22、空元気
頭上で太陽が煌めく。
しかし暑さは一切感じず、逆に僅かながら肌寒さを感じた。
長かった夏は終わり、季節は冬へと移り変わろうとしている。校庭を囲むように植えられた樹木達は、長く付き合ってきた葉達を哀愁のある赤に染めている。
「事務所のテント起こすぜ! 後2人来てくれ!」
パイプを組み合わせて作った、しかしまだ制作途中のテントの前にしゃがみ声を上げた。テントは三角柱を横に倒したような屋根をもっており、概ね完成している。しかし今はまだ、地面の上に屋根が置いてあるだけで、これから屋根を持ち上げて各々柱を地面に打ち付ける必要があった。
「寒い……。寒いです。なんでわざわざこんな日に体育祭の準備なんてしてるんですかぁー……。うー、ヘルプに来ましたよ……って力仕事ですか? 私には向いてないかもしれないですね」
文句を言って登場した少女を、鼻で笑う。
「テメェの力なんざ鼻から当てにしてねぇぜ! 屋根は俺が支える。テメェ等はその間に4住の柱を立てロックしろ!」
「あぁーそいういう事ですか。了解です。それじゃぁ、私達女の子は巻き込まれないように少し離れますね。力ある男の子の諸君! 流石に会長さんだけではきついと思うので、屋根を上げるの手伝ってください。せーの、で持ち上げますよ!」
少女が声をかけると、テントの周りにいた女子達は少し距離を取り、男子達は屋根に手をかける。
「行くぜ! せーの!!」
数の力だろう。あまり力を入れていないのに、屋根は簡単に持ち上がった。女子達はその間に屋根の下に入り込み、畳み込まれていたテントの柱を次々の延ばしてロックをしていく。
「いち。にー。さん——」
男子が持ち上げている中、少女は柱を数えながらしっかりとロックが出来ているのかを確認している。
「はい! OKです。逞しい男の子のみなさん! 屋根を降ろして大丈夫ですよ! ご苦労様でした」
肺に溜まっていた空気を吐き出すと、周りの男子と同様に屋根から手を離した。
「おっしゃ! よくやったぜ! 次は机だ! この中に机を運んでくれ! 危ねぇから2人で1つずつ運べよ!」
生徒会長として命令すると、皆は爽快な返事をして、ばたばたと机が積んである倉庫へ走っていった。
「ふぅ……おいそこのガキ」
「はい? 私ですか?」
先ほどヘルプに駆けつけた生徒会役員の少女を呼び止める。彼女は彼女で忙しいらしく、机が来たらその上におく備品の調達命令を出しているところだった。
「このテントを任せていいか? 俺はちっと向こうの様子見てくるぜ」
「向こう? あぁ、来賓スペースのほうですね。了解しました!」
一瞬頭をひねった少女は、男の指さした方角を見て納得したように頷いた。
「いってらっしゃいませ! サボらず頑張ってくださいね」
「おう! 任せとけって!」
笑顔で答えると、少女は何かいぶかしげな顔をした。
「何だよ。どうかしたか?」
「え? いえいえ。何でもないですよ。ただ少しだけ……そうですね。素直と言いますか、普段の会長さんなら、文句の一つくらい言うような気がしたんですが……。まぁいいです。それでは行ってらっしゃいませ! こちらはお任せください! ……って待って下さい! その机じゃないですよー!!」
倉庫の方をチラリと見た少女は、大慌てで走っていった。
「…………なかなかに鋭いじゃねぇか。いや、やっぱり俺は演技が向いていねぇのかな」
その背中を見送った後、フラフラと体を揺らしながら来賓スペースへ向かった。
「おう! テメェ等! 順調か?」
来賓スペースに着くと、そこのセッティングをしていた学生達に向かって、力の限り明るく、爽やかに声をかけた。
生徒達は驚いた後に、会長はいつも元気が良いとか、うるさいとか、口々に言っている。そんな生徒達に笑顔を向けながら、セッティングの指示を出していった。
数日前に体調不良を感づかれ、友人に多大な苦労を強いさせてしまった。
だから演技でも良い。絶対に弱っている姿など、他人に晒してはいけない。
見上げた空が、急に暗くなった。
ズン、と何かが倒れた音がする。
体から熱が引き、指先から冷たくなっていくのを感じる。
途端に周囲が騒がしくなった。
しかし何が起きたのか、視界は暗く、何も見えない。
「副会長。竹刀なんか持って、何をしてるんですか?」
「馬鹿を止めに来た」
男女の話し声が聞こえる。
「なるほど……しかし頭なんか殴ったら、もっと馬鹿になると思いますよ」
「気にするな。これ以上馬鹿になることはない。それより、少しここを任せていいか? 俺はこいつを生徒会室に捨ててくる」
「生徒会でない者にまかせて不安でなければ任されます」
思い出したように後頭部に鈍痛が走り、意識はそこで途切れた。




