表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽りの婚約破棄令嬢は恋を胸に、遠き蒼穹の彼方へ  作者: ニセ@梶原康弘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/31

第11話 未知の敵

 夜明け前だというのに、セント・ラースロー第三飛行隊の飛行場は活気づいていた。


 エンジンのけたたましい音が幾つも唸り、殺気立った整備兵が格納庫を慌ただしく行き交っている。


 指揮所の前にはふてぶてしい面構えの男達が勢揃いしていた。飛行服を着ていなければ犯罪者の一団と間違われかねなかった。これから出撃だと言うのにスキットルから酒をチビチビ舐めている輩までいる。


 だが、彼等こそセント・ラースローで精鋭無比を誇る空軍パイロット達だった。



「みな揃ったか」


「……ッス」



 統率する部隊長ガルダ大尉も、悪の親玉然としたヒゲづらの巨漢だった。


 部下たちを見回すと「今日、手合わせするのはちょっと面白い奴だぞ」とニヤリと笑い、事情を伝え始める。



「昨日、帝国首都ペストブルダでルーベンスデルファーとかいう奴が水宝玉を強奪した」



 それが俺達に何の関係がある? と、パイロット達は怪訝そうな顔を見合わせた。



「そいつは、ついでにランスロット皇子の婚約者ロゼリア姫を強奪した」



 ほぅ、と声があがる。何人かが「ずいぶん豪胆なことをする奴がいたもんだ」と、感心したようにうなずいた。


 しかし、まだ続きがあった。



「そいつは、ついでに空軍の最新鋭戦闘機も強奪した」



 今度はその場の全員がオオーーッ! と、どよめいた。「なんでも欲しがり野郎かよ、最高だぜ!」と称賛する輩までいる。ガルダは仕上げとばかりに付け加えた。



「……で、そいつは今、まっすぐこちらへ向かって来ている」



 歓声に加えて拍手が起き、口笛が吹かれる。

 こんな大胆不敵な奴こそオレ達の相手にふさわしい! と、彼等は自分たちの任務に納得したばかりか胸を躍らせた。



「ちなみに首都防空の近衛飛行隊が追ったが、逃げられたそうだ」


「へっ、近衛が聞いてあきれるぜ」


「しょせんは軍事パレードの展覧飛行くらいしか出来ねえエリート共よ」



 パイロット達は顔を歪めて嘲けた。ろくに実戦を知らない近衛部隊を、彼等は何かにつけて見下している。部隊長のガルダ大尉も肩をすくめて苦笑した。



「まぁ、そういう訳で俺たちの出番という訳だ」


「了解!」



 全員が唱和し、部隊長は指揮所の壁に掛けられた大きな地図の一角を「今から離陸して南西に向かい、網を張る。ここだ」と、長い棒で指し示した。



「でも大尉」



 さすがにパイロットの一人が「攫われた御令嬢は皇子の婚約者で、人質として乗せられてんじゃないスか。墜としていいんですかい?」と、心配顔になった。



「気にすんな。『元』婚約者だ。皇子さまには既に巨乳の新しい婚約者がいてイチャイチャしとるんだとさ」


「なんと。皇子さまはそっちに撃墜されてたか!」



 パイロットの一人がおどけて叫ぶと、その場の全員が爆笑した。



「婚約を破棄した御令嬢に今さら未練が湧いたんだろう、『生かして連れ返れ』なんてふざけたことを言われたが知ったことか。気にするな」


「ハハハ、大尉の云う通りだ」


「撃墜した奴には……そうだな、オレからとっておきの地酒を一杯奢ってやろう」



 この荒くれた連中は別名「ドラゴンスラッシャーズ(屠龍)」飛行隊と呼ばれている。諸外国の空軍と国境での小競り合いはもちろん、小型ながらも龍と戦って撃墜した戦歴すら持つ強者たち。彼等は「空では誰にも負けない」と自負している。


 彼等を頼もしそうに見やったガルダ大尉が時計に目をやり「よし」と、右手を上げた。



「全員搭乗!」



 全員が駆け出し、それぞれの愛機へと向かう。彼等が乗り込んだのは、表面を硬化させた布張りの翼に馬力を強化したエンジンの複葉機。セント・ラースロー帝国空軍で配備が始まったばかりの高速戦闘機「ガレッカⅣ」である。


 搭乗したパイロット達の顔に凄みのある笑顔が浮かんだ。



(どんな相手だろうが必ず落としてやる)



 指揮所前で旗が振られると、機体番号の若い順から彼等は次々と飛び立ちはじめた。


 「ドラゴンスラッシャーズ」飛行隊は編隊長のガルダ大尉を入れて十二人、つまり十二機である。彼等は六機づつ二つのグループに分かれ、高度を取った。


 ガルダが通信機から各機へ作戦を伝える。



「強奪された機はかなり高速だそうだ。だから以前『龍』を狩った時と同じ手を使おう」


「Aグループが真正面から撃ち合い、被弾するか上か下へ逃げたところを上空に待機していたBグループが急降下して仕留めるってアレですかい?」


「ああ、それが確実だからな。Aグループは俺が仕切る。Bグループはレナート中尉が指揮を執れ」


「了解」



 薄暗い夜空が次第にバーミリオンに明けてゆく美しさに気づいて、ガルダが思わず目を細めたとき……



「大尉、見えました!」



 高度を高くとって襲い掛かる役目のB編隊から上ずった声で報告が入る。



「来たか!」


「来たけど……おいおいおい、なんだありゃ! 龍より速ェェぞ! 」


「なに?」



 目を凝らすと彼方から銀色の小さな機体がぐんぐんと近づいてくるのが見えてきた。



「……大尉、強奪されたのは我が軍の最新鋭戦闘機って言いましたよね」


「ああ、総司令部の参謀がそう言ってたが……」


「……真っ赤な嘘だ。コイツ、この世界の飛行機じゃねぇぞ!」



 まさかと言う前に、件の戦闘機もこちらに気が付いたらしく、大きく翼を翻して左に旋回始めた。明らかに「ドラゴンスラッシャーズ」飛行隊をいなして逃げようとしている。


 そして、その姿を見たときガルダも目を丸くした。



「なんだ、アイツは……」



 複葉機ではなかった。

 翼が一枚の「単翼機」だった。左右の翼にそれぞれエンジンが付いており、機体のデザインは明らかにこの世界の飛行機よりずっと洗練されている。翼に描かれているのは白い縁取りの黒十字。今まで見たことのない国籍マークだった。


 とにかくスピードが段違いに違う。



「いかん、このままだと奴に逃げられるぞ! 全機、右旋回!」



 ガルダ大尉に続いてA編隊は慌てて旋回し、敵機に追いすがったものの……見る見るうちに引き離されてゆく。



「嘘だろ。こっちはセント・ラースロー帝国の最速なんだぞ……」



 信じられない思いだった。



「くそ、逃げられてたまるか!」


「散開! 編隊を崩していいから全速で追え!」



 だが、意地になった彼等がエンジンも灼けろばかりに戦闘機のスロットルを最大に開けたとき……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ