番外編 皇帝陛下の嫉妬
允成、即位直後、貴妃として後宮にはいる明玉の側につける宦官を誰にするかという場面。
允成が机に両肘をつき、深いため息を吐いた。
「……やはりお前を明玉の傍につけるのが最も安心できるのだがな」
石鼠は静かに首を振った。
「陛下、拙者は陰に隠れて動くのが分相応。貴妃さまのお傍は、私には似つかわしゅうございません」
「では誰を置けと?」
声を荒げかけた允成に、石鼠は躊躇なく名を出した。
「――周守謙。軍事訓練の同期にございます」
允成の眉が跳ねた。
「……待て。不義密通で宮刑になったあの男か」
「冤罪にございます」
石鼠は平然と答える。
だが允成の視線は険しい。
明玉のあの、理性を試すような色香と、女顔の宦官。
火薬と火打石を並べるような組み合わせにしか思えなかった。
「……本当に大丈夫なのか?」
石鼠は一度、口元を引き結び、やがて淡い笑みを浮かべた。
「この男、たとえ女性を口説くことがあったとしても、関係を強いるような真似は決して致しません」
允成は机を叩いた。
「そういう問題ではない!」
石鼠はにやりと笑った。
「では陛下、一つお尋ねいたします。――鏡を御覧になったことは?」
「……あるに決まっているだろう」
「でしたら、ご心配は無用かと」
石鼠は深く頭を下げ、言葉を添えた。
「陛下。貴方様の御顔は龍顔ではなく、絶世の美貌そのもの。
この世に、貴妃さまの目を奪う者など……他にございますまい」
允成は一瞬、言葉を失い、頬に熱を感じて思わず顔を背けた。




