
「そんな先輩には、“かまくら”を作る本当の理由を教える必要がありそうですね!」
少女は得意げな表情で告げ、そして袖を引っ張る力を強めた。
「ですから、行きませんか? 一緒に外へ」
どのような理由で“かまくら”を作るのか。僅かながら興味が出た。しかし仕事が圧していることは間違いない。
「……だが明日になれば雪も溶ける……か」
仕事は明日やれば間に合う。だとすれば、少女に付き合ってみるのもまた何かの発見があるかもしれない。
書類を閉じて立ち上がる。それから背もたれにかけてあった黒いコートを羽織い、袖を通した。
「行くぞ」
肩越しに少女を見て、部屋を後にした。




