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ファンタジーな世界がファンタジーな成分だけで出来ているわけじゃあないことを実感し、ちょっと怖くなってきたところでマレフィン様が大きく息を吐いてこちらを見つめてきた。
「さて、話足りぬがここで長々と話し続けるわけにもいかんから、準備をしてきたぞ」
準備?
「あー…、モモはルイーゼに短時間しか定着していないだろう?」
「ああ、自分の世界と行ったり来たりしてますね」
「おそらくモモの祖母の中に、モモの母の中に、今はモモの中にルイーゼが居て、そちらの世界で一緒に生きてきたんだろうな」
私のなか…。
思わずお腹を見たものの、この体が自分のものじゃなかったなと気付き、今までの人生を振り返り考えてみたものの、何の違和感なく今まで生きてきたんですけど…。
「ルイーゼはそなたの世界でまだ寝とるだろうよ、何も考えずにな。」
困った子だよほんとに、とため息をつきながらも少し嬉しそうだ。
「それに今ルイーゼの魂までこっちに来たらモモの体はすぐ朽ちるだろうしな」
えーーーーーーーー!!!!
聞いてないんですけどーーー!?
そんな目にあってまでこっちの世界で絵描いていたいとか思いませんけどー!?
「まぁまぁ、何か言いたげだがその怒りは後に取っておけ」
声にならない声での抗議はマレフィン様には届いたようで何よりですが納得いかない。
「ヨハンも王都に戻っておるからな、殴るついでにその体質もどうにかしよう」
「え、ここ出ても大丈夫、なんですか…?」
「ああ、むしろここから出すために人生の半分以上研究に研究を重ねてたんだから…あとはやってみんと、なぁ?」
ニヤニヤと全身を観察される。
研究者怖ッ!いや違った魔女って怖ッ!
さして多くない荷造りをしてマレフィン様が指笛を吹けば、森の奥から大きな馬がごそっと出てきた。
…馬って500kgくらいだったような気がするんだけど…2トンはありますよ僕!っていうドヤ顔ですね。
3人くらい乗せても走りそう。
これはこの世界の馬の標準なのか、何かしらの術のせいなのか…。
庭に出て近寄ればゆっくりと頭を垂らして擦り寄ってきたので、色々複雑な思いはありつつも可愛らしい顔を眺めて頬を撫でていた。
「ちょっと!いいかげんしゃがみなさいよ、乗れないでしょうこの駄馬」
耳をピン!と後ろに向けて慌てて膝を折る馬。
…ん?マレフィン様しか来ていないと思ってけれど違うの?
と甲高い声の先を見ればいかにも魔女!というか美女!がいた。
これがほんとの美魔女!
「ほら、モモも前でも後ろでもいいから乗りなさい」
どうやらマレフィン様は美魔女だったらしい。
「いつもその姿でいればいいのに…!」
「嫌よ、疲れるのよ?術もそうだし、ちやほやされるのもとっくに飽きたわ。」
ああ、でもあなたも髪と目の色変えるわよ、親戚ってことにして連れてゆくから、と瞳の色は紫に、髪は黒に変えられた。
ええっ!どうなったのか見たーーーーい!!!
そんなことを馬上で訴えてもうちについてからになさい!と怒られた。
美女が駄馬と罵った馬は走れば走るほどスピードがノッてゆき、そんなしょーもない願望は馬を下りるころには忘れてた。
というか、老人のまま乗ったら命の危険がある走りだった。
だからその姿なんですね、マレフィン様。
そしてそもそも馬に乗りなれていない私にいたってはお尻はヒリヒリするし太腿はプルプルするし、腕も肩も腰も明日は筋肉痛が約束されているような張り具合だ。
でも森を一瞬で駆け抜け、水しぶきを上げながら川を走りぬけ、びっしょり冷えた服のまま山を2つ越え、3日はかかる距離だと聞いていた王都へ、空高く月が昇るころにはマレフィン様の棲家に着いてしまった。
明日はお尻が8つに割れていても不思議じゃない。
駄馬って言いたくなる気持ちがよぉーくわかった。
そしてもう限界、と意識を手放せば、そこはハルの部屋だった。




