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血塗れ湖畔が嗤う ~25 HOURS ― 30人の生き残りを懸けた地獄のサバイバル~  作者: 霧原零時(orすっとぼけん太)
第6話 信長の鬼伝説と信玄死の謎

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【2】 封印の間、それぞれの思惑

内箱を採集室の穴へと静かに下ろし終えた後も、

やるべき仕事は残っていた。


右手にそびえる二基のクレーン――

いまも巨大な石蓋を垂直に支えているその鉄の巨体に、

龍信と源次、彗と翔太の四人が再び集まり、

念入りな補強作業に取りかかっていた。


「しっかし……でけぇッスね、これ」

翔太がワイヤーを締めながら頭上を見上げる。

夜風に当たる石蓋は、昼間とは違った冷たい輪郭を見せていた。


「縦が二十メートル、横が十二か……」

彗が目を細め、呆れた声をこぼす。


「体育館の床ごと、丸ごとひっくり返したみてぇだな」

源次は苦笑を漏らして、汚れたグローブを外した。


「しかも一枚岩だ。……どんだけの重量よ」

龍信が唸るように言う。


「そりゃ、地鳴りもするわけっスよ……」

翔太が再び見上げ、声が小さくなる。


四人は、それぞれ持ち場のワイヤーや補強具を入念に点検し、

僅かな揺れも封じるように石蓋を巨大クレーンへと固定していく。

夜の気配が現場を薄く包む中、金属と皮の擦れる音だけが冷たく響いた。


「……よし。これで倒れてくる心配はねぇな」

龍信が最後に声をかけると、皆、無言で頷いた。


夕闇が湖畔を覆い始め、冷気が作業着の隙間をかすめる。


「今夜のビールは、うまいっスよね」

「俺、スーパーで、焼き鳥買ってくるっスよ」

彗と翔太が振り返ってにやり。


「ダメだ! まだ、始まったばかりだろ」

源次が即座に制す。


「全部終わったら、俺のおごりだ」

龍信が苦笑を含ませて続ける。


「うほーい!」

若い二人の声が、静まりかけた湖畔にぽつんと響いた。


工具を手早くまとめ、四人は肩を並べてプレハブ宿舎の方へと歩き出した。

その背後には、源次の背丈の倍ほどの高さの“巨岩の箱”が、ぽっかりと口を開けている。

その重厚な存在感だけを残して、夜の現場に佇んでいた。


──採集室のなかは、不思議な静けさに満ちていた。


広い空間に、まるで長く封じられてきた祭壇のような空気が漂う。

石箱は、正確に掘り抜かれた四角い穴にぴたりとはめ込まれている。

だが、巨大な外箱の蓋に開いた円孔から覗いていた、この内箱の蓋。

この蓋だけは、まるで別の意図があるかのように、石質が異なっていた。

灰色がかった脆い岩質で、ドリルが容易に通る材質だった。


「箱は硬質な岩盤なのに、蓋だけが……」

鎖を取り付けながら、林がぼそりと呟いた。


「なにか意図があるのか……?」

蓋の四隅に取り付けた鉄鎖が、天井の定置ウインチへと繋がれていく。


「準備、完了です」

林の短い合図に、部屋の隅に立つ東峰が頷いた。

例の“つるちょびん”発言で騒がせた部長である。

東峰は無言で制御盤のスイッチを押す。


天井奥で、定置型ウインチのモーターが低く唸り、たるんでいた鎖が巻き取られていく。音は小さいが確実だ。

四方から鎖が張られ、やがて石蓋が水平を保ったまま、ゆっくりと、しかし確実に持ち上がりはじめた。


五百年間、諏訪湖の底で沈黙を守り続けてきた“パンドラの扉”が、いま──静かに、その封を解かれようとしている。



石箱の据え付け後、この採集室への出入りは厳重に制限された。

賀寿蓮組の龍信や源次でさえ、もはやこの中に入ることは許されない。

ここで起こることは企業の最上位機密、トップシークレットなのだ。


多忙な水篠会長は、形式的な挨拶を済ませると社用ヘリで本社へ帰還した。

箱の中から“何か”が見つかった場合、東峰がすぐ会長へ報告し、会長は現地へ駆けつける段取りになっている。

先に東京に戻ったチャンネル9の一条常務も、それは同様であった。


その、“何か”とは──。

もちろん、スポンサー側が望むのはわかりやすい「価値」だ。

金銀、武田家伝来の秘宝、あるいは観光資源となる逸品。

だが、ここに集まった専門家たちの視線は別の価値を探していた。


安全確保のため、長野県警からは現職の警察官二名が派遣され、夜通しの警備が敷かれていた。


カメラマンの麟太郎は、邪魔にならないように部屋の隅へ下がり、淡々と――しかし確かな手つきで、その一部始終をカメラに収めていた。

他局は締め出され、メインスポンサーのチャンネル9だけに与えられた特権的な撮影だ。


レポーターの碧は、そんな麟太郎から少し離れた場所に立ち、窓越しに外の湖畔を眺めていた。

陽はすでに落ち、諏訪湖の向こうには、深い闇が静かに広がりはじめている。


一方、麟太郎の前では――古代生物学者の田辺博士と、その助手である丹波と日向の三人が、身じろぎもせず、固唾を飲んで石蓋の開封を見守っていた。


彼らの関心は、金銀財宝などではない。

箱の中から現れるかもしれない、“古代の生物”――

あるいは、その死骸や骨の一片でもあれば、それを科学的に解明し、歴史の空白を埋める手がかりとすることが、彼らの役目であり、使命でもあった。


どんなに小さなものでも、絶対に見逃すまい――

そんな緊張が、博士らの眼差しにははっきりと宿っていた。


両者の異なる思い――

この“石箱”がもたらすものが、知(学者)かスポンサーか――

いま、この場で、その運命の封が切られようとしていた。


しかし、僅か数時間後――

この想定されていた期待も野心も、慎重な準備も、

すべて粉々に砕かれる事態が起こることなど、

この時はまだ、誰一人として、想像すらしていなかった。

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